第二十九話 思い通りにいかないレース展開
〜
第2コーナーを曲がり、
東京競馬場の
仕掛けるのであれば今よ。でも、周りの騎手は何も仕掛けようとはしていない。きっとまだ様子見をしているのでしょうね。
ここで仕掛ければ、私たちの動きに釣られて速度を上げようとする騎手がいるかもしれない。特に誰も考えていないような行動を起こせば、それだけで他の騎手たちを翻弄させ、騎乗する愛馬に的確な指示を出せないようにすることができるかもしれない。
けれど、それは諸刃の剣となりそうね。
みんなが予想していないような行動を起こそうとするとなると、勝負を仕掛けるところを止めるようなタイミングで勝負を仕掛けなければならないわ。
そう、
でも、登り坂でスピードを上げるようなことをすれば、それだけでローブデコルテの体力を余計に消耗させ、ゴール前になって失速してしまう可能性だってある。
未勝利クラスや1勝クラスと言った低レベルのレースではありかもしれないけれど、猛者ばかりが集まるG Iレースでは通用しない。しかもこの場で走っているのはダイワスカーレットを除いて、歴代
同じようなことを考えているからこそ、みんな動けずにいる。
けれど、様子見ばかりしていては、先頭集団が有利。競馬は前を走っている馬が勝ちやすいのだから。
もう直ぐ登り坂に接近する。勝負を仕掛けるのであれば、今しかないわ。
この私が、戦況を動かしてあげる!
「
私は登録していたアビリティを発動させる。
馬が芝の上を走れば、足で地面を蹴った際に芝にダメージを与え、地面を掘り起こしてしまう。
特に内側が距離ロスをなくせる以上、殆どの馬が内側を走るために、回数を重ねる度に内側の芝が禿げて地面が剥き出しになり走りにくくなるのだ。
そのため状態の良い芝を走っている外側の馬が走りやすくなると言う現象が起きる。
このアビリティは、それを引き起こす力がある。
アビリティを発動したことで、芝に影響を与えることに成功した。柵に近い内側の芝がまるでそこだけが一気に時が経ったかのように芝が荒れ始め、内側を走っている馬の速度が遅くなったかのように感じた。
今がチャンス!
鞭でローブデコルテの体を軽く叩き、速度を上げるように促す。
私の合図を受け取ったローブデコルテは速度を上げ、先頭集団へと1馬身程前に進んだその時。
「まさか、ここで勝負を仕掛けてくるとは思ってもいませんでしたわ。でも、ここであなたに動かれるとこの場が乱れてしまいますの。ですから大人しくしてもらいますわ」
横を取り過ぎようとしたその時、隣を走っていた馬に騎乗していた女の子が声をかけてきた。
「
彼女が声を発した直後、速度を上げていたローブデコルテの速度が若干落ちて勢いを失う。
『なんだか急に体が重いわ。あなた、急に太った?』
「そんな訳がないでしょうが! あなたやってくれたわね!」
ローブデコルテにツッコミを入れつつ、今度は横から声をかけて来た女の子を睨む。
「
上品さを感じさせる口調で彼女が真名を告げる。
上品ながらも可愛さがあり、あどけなさを感じさせるその顔は、きっと周囲の人には癒しを与えるような存在になりそうな気がした。
この際あの子の真名とかどうでも良いわ。せっかく速度を上げて勢い良く坂を駆け上ろうと思っていたのに、作戦失敗してしまったじゃないのよ。
「あなたが作ってくださったこのチャンス、わたくしが使わせていただきますわ。ありがとうございます」
彼女が礼を言うと、速度が落ちたことで生じた隙間に入り込み、そのまま前に向けて走って行く。
くそう、まさか斤量を増やすアビリティを持っている騎手が居たとは想定外だったわ。
こうなってしまうと勢い良く坂を登るのは無理そうね。
このまま今の速度を維持したまま坂を登り、第3コーナーから第4コーナーにかけてある下り坂で勢いを付けるしかないわ。
今は再びチャンスを待つしかないわね。
思ったよりもトリッキーなアビリティを使う騎手が紛れていたわ。
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