第八話 狙われた女帝

大気釈迦流エアシャカール視点〜






『各馬がゲート入りを完了するまでの間、このコーナーと行きましょう。中山と!』


『トラちゃんの!』


『『馬券対決!』』


『はい、始まりました。毎回恒例の馬券対決のコーナーです。では、まず私こと中山から購入した馬券を発表ですが、今回はワイドを購入しました。ワイドは3着以内に入る馬の番号を当てる馬券ですが、今回は9番のメジロパーマーと11番ゴールドシチーの組み合わせを1点、そして2着以内に入る枠番の馬を当てる枠蓮、こちらを7―8で買いました』


『枠連ですか? なぜ馬連ではなく枠連の方を?』


『馬連の場合は、2着以内に来る馬の組み合わせを買う馬券ですが、番号が的中していないと当たりません。今回は10番のカブトシローも2着争いに来るのではと考えているのですが、その場合は買い目の点数が多くなり、外れた場合のショックの大きさを考慮して、保険として馬連ではなく枠連にしました。もちろん、的中した場合の払い戻し額は馬連よりも少ないですが、外れるよりはマシです。では、トラちゃんの予想はどうでしょうか?』


『はい、私は4番のエアグルーヴの複勝を一万ポイント分購入しました。エアグルーヴと言う馬は、4と言う数字と相性が抜群なのですよね。生前の成績を調べて見たところ、4枠からの出走した場合、100パーセント3着以内に来ているデータがあります。そして馬券外になったのはたったの2回しかないと言う実力から、1着もあり得ると考え、単勝の方も買わせていただきました』


『なるほど、物事を判断するには17の見方が大事だと言われていますが、様々な角度から予想してみると面白い予想方がありますね。皆さんの馬券はどうでしょうか? 今後の予想の参考にしてみるのも良いですね。では、ちょうどゲート入りが完了したようです』


『今回は通常のレースと言うことで、特別な映像は用意されていませんので、ご了承ください』


 中山と虎石の声が聞こえなくなり、一度深呼吸をしてゲートが開くのを待つ。


 その数秒後、ゲートが開き、俺は直様エアグルーヴに合図を送った。


『今ゲートが開きました。逃げ、先行馬が多い中、どの馬が先頭ハナに立つでしょうか』


 今回のレースはどちらかと言うと逃げ先行馬が多い。通常通りであれば早いペースとなる。だが、1番人気はカブトシローだ。


 基本的に競馬は1番人気馬がマークされる。1番人気の馬が逃げ、先行であれば早いペース。そして1番人気の馬が差し、追い込みであれば遅いペースになる傾向にある。


 やつは今回負けるつもりでいるところで考えると、今回は差しの脚質で来るだろう。そうなれば、全体的なレース展開はスローペースとなる。


 スローペースの場合、有利となる脚質は先頭を走る逃げ、先行馬だ。全体的に遅いため、逃げ馬が自分のペースで走り、そのまま逃げ切り勝ちをしてしまうパターンがある。


 今回のレースは勝つことが勝利条件ではないとは言え、上手くやらなければ兜城カブトシローの思い通りとなりそうだな。


『おっと、スタート直後に落馬が発生しました! 12番のフリートークが落馬です!』


『G I3着、G IIIを2回1着と言う成績から、そこそこの人気でしたが、落馬してしまったものは仕方がありません。フリートークを絡んだ馬券は無効となりますので、投げ捨てないでください』


 思考を巡らせている中、フリートークが落馬をしたと言う知らせが耳に入ってくる。


 やりやがった。開始直後の落馬は時々起きる。この段階でわざと落馬をしても、がっかりする者は居ても不審に思う者は居ないだろう。


 これも巧妙に引っ張り八百長を成功させる策だ。だが、騎手の命も賭けているため、あまり割に合わない。上手く受け身を取れれば良いが、変に落馬した場合、病院に直行だ。いくら多めに2、3万ポイントを賄賂として受け取っていたとしても割に合わないはず。


『スタート直後のトラブルが起きましたが、レースは続行されます。先頭ハナを主張し合っているのはウインアグライアとナイママ、そして外枠からメジロパーマーも追いかけています。その後をマチカネアカツキ、ネームヴァリューが走っています』


『全体的にゆったりとしたペースとなっていますね。これは逃げ、先行が有利な展開となっています』


『1馬身差でエアグルーヴとアイアムザプリンス、その内側をナリタファースト、そしてナムラアースが追いかけ、2馬身差でカブトシロー、ゴールドシチーの順番となっています。各馬固まった状態となっています』


 さて、まずはなるべく内側を走ってエアグルーヴの体力を温存するか。最後の直線で外側に移動して最後に差す。今のところはこの作戦で問題はないだろう。


 思考を巡らしつつもレースに集中し、仕掛けどころを探る。


『くっ、アイアムザプリンス、お前、妾に近すぎないか? もう少しで接触してしまうぞ!』


『…………』


 接触ギリギリまで幅寄せをしてきたアイアムザプリンスに対して、エアグルーヴが注意を促す。だが、彼女の言葉なんて聞こえないかのように、何も返答をしない。


『これだから地方に降格した馬はいやだ。マナーと言うのを何も理解しておらぬ』


『…………』


 エアグルーヴが挑発らしき言葉を述べるも、彼は何も反応しない。まるで走ることだけに集中しているかのように。


「おい、もう少しで接触してしまうぞ! ちゃんと考えて走れ」


「嫌だね。俺の仕事はお前を大負けさせることだ。ここまで近ければ、思うように動くことができないだろう?」


 こいつ、兜城カブトシローの仲間か。


「言っておくが、お前の邪魔をするのは俺だけではないぜ。俺たちの包囲網をどうやって突破していくかな? まぁ、無理だと思うが」


 ニヤついた笑みを浮かべるアイアムザプリンスの騎手に対して、多少の苛立ちを覚える。


 だが、逆に面白い展開になった。


 なるほどな。作戦であれば仕方がないところだ。だが、逆にこの状況を打破してやつの作戦を打ち破った場合、相当精神にダメージを与えることができるだろう。


 まだレースも始まったばかりだし、焦る必要はない。必ず突破口はあるはずだ。

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