第5話 初めての……
「ベッド……大きいな。そりゃそうか、二人で使えるように、セミダブルだっけ。二人でそういう事するように。」
どくんどくんと胸の中心が激しく打っている事が自信で理解しており、部屋の様子も相まって妙に緊張が増していく。
時は少し遡り浪漫が心菜と一緒に入って来た、女性専門ラブホテルの一室。
女性専門でもベッドの枕元には性行為には欠かせない避妊具の袋が、網模様の小物入れに収められている。
女性同士でも道具を使えばそういった事が必要となる。
また、店によるのかもしれないが、大人のおもちゃを使用する際には衛生面を考慮し、わざわざほぼ全ての道具に被せる事はある。
その場合、枕元に置いてある一つや二つでは足りないので、お店のキャストが持参しているのだが。
部屋の様子や備品にいちいち反応して顔を赤らめている浪漫は、こういったと事に来るのは初めてである。
中学時代の事件があってから、男性を恐怖の対象と認識してからは、性に関しては敬遠してきた過去がある。
リハビリと称して親友の小串と一緒に風呂に入り、身体に触れられ……それなりに耐性というか、理解は示すようになっていた。
荷物を置いて部屋を見渡す浪漫とは対照的に、キャストである心菜は湯船にお湯を張りに行っていた。
その前に再度自己紹介をし、プランの内容確認は済ませている。
「マロンちゃん、私が脱がそうか?それとも自分で脱ぐ?」
風呂場から顔だけを出してきた心菜が浪漫に訊ねる。
恥ずかしさからか、何を言ってるのかわからなかったのか、浪漫は風呂場を向いて固まっていた。
最初に待ち合わせ場所で会った時に、名前の確認と軽い自己紹介は済ませてある。
その際にいきなりいきなりプレイには入らないとは伝えていた。
後にしっかりと話した事ではあるが、過去に嫌な事があって男性が苦手だから性体験は未経験だと簡単に説明もしてあった。
あくまで男性とは……
その時点で浪漫はまだ戸惑いを感じていた。
このお店を予約したのも、ほぼ確定しているだろうけれど小串とお店のトリスが同一人物かを確認するのが最優先だったからだ。
自分の性対象が女性なら大丈夫なのか?というのは二の次だったのである。あくまでその時点では。
「そ、そっそそそ。」
その、と続けたかったのだろうが、浪漫は緊張と別の事を考えていたせいかうまく言葉に出せていなかった。
初めての利用という事がわかっているため、心菜は特に急がせたり緊張を煽る事はしなかった。
風呂場からゆっくりと姿を現すと、心菜は浪漫の正面に静かに立った。
「マロンちゃん、おいで?嫌なら都度言って良いから。本当にダメな時のNGワードもちゃんと言ってね。」
心菜は浪漫を抱き寄せて後頭部を優しく包み込んだ。小さな子をあやす母親のように。
「落ち着いた?」
しばらくして心菜が浪漫に訊ねる。
「いや、むしろ余計にドキドキバクバクしてま……す。あ、でも嫌だとかそういうのはない……です。」
優しく微笑むと心菜はそっと少しだけ浪漫を離す。ちょうど見つめ合えるように。
「じゃぁ、私が脱がすけど……ダメなら言ってね。本当は私が女の子を脱がすのが好きなんだけど、それを押し付けるのはよくないから。」
(わっ、わっ。ひ、人に脱がされるのは、家族と小串を除いたら初めて……)
中学時代の事件の事はノーカウントである。
胸元を開いたところで心菜の動きが一旦止まる。
「ひゃぁっ」
平たい断崖絶壁の中心部に心菜の唇が触れる。双丘であれば、谷に当たる部分である。
「ごめんね。ん~マロンちゃん可愛い声だね。もっといたずらしたくなっちゃう。」
少し演じているような心菜の様子。女性専門風俗店は別に性だけを満たすためのところではない。
何かを埋めるための場所なのである。
全てをまだ語っていない状況では、それぞれが今出来るモノを提供するしかない。何が求められ何が求められていないのか。
そういうのは一切関係なく、ただ性をむさぼりたい人も仲には存在する。
浪漫がいきなりの性を望んではいないため、心菜は良いお姉さんを演じようとしていた。
実際3つ程離れているので、お姉さんといえばお姉さんであるが。
気付けば下着のみのなっている浪漫と心菜。
同様している数秒の間に実に手際の良い捌きであった。
それから上下の最後の砦をどうにか取り払う事に時間を費やし、お互いに産まれたままの姿となった二人は今も湯船を満たそうと吐き出し続けるお湯の音のする風呂場へと入っていく。
湯気が仕事をするなんてのは、あれは嘘だ。あれは外気との温度差がなければ成立しない。
鏡が雲るのとはわけが違うのである。ましてやホテルの一室に備え付けの風呂場で、湯気が仕事をして重要な部分を隠すなんて事はありえない。
お互いにはっきりと生まれたままの姿を視認していた。
浪漫とは違い、やや膨らみのある二つのお山と、邪魔な森のない綺麗な谷と。
「わぁ、綺麗。」
「ありがと。」
浪漫が率直な言葉を漏らすと、微笑んで心菜が答えた。
仮にも風俗店に勤めているのだから、見栄えには気を使っているのは当然であった。
キャバクラほど話題に欠かさないようにしなければならないかは不明だが、普通の風俗と違い客は同じ同性であり、それなりに話題を持っていなければ仕事にはならない。
見た目も中身もそれなりに磨いていなければキャストは務まらないのである。それが店のNo1や2に上りつめるには。
シャワーからお湯を出すと、自らの手で温度を確認し、浪漫にもこれで大丈夫か確認をする。
何から何まで初めてな浪漫は、黙ってこくこくと頷いた。
「熱かったり冷たかったりしたらちゃんと言ってね。」
今が適温なのだとすれば、熱かったり冷たかったりと言うのは語弊がある。
プレイ後にも入浴するのだが、その時の事だけを指しているわけではない。
もし今後こういった店を利用する際にも通ずる事だから出た言葉である。
備え付けのボディソープで泡立てると、浪漫は綺麗にコーティングされ、シャワーのお湯によって剥がされていく。
その後、心菜は自分の身体も同じように泡で綺麗にすると、心菜は後ろから抱き抱えるように浪漫と一緒に湯船に浸かった。
「色々さわっちゃってごめんね。」
「い、いえ。別に触られるのは嫌では……なかったです。むしろ……」
「むしろ?」
かぁぁぁっと赤面し、浪漫は首を少し前に倒す。
腕をそっと前に絡ませ、浪漫を抱きしめ心菜は浪漫の耳元で囁く。
「自分に正直になって良いんだよ?」
抱きしめられて浪漫は、胸がじわ~っとあったかくなっていくのを感じていた。
これがNo.2の成せる包容力かと。もしくは自分はやはり女性ならば色々と大丈夫なのかと。
「……のぼせる前に出よっか。」
そしてバスローブに身を包んだ二人はベッドに腰を下ろし、浪漫が今日お店を利用するに至った経緯を話す。
男性が苦手になった過去と、女性なら性が大丈夫なのかと。
小串の事はひとまず置いておき、自然と心菜には話せてしまっていた。
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