第二十二話 告白現場を見て

大和鮮赤ダイワスカーレット視点〜






 突然に起きた予想外の告白イベントを目の前にして、あたしはどうすれば良いのかが分からずに、その場に立ち尽くすしかなかった。


 え、え? ただ宣戦布告をするだけじゃなかったの? 告白って聞いていなかったわよ。


 チラリと魚華ウオッカの方に視線を向ける。彼女もあたしと同様に固まっていた。


「ちょっと待った!」


 そんな中、茶髪の一部がボサボサでアホ毛のように飛び出ている男が、この場の空気を気にしないで声を上げる。そう、あたしの大っ嫌いな周滝音アグネスタキオンがこの空気をぶち壊した。


袖無衣装ローブデコルテちゃんは、僕の交配相手だよ! 大気釈迦流エアシャカールに寝取られてたまるか!」


 この男はこんな場面でも変態発言をするのかい!


 彼の言動に怒りを覚えたあたしは咄嗟に周滝音アグネスタキオンの足を踏む。


「ぎゃああああぁぁぁぁぁ! 大和鮮赤ダイワスカーレットちゃん! 足が痛い! や、やめて! グリグリしないで!」


 やめるように懇願する彼だが、あたしがこの足をどかせば、また袖無衣装ローブデコルテにちょっかいを出そうとするかもしれないわ。ここはあたしが文字通り足止めをしておかないと。


「チッ、周滝音アグネスタキオンうるさいぞ。静かにしろ。大和鮮赤ダイワスカーレットもやめろ。そいつが暴走したら、全力で止めてやるから」


 足を退かすように言われる。けれど、この男の言うことを素直に聞くのは嫌なのよね。周滝音アグネスタキオンの幼馴染と言うこともあるからか、あんまり好きになれない。


「ぎゃああああぁぁぁぁぁ! もうダメ! 一周回って目覚めてしまう! 痛みが快感になってきた!」


 うわっ、キッモ! こいつがこれ以上変態になったら今以上にやばいわ。


 彼の発言に鳥肌が立ってしまったあたしは、咄嗟に足を離す。


「足が痛いけど、初めて大和鮮赤ダイワスカーレットちゃんに触れて貰ったような気がする。ちょっとだけ嬉しいかも」


 ダメだ。この変態は病院へと連れて行った方が良さそうだわ。


大気釈迦流エアシャカール周滝音アグネスタキオンを精神病院に連れて行った方が良いんじゃないの?」


「連れて行ったところで無駄だ。俺もこいつの性癖が異常だと思って、精神病院に連れて行った。だが、検査の結果、特に障がいとなるような病気は見つからなかった」


「その医者がモグリだったんじゃないの?」


「俺もそう思っていくつかの病院へと連れて行ったが、担当した医者は全員が口を揃えて正常だと言いやがった」


 どうやら彼が連れていった病院の医者は頭がおかしいわね。この男を見て正常だと言うなんて。


「ゴホン! とにかく話はこれくらいにしよう。袖無衣装ローブデコルテ、校門まで送ってやるから自分の学園に帰れ」


「わ、分かった。でもさっき私が言ったことは覚えておきなさいよ。絶対にあなたを惚れさせてやるのだから」


 大気釈迦流エアシャカール袖無衣装ローブデコルテを送ることを告げ、2人が屋上の扉へと向かって行く。


 しかし、数歩足を動かしたところで大気釈迦流エアシャカールが立ち止まり、踵を返してあたしの方を見てくる。


「あ、そうだ。袖無衣装ローブデコルテ見倣みならえとまでは言わないが、少しは積極的に行動をした方が良いぞ。俺とは違って東海帝王トウカイテイオウは鈍い。ああ言うタイプは積極的に好意を伝えないと異性として意識してもらえない」


 サラリとアドバイスをして再び踵を返し、袖無衣装ローブデコルテと共に屋上から出て行く。


 どうしてあなたがそのことを知っているの!


 思わず心の中で叫ぶ。


 え? え? あたしってそんなに態度に出ていたの? 周りに気付かれないように普段通りのあたしでいたはずなのに。


 突然東海帝王トウカイテイオウのことを言われ、心臓の鼓動が早鐘を打つ。そんな中、魚華ウオッカがあたしの肩に手をおいた。


大和鮮赤ダイワスカーレット、あんたは隠しているつもりのようだが、バレバレだ。アタイが気付いているくらいだ。きっとクロや明日屯麻茶无アストンマーチャンも気付いているだろうさ。だが、安心しろ。アタイはアンタの味方だ。そしてひとつアドバイスをするとすれば、今はあの男が言ったことは気にするな。今、東海帝王トウカイテイオウに積極的になろうとすれば、優駿牝馬オークスに集中できなくなる。あいつの狙いはそれかもしれない」


 あたしの味方になってくれると言ってきた彼女のアドバイスは、確かに的を射ていた。


 確かに、優駿牝馬オークスまではあまり時間が残されていないわ。


 今の状態で東海帝王トウカイテイオウを意識していたら、レースに集中できない。あたしの目標は、現役時代ダイワスカーレットが成し遂げられなかった牝馬三冠を霊馬として実現させること。


 今はレースのことだけを考えるべきだわ。


 べ、別に東海帝王トウカイテイオウとより親密な関係になることに対して臆している訳ではないのだからね。あくまでも、目標を達成するために、余計な思考をしない方が良いと言う判断のもとに下したのだから。


 誰にも言われていないのにも関わらず、心の中でそう呟く。


 って、何を考えているのよ! これじゃあたしはツンデレキャラみたいじゃない!


「だ、大和鮮赤ダイワスカーレットちゃん! 今あいつの言った言葉は本当かい! 君の好きな人って東海帝王トウカイテイオウなの! パパは許さないからね! 娘は誰にもやらない!」


「アタイの背後に立つんじゃねぇ!」


「グハアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!」


 どうやら勢い良く詰め寄ったことで、魚華ウオッカの背後に立ってしまったらしく、背後の気配に敏感な彼女が周滝音アグネスタキオンを蹴り飛ばした。


 屋上の床に倒れ、彼は痛みに悶絶している。


「オチが付いたことだし、あたしたちは教室に戻りましょうか。そろそろ授業のチャイムがなる頃よ」


「確かにそうだな」


 こうしてあたしたちは周滝音アグネスタキオンを置いて屋上から出て行く。

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