第三十話 女帝とお姫様
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第3コーナーを曲がり、そろそろ第4コーナーだ。そろそろ俺も仕掛けるための準備をしておくべきだな。
「エアグルーヴ、十分に足を溜めているはずだ。ここから少しずつ速度を上げて行くぞ」
様子を伺うために後方待機していたが、そろそろ先頭集団に入らないとまずいと判断し、エアグルーヴに速度を上げるように促す。
『了解した。妾の末脚を多くの者に見せ付けてやる』
下り坂と言うこともあり、彼女の速度は徐々に上がり、少しずつ前に進んで行く。
『先頭は未だにノアノハコブネのまま、イソノルーブルとダイワスカーレットが追いかける展開となっております。更にその後をメジロラモーヌとカワカミプリンセス、そしてエアグルーヴが上がって来ました』
よし、先頭集団に入ることには成功したな。このまま外側の位置取りをキープしたまま最後の直線で一気に追い抜いてやる。
「あら? あなたはわたくしの騎士様ではないですか?」
「はぁ? 騎士だと?」
カワカミプリンセスの横に付ける形で走り、最後の直線に備えていると、カワカミプリンセスに騎乗している騎手が声をかけてくる。
だが、彼女の言動の意味を理解することができなかった俺は、思わず言葉が漏れてしまった。
「ええ、控え室でローブデコルテの騎手さんを庇う姿に、わたくしは胸を打たれましたわ。あなたこそ、わたくしが探し求めていた騎士様です。やっぱりか弱いお姫様には、守ってくださるナイトが居なければならない」
おっとりとした口調で語りかけてくる彼女の言葉を聞き、更に意味がわからなくなる。
こいつは急に何を言い出しているんだ? 今はレース中だぞ。
「このレースが終わったら、2人きりで食事に行きません? 実は三つ星を獲得したシェフが運営している最高級の品を出してくれるお店を予約しておりますの。高いところから夜景を見ながら、ノンアルコールのカクテルを飲みながら2人の未来について語り合いましょう」
本当にこいつは何を言っているんだ? レース中にナンパか全く意味が分からない。
『小僧! 何ぼっとしておる! 前が危ないぞ!』
カワカミプリンセスに騎乗している騎手の言動を理解できないでいると、エアグルーヴの声が耳に入り、我に返る。
前方を走っていたイソノルーブルがバテ始めたのか速度を緩め、目の前に居たのだ。
このままでは接触してしまうと判断し、手綱を素早く操ってエアグルーヴを外側に移動させるとイソノルーブルを躱す。
『レース中に気を抜くではない。この愚か者め!』
エアグルーヴの叱責の言葉を受け、歯を食い縛る。
俺としたことが、全然レースに集中できていないじゃないか。あの女、もしかして俺の集中力を切らせるためにあんなことを言ってきたのか。
その可能性は充分にあるな。集中力が切れた騎手は、咄嗟の判断力が鈍くなる。
ゴール前ではちょっとした判断ミスが負けに繋がってしまうのだ。
人気上位のエアグルーヴを勝たせないための、彼女の作戦だと思って良さそうだな。
これ以上はカワカミプリンセスの騎手が何を言って来ても集中しなければ。
彼女に対しての覚悟を決めると、握っている手綱を少しだけ強く握る。
「もう、わたくしとお話ししている時に邪魔をしないで欲しいですわね。それで、どうです? 2人きりで密会しませんか? もし、あなたが望むのであればもっと、い・い・こ・と・をして上げても良いですわよ」
追撃をかけるかのように、再び彼女が話しかけてくる。だが、一度現状を理解した俺には効果がない。そんなことで集中力を切られると思ったら大間違いだ。
「そんなことさせる訳がないでしょうが! この泥棒猫ならぬ泥棒馬が!」
後方から
「まさか追い付いてくるなんて! まだアビリティの効果は残っているはずですわ」
「そんなもの、根性でどうにかなるわよ」
『まるで自分のことのように言わないでよ……根性で走っているのは私なのよ』
やや疲れを見せているかのような口調でローブデコルテが呟く。
『確かに彼女の言うとおりだな。走っているのは馬の方であって騎乗騎手ではないぞ、小娘よ』
ローブデコルテの言葉に対して、エアグルーヴも反論に加わる。
「わ、私とローブデコルテは人馬一体、彼女の根性は私の根性のようなものよ!」
事実を指摘されて恥ずかしいのか、
「それよりも、この男なんて相手にしない方が良いわよ。そんなにナイト様が欲しいのなら紹介してあげましょうか? 私や
「ピッタリな訳がないですわ! そんな変質者なんて、視界にすら入れたくはないですわよ」
彼女たちの言葉が耳に入り、ちょっとだけ複雑な気分になる。
確かに
本当にいつになったら真面目に戻ってくれるのだろうな。俺の接し方が間違っていたのだろうか?
そんなことを考えていると、第4コーナーが迫っていることに気付く。
もうレースも終盤だ。ここから一気にレースが動き出す。
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