第十話 策士策に溺れる

大気釈迦流エアシャカール視点〜






 兜城カブトシローたち八百長組のアビリティコンボを受け、エアグルーヴのバッドステータス【光による混乱コンヒュージョンコーズドバイライト】が発動してしまった。


 その影響により、彼女は錯乱して走りが乱れてしまっている。


 このままではまずいな。今回用意したアビリティは、他馬に影響を与えるアビリティを多めに装備させていたが、念の為に用意していたアビリティを使うとするか。


任意能力アービトラリーアビリティ【冷静沈着】」


 アビリティを発動し、エアグルーヴに鞭を打つ。


 東海帝王トウカイテイオウも使っていた【冷静沈着】、こいつは受けたデバフの効果を打ち消すことができる。恐らくだが、これでバッドステータスを止めることができるはずだ。


『見える! 妾の目が見えるようになった! 己、小賢しい真似をしよって。女帝を怒らせたらどうなるのか、目に物見せてくれる!』


 どうやらエアグルーヴのバッドステータスを消すことができたみたいだな。だが、また同じ手を使われる可能性がある。


 全員がバラバラのアビリティを装備しているとは限らない。もしかしたら八百長組全員が同じアビリティを装備している可能性だってあり得る。


 また同じコンボをされては、今度こそ競走中止に追い込まれてしまうだろう。


 だが、解決方法はある。あのコンボは【引き寄せる魅力】でエアグルーヴの視線を集め【輝く光】で彼女の目に光を当て、バッドステータスを誘発させる。


 なら、視線を向けさせなければ良い。馬の視界は真後ろを除いて330〜350度見渡すことができる。視線を向けさせない方法は、先頭ハナに立つことだ。


 だが、仮に前に進んだとしても、追い抜こうとしたタイミングでコンボ技をしようして来る可能性がある。


 この作戦を実行するには、相手の意表を突いて、できた隙を利用して前に出るしかない。


 けれど、兜城カブトシローは俺を妨害して食い止めると言っていた。簡単には抜かせてくれないだろうな。


 だが、それでもやるしかない。このままではあいつの思う壺だ。


『各馬、第3コーナーを曲がって第4コーナーに差し掛かかっています。先頭のメジロパーマー苦しいか。徐々に後方待機組が距離を詰めているぞ』


 札幌競馬場1800メートルの特徴である、逃げ馬がバテ始める展開となってきたか。


 今回の出走馬は、逃げ先行が多い。


 逃げ馬がバテ始めれば、集中力が切れてアビリティ発動もワンテンポ遅れるかもしれない。賭けに出るなら今だ。


「行け! エアグルーヴ! 任意能力アービトラリーアビリティ【女帝のカリスマ】」


 アビリティを発動し、彼女の体に鞭を打つ。


『牡馬共! 妾に魅了され、追いかけて来るが良い!』


 アビリティを発動した瞬間、エアグルーヴの走る速度を上げ、外側から前を走る馬を追い抜こうと試みる。


 任意能力アービトラリーアビリティ【女帝のカリスマ】は、女帝と言われるような牝馬のみに使用可能なアビリティだ。自身の速度を上げ、その走りに魅了された牡馬も速度を上げると言うアビリティだ。


 発動するタイミングは難しい。何せ、自分だけではなく、相手も強化してしまうのだから。だが、逃げ馬が多く、レースの後半戦でバテ始めるこのタイミングなら有効活用することができる。


 エアグルーヴが速度を上げると同時に、牡馬も走る速度が上がった。もちろん、牡馬であるカブトシローもエアグルーヴを追いかけ始める。


「くそう! エアグルーヴを前に行かせるな! お前ら! やってしまえ!」


任意能力アービトラリーアビリティ【引き寄せる魅力】」


任意能力アービトラリーアビリティ【輝く光】」


 前方の馬と並走し始めたタイミングで兜城カブトシローが指示を出し、内側を走る先程とは違う馬に騎乗した騎手が同様のアビリティコンボを発動する。


『妾の目が見えなくなると思ったか! 愚か者め! 同じ手は通用しない』


「悪いな。お前のコンボは攻略済みだ」


 アビリティを発動された直後、口角を上げる。


 光と言うのは、直接当たるから強烈に目が眩む。だが、壁越しであれば、目に入る光の量が軽減され、目が眩むことはない。


 内側を走る逃げ馬がバテ始め、各馬固まった状態になれば、外側を走る俺たちよりも内側を走っている馬が壁訳となる。


「お前たちは俺の計算通りの動きをしてくれる。言い換えれば、扱いやすいバカと言うことだがな」


「何がバカだ! 絶対に勝たせねぇ!」


 俺の挑発に乗り、兜城カブトシローが声を上げる。


 そんな中、俺たちは次々と前の馬を追い抜き、それを阻止しようとカブトシローが追いかけ、2番手に出る。


「いや、バカだろう? 俺に注目しすぎて、周りが見えていないじゃないか。お前の真の勝利条件を忘れているだろう? こんなに前に出て大丈夫なのか?」


 俺の言葉が聞こえたのか、兜城カブトシローは一瞬無言になる。おそらく、察した今の彼は顔色が悪くなっているだろう。


「しまったああああああぁぁぁぁぁ! 俺が前に出たら、八百長の意味がないじゃないかあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ」

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