第十一話 八百長騎手追放ゲーム決着

新堀シンボリ学園長視点〜






「くそう! 負けてしまった!」


 画面に表示されるゲームオーバーの文字を見て、ワシは思わず声を上げる。


 スキマ時間に軽く遊ぼうかと思って八百長騎手追放ゲームをオンラインで参加したが、まさか帝王のグループとマッチングするとは思ってもいなかった。


 敵対しているあいつと遊ぶなんてふざけているが、一度抜けて再びマッチング相手を探すまでにかかる時間を考えたら時間を無駄にしてしまうと判断し、仕方がなく帝王たちと遊ぶことにした。


 マイクが壊れていると嘘を付いてキーボード入力にしたことで、ワシの正体はバレてはいないと思う。


 それにしてもヤクザって難しい! 第3陣営で味方はいないし、帝王を思うように動かそうと白出したが上手くいかなかった!


 しかもゲームとは言え、このワシが2回も土下座をすることになるとは!


 まぁ、どんな手を使ってでも勝ちに行こうとした結果、使ってしまったのだから文句は言えぬ。


「さて、それでは気を取り直して東京優駿日本ダービーで帝王を倒すための作戦を考えるとするか。今回の負けは東京優駿日本ダービーで返させてもらう。首を洗って待っておれ、東海帝王トウカイテイオウ







東海帝王トウカイテイオウ視点〜






 ナゾナゾ博士に誘われて始めた八百長騎手追放ゲームも大詰めとなった。競馬で言えばゴール板まで残り100メートルで3頭が競い合っていると言った感じだろう。


 残っているのは俺と大気釈迦流エアシャカール、そして袖無衣装ロープデコルデだ。袖無衣装ロープデコルデは八百長騎手か騎手サイドの人間かを調べることが可能な裁決委員を名乗る貴婦人ジェンティルドンナ生徒会長とルドルフさんから白出しをされている。なので白であることは間違いない。そして俺の役職は騎手だ。


 つまり、残りの八百長騎手は大気釈迦流エアシャカールで間違いない。


 俺がこのゲームで勝つには、袖無衣装ロープデコルデをトーク力で味方にさせなければならない。


 だけど、俺と彼女はそこまで接点がない。上手く味方に付けなければ負けてしまう。とにかく先手必勝だ。


「勝負は決まっている大気釈迦流エアシャカールが八百長騎手だ。俺は騎手だからな。俺はお前に票を入れる」


「それは俺の方でも言えることだ。袖無衣装ロープデコルデが白確である以上、お前を疑うしかない。つまりどちらかの陣営が勝つかは、袖無衣装ロープデコルデに委ねられると言う訳だ」


「まさか、こんなに重要な役割がこの私に回ってくるとは思わなかったわ。そうね。なら、私を口説いてみてよ大気釈迦流エアシャカール


「はぁ?」


 袖無衣装ロープデコルデの言葉に、大気釈迦流エアシャカールは珍しくも間抜けな声を漏らす。いや、俺が彼の立場であっても、同じような反応をするだろう。俺だってクロたちから同じことを言われたら、彼のような反応をしてしまいそうだ。


「口説くことができないのなら、あなたに票を入れるわ」


「ちっ、そんなことを言われたら仕方がない。東海帝王トウカイテイオウが八百長騎手である理由として挙げられるのは、やつがルドルフを庇っていたからだ。ヤクザであるあいつを共犯だと勘違いした結果、手駒を失いたくないと思い、庇い続けた。これが、俺があいつを怪しんでいる理由だ」


「誰がそんなことを言えって言ったのよ?」


「いや、ちゃんと東海帝王トウカイテイオウの怪しい部分を指摘してお前にアピールをしたじゃないか」


「私の言いたいことが伝わらないなんて、本当にアレに関しては赤点よね。取り敢えず15点ってことで。それじゃあ東海帝王トウカイテイオウ、私を口説いてみて?」


「え?」


 思わず短い声が漏れる。


 口説けって言われても、殆ど接点がなかったからあんまり知らないぞ。大気釈迦流エアシャカールの失敗から察するに、ゲームに関係なく、彼女自身を褒めろってことなのだろうけれど、俺と彼女が初めて会ったのは大和主流ダイワメジャーの落馬事件の時、それ依頼は出会った記憶が多分ない。


 それなのに袖無衣装ロープデコルデの良いところを言って褒めろって無茶振りすぎるだろう! 何だよこのゲーム中に行われる罰ゲームは!


「えーと、変装が得意なところ……がすごいなぁって思う」


「3点ね」


 3点ってめちゃくちゃ低いじゃないか! これって50点満点? 100点満点だった場合はやばすぎるのだけど!


「分かったわ。それじゃ大気釈迦流エアシャカール、私のことを大好きって言ってみて」


「どうして俺がそんな茶番に付き合わないといけない」


「良いから。でないとあなたを追放するために票を入れるわよ」


「ちっ、面倒臭い。だが、ゲームで勝つにはお前に東海帝王トウカイテイオウの票を入れてもらう必要がある。袖無衣装ロープデコルデ、お前のことが大好きだ」


 大気釈迦流エアシャカールが発言した瞬間、彼の画面が1秒ほど白黒画面に変化した。


 え? この演出があるってことは、大気釈迦流エアシャカールは嘘を言っている。つまり……。


 あれ? 袖無衣装ロープデコルデが何故か泣きそうな顔になっていない? 目尻に涙が溜まっているような? それに表情も何だか暗い。


「言っておくが、俺はお前のことは大好きではない。だけど知り合いとして好きか嫌いかの2択であればもちろん好きだ。それは嘘偽りのない俺の本心だ」


 再び大気釈迦流エアシャカールが言葉を放つ。だが、今度は嘘の演出が起きなかった。つまり本音で語っている。


 彼の言葉が耳に入った瞬間、-袖無衣装ロープデコルデの表情がパッと明るくなったような気がした。


「ふーん、私のことが好きなんだ」


「だから知り合いとしてだと言っているだろうが! お前に恋愛感情は抱いていない!」


 2人のやり取りを見ていると、リア充爆発しろと言いたい気分になる。人が見ているところでイチャつかないで欲しい。


「それじゃあ、次は東海帝王トウカイテイオウね。大和鮮赤ダイワスカーレットのことを大好きって言って見て」


「なんでそうなるんだよ!」


 どうしてここでそんなことを言わないといけない。そもそも、彼女は前のターンに追放されてゲームオーバーとなったじゃないか。


 袖無衣装ロープデコルデの意図が読めないで困惑していると、議論の終了を知らせるファンファーレが鳴り始めた。


「あーあ、2人をおもちゃにして遊ぶ時間は終了か。もっと楽しみたかったのに」


「ふぅ、地獄の時間がやっと終わったか」


「お前の言葉に激しく同意する」


 罰ゲームに近い時間が終わったことで安堵すると、投票へと移行する。


 俺、負けたな。絶対に袖無衣装ロープデコルデから票を入れられる。


 ゲームオーバーになることをほぼ確信しながらも、俺は大気釈迦流エアシャカールに票を入れる。


 すると、その結果2票入ったのは大気釈迦流エアシャカールだった。


「ごめんね。私の直感のスキルが発動して大気釈迦流エアシャカールが嘘を言っていたことに気付いていたの。でも反応を見るのが面白いから、そのまま泳がせていたわ」


 まさかのカミングアウトに、俺は苦笑いを浮かべる


 この小悪魔娘が!


こうして最後の八百長騎手が追放されたことで、俺たち騎手側の勝利となった。

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