第七話 コスモス賞

 〜大気釈迦流エアシャカール視点〜






 兜城カブトシローたち、八百長組みが出て行ったあと、俺も下見所パドックへと向かって行く。


 カブトシロー、中央競馬界史上最大と言われた八百長事件に使われた馬だ。騎乗騎手がヤクザと手を組み、裏で盤面を操ってレースを行っていたらしい。


 八百長の手段としては、色々な方法があるが、俺が兜城カブトシローに言われたように、賄賂を渡されて八百長に参加するケースが多い。


 それにしてもカブトシローが相手か。面白いな。新聞が読める馬と競う日が来るとは。


 カブトシローは競走馬の中では扱いが難しいと言われている。その理由は人気が上がると負け、人気が低いと勝って穴を開ける傾向にある馬だからだ。


 人気があると凡走し、人気がない時に好走することから、新聞が読める馬とも呼ばれている。


 このような傾向にあることからも、八百長事件に利用されたのかもしれないがな。


 主な勝ち鞍は天皇賞・秋と有馬記念、どちらもG Iレースであることから、実力もある。


 能力的に考えれば、人気は高くなるだろう。そう考えると今回のレースは、やつは負けるつもりだ。そして大穴の馬に勝ちを譲り、自分が大儲けをする。そのように考えているはず。


 なら勝利条件は決まっている。やつを勝たせ、馬券を外させる。それが今回のレースで俺が勝利と言える状態だ。


 本当に面白いレースだ。この俺が、敢えて負けるレースをしようと言うのだからな。


 下見所パドックに辿り着き、エアグルーヴと周滝音アグネスタキオンのところに向かう。


「どうだ? エアグルーヴの調子は?」


「悪くはないと思うよ。でも、観客たちが1番注目しているのはカブトシローぽいね。多分、エアグルーヴは2、3番人気になりそう」


『ふん、妾の魅力が分からないとは愚かなことよ。まぁ良い。女帝の走りがどれほどのものであるのか、妾の単勝馬券を買わなかった者に知ら示してやろう』


 どうやらエアグルーヴの人気は悪くはないが、1番人気とまではいかないようだな。


「そうだ。やっぱりこれをあいつに渡してくれないか? やっぱりピアスをしたまま走るのは邪魔になりそうだ」


 耳に付けている特注で作った馬の装飾が施されたピアスを外し、周滝音アグネスタキオンに手渡す。


「分かった。渡しておくよ。それで、君の勝率はどれくらいあるんだい?」


「俺の勝率、それは決まっている0パーセントだ」


「はぁ?」


 周滝音アグネスタキオンが少々間抜け面で言葉を漏らす。


 それもそうだろう。今までのレースで、俺の勝率は95パーセント以上と言えるように仕上げている。それが0パーセントなんて言えば、誰だってあのような顔をするだろう。


「ごめん、どうやら聞き間違えたみたいだね。もう一度聞くけど、君の勝率は何パーセントだい?」


「だから0パーセントと言っているじゃないか。言い方を変えれば、馬券内に入る確率は97パーセントだ。俺は今回のレースで全力を出して負けてみせる」


大気釈迦流エアシャカールの頭がおかしくなった! きゅ、救急車を呼ばないと! レースどころではないよ! 早く頭の精密検査を受けさせないと! やっぱり馬券を外し続けたショックで脳がやられたんだ!」


「やめろ! 俺は正常だと言っているだろうが!」


 声を荒げ、タブレットを取り出そうとした彼を止める。


 くそう。レース前に余計な体力を使ってしまったじゃないか。


「とにかく、俺は今回のレースは出走するからな。お前はお前の役割をしろ。それに、競馬は勝つことが全てではない。時には敢えて負けることも大事だ」


「分かった。君が何を考えているのか、分からないのはいつものことだし、信じるよ」


「そうしてくれ。それじゃ、行って来る」


 エアグルーヴに騎乗し、俺と彼女はコースへと向かって行く。


 エアグルーヴに騎乗した俺は、誘導馬の後を付いて行く。そして芝のコースに出ると返し馬を初め、軽く走らせてウォーミングアップをさせる。


 よし、久しぶりの騎乗だが、彼女の調子は悪くないな。


『小僧、久しぶりのレースだが、ちゃんと妾のアシストは頼むぞ』


「分かっている。勝たせてやると約束はできないが、好走はさせてやるさ」


 今回のレースは、基本的にエアグルーヴ個人……いや、個馬の実力のみで頑張ってもらうことになるだろう。俺が今回用意したアビリティは、彼女をサポートする系ではなく、他の馬をサポートするアビリティをセットしている。


 返し馬を終え、屋根付きのポケットと呼ばれる場所にエアグルーヴを向かわせ、彼女の昂った気持ちを一旦リセットさせる。


 ポケット内を何周もさせ、気持ちが落ち着いたと思われる頃に丁度発走時刻が近付き、ゲート前へと移動させた。


 エアグルーヴの番号は4枠4番だ。


 因みに奇数番号よりも偶数番号、そして偶数番号よりも大外枠の方が若干有利だと言われている。その理由はゲート内に入るのが遅いからだ。


 ゲート入りの順番は①先入馬②奇数番号③偶数番号④大外枠の順番が基本であり、先に入った馬はゲート内に居る時間が長い。


 馬と言うのは、どちらかと言うと狭い空間を苦手とする。だからゲート入りを嫌がる競走馬が度々出てくる。


 先に入った馬は、それだけ長い時間狭い空間に閉じ込められることになるので、ストレスを感じてパフォーマンスが低下する恐れがあるのだ。


 先に先入馬、そして奇数番号の馬が次々と入り、偶数番号となったタイミングで俺とエアグルーヴもゲート入りを行う。


「もう直ぐ発走だ。気合い入れて行くぞ。エアグルーヴ」










出走ゲート一覧

1枠1番   ウインアグライア

2枠2番   ナイママ

3枠3番   ナムラアース

4枠4番   エアグルーヴ

5枠5番   マチカネアカツキ

5枠6番   ネームヴァリュー

6枠7番   アイアムザプリンス

6枠8番   ナリタファースト

7枠9番   メジロパーマー

7枠10番  カブトシロー

8枠11番  ゴールドシチー

8枠12番  フリートーク




本日の販売馬券

単勝……1着を当てる馬券


複勝……3着までに入る馬を当てる馬券


応援馬券……単勝と複勝の効果を持つ馬券


枠連……1着と2着になる馬の枠番号の組み合わせを当てる馬券(組み合わせとして合っていればO K。1着と2着の着順は関係ない)

(例)1着12番、2着3番、3着2番の場合、3枠-8枠


馬連……1着と2着になる馬の馬番号の組み合わせを当てる馬券(組み合わせとして合っていればO K。1着と2着の着順は関係ない)

(例)1着12番、2着3番、3着2番の場合、3番-12番


馬単……1着と2着になる馬の番号を着順通りに当てる馬券(着順通りに当てないと的中しない。)

(例)1着12番、2着3番、3着2番の場合、3番▷12番


ワイド……3着までに入る2頭の組み合わせを馬番号で当てる馬券(組み合わせとして合っていればO K。1着と2着の着順は関係ない)

(例)1着12番、2着3番、3着2番の場合、3番-12番、2番-12番、2番-3番


三連複……1着、2着、3着となる馬の組み合わせを馬番号で当てる馬券(組み合わせとして合っていればO K。1着と2着の着順は関係ない)

(例)1着12番、2着3番、3着2番の場合、2番-3番-12番


三連単……1着、2着、3着となる馬の馬番号を着順通りに当てる馬券(着順通りに当てないと的中しない。)

(例)1着12番、2着3番、3着2番の場合、12番▷3番▷2番






今回のオッズ


人気順               倍率

カブトシロー            2.6倍

エアグルーヴ            3.1倍

ゴールドシチー           5.7倍

メジロパーマー            8.3倍

フリートーク           10.3倍

ウインアグラア          12.4倍

ネームヴァリュー         20.3倍

マチカネアカツキ         21.5倍

ナリタファースト         33.2倍

ナイママ             55.8倍

ナムラアース           72.8倍

アイアムザプリンス        82.7倍


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