第十三話 霊馬騎手戦隊登場

新堀シンボリ学園長視点〜






ワシはコスモス賞の映像を見て、拳を震わせていた。


 カブトシローが八百長に使われていたのは驚きだったが、それであれば、ワシがこれまで馬券を外し続けていたのにも納得がいく。


 ワシは前走でカブトシローが活躍し、今回も活躍するだろうと思ってカブトシローの単勝を買ったレースは負け、前走が凡走したから期待していない時に限って1着を取ると言うケースが頻繁に起きていた。


「くそう。カブトシローの騎手め! 八百長をするとは騎手の鑑にもおけないやつだ! あんなクズは、停学ではなく退学にして騎手資格を剥奪すれば良いものの、甘い! 甘すぎる!」


 カブトシローに騎乗した騎手の処遇に不満を漏らす中、ワシはエアグルーヴの走りを思い出す。


「それはさておき、まさかあの大気釈迦流エアシャカールがあそこまで苦戦するとは、いくら優れた騎手であっても、ライバルたちからの包囲網とコンビネーションには手を焼いてしまうと言う訳か」


 そう呟いた瞬間、まるで天啓であるかのように、脳裏にとあるアイディアが思い浮かぶ。


「そうだ! この作戦は使える! 例えあの東海帝王トウカイテイオウでも、他の騎手と馬の妨害に遭い続ければ、思うようなレース運びはできないはずだ!」


 そうだ。これまでは律儀に刺客を1人ずつ派遣していたから負けたのだ。刺客が2人、3人であれば、協力し合って帝王を倒してくれるはず。


 そうだ。これだ。これだったのだ!


 数の暴力と言う言葉もあるように、どんなに強い力を持っていても、数で抑えれば良いのだ。


「次の東京優駿日本ダービーの刺客はBNWだ」


 早速タブレットを操作し、3人を呼び付ける。


 30分程すると、部屋にノックする音が聞こえた。おそらく呼び付けた3人だろう。


「良いぞ! 入って来い!」


 扉の反対側に聞こえるように、声音を強めて入室の許可を出す。すると扉が開かれて3人の男子学生が奇妙な入室の仕方をしてきた。


「とう!」


「とう!」


「おりゃ!」


 2人は跳躍すると空中で1回転して左右に分かれ、残った大柄の男はでんぐり返りで前に来る。そして大柄の男は立ち上がるとポーズを決め始めた。


「逃げの脚質! 霊馬ホワイト!」


「追い込みの脚質! 霊馬ブラウン!」


「差しの脚質! 霊馬ブラック!」


「「「3人合わせて! 霊馬騎手戦隊! BNW!」」」


 入室するなりヒーローの決めポーズを始める3人組に思わず声を失う。


「ちょっと、ちょっと! 新堀シンボリ学園長! そこは『BNW、良くも現れたな。今日こそはお前たちを倒してくれる!』って言うところじゃないか!」


「本当にノリが悪いな。せっかくの悪人顔が台無しじゃないか」


「それだから一部の人間から『最近の新堀シンボリ学園長はヘイトを溜める悪役キャラのはずが、小物に成り下がっている』とか『新堀学園長はギャグキャラ化していて昔の嫌な感じがなくなる』とか言われるんだぜ」


 霊馬ホワイト、霊馬ブラウン、霊馬ブラックがワシのノリが悪いことで好き放題言ってくる。


 何! ワシ、裏でそんなことを言われているの? 誰だ! ワシを小物やギャグキャラと言ったやつは! 後でワシはそんなものではないと説教してやる!


「と、言う訳でテイク2といこうか。新堀シンボリ学園長、今度こそちゃんとやってくれよ。時間は金で買えないのだから」


 最もなことを霊馬ホワイトが言うと、彼ら3人は扉から廊下に戻り、そして再びノック音が耳に入ってくる。


 これは先程指摘されたことをしないと話が先に進まないパターンだな。やつが言う通り、時間は金では買えない。貴重な時間を無駄に消費する訳にはいかない。


 面倒だが、あいつらの遊びに付き合うしかないか。


「良いぞ! 入って来い!」


 もう一度入室の許可を出すと、先程と同じように3人がヒーローの登場シーンを再現するような登場の仕方で入って来る。


「逃げの脚質! 霊馬ホワイト!」


「追い込みの脚質! 霊馬ブラウン!」


「差しの脚質! 霊馬ブラック!」


「「「3人合わせて! 霊馬騎手戦隊! BNW!」」」


「BNW、良くも現れたな。今日こそはお前たちを倒してくれる!」


 ワシはヒーロー物に出てくる悪役に成りきって言葉を放つ。


 これでよし、これでこいつらも満足しただろう。これで話を進められるはずだ。


「プ、アハハ、アハハハハ! 何真面目に言っているの! ノリ良すぎ! だからギャグキャラになってしまうんだよ。アハハハ!」


 霊馬ブラックのバカにする言葉に、思わずカチンとなった。


「お前たちがノリが悪いと言ってやり直させたのだろうが! 大人を揶揄うな! 退学にされたいのか!」


 呼び出した彼らに怒りの声をぶつけ、肩で息をする。


 いかん。大声を上げたことで血圧が上がってしまったようだ。若干気分が悪くなる。


新堀シンボリ学園長で遊ぶのはこの辺にして、本題を聞こうぜ。このおっさんに付き合っていたらヒーロー俳優になるための訓練をする時間がなくなる」


「そうだな。ホワイトの言う通りだ」


「だね! そう言う訳で新堀シンボリ学園長、俺たちを呼び出した理由はなんなの?」


 怒りで頭の血管が切れそうになるも、自身を落ち着かせる。そして時間はかかったものの、本来の話をすることにした。


「お前たちを呼び出したのは他でもない。今年の東京優駿日本ダービーはお前たち3人に出場してもらう。そして3人で協力し合い、東海帝王トウカイテイオウを倒すのだ」


東海帝王トウカイテイオウって100番のことだよね? 何故か懐かしく思うよ」


「あいつと会うのは入学試験の地獄の合宿以来だな。96番も確かトレイセント学園だったな」


 確か、霊馬ブラウンと霊馬ブラックは入学試験の時に東海帝王トウカイテイオウと同じグループだったと聞いたことがある。


「良いか! 昔馴染みだからと言って、手を抜くなよ! ホワイト! 1学年上の先輩であるお前がしっかりとこいつらを先導するのだ」


「分かっている! 正義のヒーローが最後に勝つのがお約束だ。きっと東海帝王トウカイテイオウを倒して見せる」


 今度の東京優駿日本ダービーはBNWが相手だ。きっとこいつらならあの男を倒してくれるはず。


「盛り上がっているところ悪いのだけど、東京優駿日本ダービーの前に優駿牝馬オークスがあることをお忘れなく。ちゃんと私が出られるように手配しているのでしょうね」


 女子生徒の声が聞こえ、そちらに顔を向ける。いつの間にか、扉のところに1人の女子生徒が立っていた。


「もちろんだ。樫の女王の称号を持っているお前が出られないはずがないだろう」


「そう、なら安心したわ……大和鮮赤ダイワスカーレット、今度こそあなたを倒し、私が上であることを証明してやる」

 

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