第二十四話 大和鮮赤と袖無衣装
〜
ちょっとした作戦会議を終えた後、あたしは控え室へと向かって行く。
扉を開けて中に入ると、数人は既におり、顔見知りも居た。
「とうとうこの日が来たわね。今日のレースで1着を取り、あなたよりも私の方が上であることを証明してあげるわ」
控え室の中に入るなり、銀髪のゆるふわロングヘアーの髪に、赤い瞳の女の子が声をかけてくる。
「
彼女は鋭い視線を向け、あたしのことを見てくる。
「そう、でも悪いけれど実力はダイワスカーレットの方が上よ。現役時代2着以下を取ったことがないダイワスカーレットに対して、ローブデコルテは3着以下が11回もある。それに今回の舞台でもある東京競馬場は、3戦中2戦が2桁着順で大敗しているじゃない。そのことを考えても、
「言ってくれたわね!」
あたしの言葉が癇に障ったようで、彼女は声を上げる。けれど、これくらいで怯むなら、最初からあんなことを言うつもりはないわ。
「ええ、言うわよ。だって、事実じゃないの。本当の歴史を言って何が悪いの? ダイワスカーレットやウオッカがもし、
「もう怒った! 絶対にあなたには負けないのだから! 競馬だった頃と霊馬競馬とでは天と地ほどの差がある。せいぜい現役時代の栄光に縋り付いていていれば良いわ。あなたは当時の騎手とは違う。彼女を……ダイワスカーレットを乗りこなせる訳がないわ」
「それはあなたも同じことが言えるでしょう? あなたの騎乗スキルが低いから、桜花賞ではあんな無様な着順になったじゃないの」
引く訳にはいかなかったあたしは更に挑発を行う。
すると、
あーあ、やっちゃったか。挑発しすぎたみたいね。このまま打たれたら彼女は出走取り消しになる。口喧嘩ではなく、レースで勝ちたかったけど、今からでは避けることができない。本当に残念な結果だわ。
「そこまでだ。もうやめろ」
打たれる覚悟で目を瞑った瞬間、あの男の声が耳に入った。頬には痛みを感じることなく、そっと瞼を開く。
あたしの視界に映ったのは、振り上げた
「お前たちの関係は知っている。だが、これ以上の喧嘩は看過できない。騎手であるのなら、口喧嘩ではなく、レースで決着を付けろ」
どうやら、お姫様のピンチに駆けつけた王子様が登場したみたいね。まぁ、エアシャカールは白馬ではないけれど。
「良かったわね。彼が止めなければ問題を起こしたとして出走取り消しになっていたわよ」
「あなたね!」
「やめろと言っているんだバカ共!」
「これ以上は問題を起こすな。他のみんなに迷惑をかけるようなら、2人の出走を取り消すように上に掛け合う」
「あら? 随分と優しいのね。有無を言わずにあたしたちを出走取り消しにさせた方が、あなたの優勝する可能性は上がるのに」
「お前たちが居なかったから優勝できたとは思われたくないからな。だからできる限りは抑止力に留めておきたい」
皮肉を含んだ口ぶりの彼の言動に拳を握る。
「そう、その選択が後悔とならなければ良いけど。でも、あたしはともかく
皮肉のお返しとばかりに、彼にも皮肉を返す。
こんなの、あたしのキャラではないけれど、
これ以上2人の近くにいたら本当に問題を起こすかもしれない。
そう判断したあたしは、彼女たちから離れ、1人部屋の隅に移動をすると背中を預ける。
しばらくすると、残りの騎手が控え室に入り、最後に解説担当の虎石が入ってきた。
「どうやら全員揃っているみたいですね。では、出走する愛馬の顕現をお願いします」
愛馬を顕現するように促され、一度軽く深呼吸をする。そして肺に空気を取り入れた後、声を上げて彼女を呼び出す。
「出てきなさい! ダイワスカーレット!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます