第六話 兜城の復讐

 〜大気釈迦流エアシャカール視点〜






「そんなこと決まっているだろうが! あいつらはバカである故に、俺たち騎手に対しての仕打ちが最悪だからだ!」


 怒りと憎悪で顔を歪ませながら、兜城カブトシローは声を上げた。


「騎手に対しての仕打ちが最悪だと?」


「ああ、お前にも心当たりがあるはずだ。俺たちは騎乗する愛馬のために一生懸命に走っている。なのに、予想を外したやつは、馬券を外したのを俺たち騎手のせいにするんだ。中には平気で死ねなどの暴言を吐いてくるやつもいる。馬券を外したのは、あいつらが真の予想ができないバカだからなのに、それを俺たちのせいにする。俺たちはお前を儲けさせるために走っているのではない! 騎乗する愛馬を勝たせてやるために共に走っているんだ!」


 怒りで声を上げる言葉には、僅かながらも突き刺さるものを感じる。


 俺にも心当たりがある。馬券内に来ることができずに暴言を吐かれたことなど、一度や二度ではない。


 だけど、だからと言って復讐するのは間違っている。


「俺たちは愛馬と共に夢を見て霊馬騎手を目指した。入学試験の地獄の1ヶ月間、耐えて耐えて、耐え尽くして、やっと掴んだ夢だと言うのに、あいつらは俺たちの苦労を何ひとつ分かってくれない」


「そうだ! そうだ! 地獄の1ヶ月間、飯は薄い味付けの料理しか出ず、マヨネーズなんて脂肪の固まりのような調味料は一切使えなかった中、ご飯に醤油と塩胡椒を振りかけて食べるのが最高のご馳走に思えるほどの食生活だったことをあいつらは知らない!」


「隠れてお菓子なんて食べているのが見つかれば、連帯責任で全員が数時間正座させられて、競馬法を暗記させられもした」


「俺なんて教師から殴られたこともあるぞ! 『どうしてお前を一番に呼んだか分かるか? お前が一番口を割りそうだからだ』とか言って、隠れて食べていた犯人探しの特定のための犠牲にさせられた!」


 兜城カブトシローの言葉をきっかけに、それぞれが実体験を語っていく。


 確かに、俺たちが入学試験を受けた時はそんなことをする教師も居た。だが、それはルールを破ったお前たちが悪い。


 薄味の料理が不味く感じたのは同意するが、それはあくまでも騎手になるために必要な体重を維持するためだ。


「俺たちは地獄の入学試験を突破して、やっと夢だった霊馬騎手になれた。だが、そんな苦労があったとは知らないバカは、馬券を外したと言うくだらない理由で、俺たちを傷付ける暴言を吐きやがる! だから復讐してやるんだよ。あいつらが汗水垂らして稼いだ金を慰謝料として奪い取ってやる」


 暴言を吐いた馬券購入者への怒りと犯行の動機を語ると、兜城カブトシローは手を差し伸べてくる。


「俺たちがどうして引っ張り八百長をするのかが分かっただろう。お前も協力してくれないか? 報酬はさっき言ったように相場の3倍やるから」


「確かに、俺たちのことを良く知らない外部の馬券購入者から暴言を吐かれたことは何度もあった」


 右手を前に出し、兜城カブトシローの手の横に持って行く。そして手と手が触れた瞬間、勢い良く彼の手を弾いた。


「だが、お断りだ。誰がお前たちのような犯罪に手を貸すか。いくら過去に不良となって腐っていた時期があったとしても、今の俺は風紀委員長だ。犯罪に手を貸す訳がないだろうが!」


 目を細め、鋭い目つきで兜城カブトシローを睨み付ける。


「交渉不成立って訳か。まぁ良いぜ。そっちのパターンも考えていた。俺の未来のビジョンには然程影響は起きないだろう。だがな」


 兜城カブトシローが俺の肩に手を置く。


「レース中は何が起きるのか分からない。落馬で命を落とした霊馬騎手もいる。無事にゴール板を駆け抜けることが出来れば良いな」


 彼の言葉を聞いた瞬間に鳥肌が立った。


 こいつ、レース中に何か仕掛けてくるつもりか。確かに犯罪計画を知った俺は邪魔な存在だろう。事故と見せかけて殺すことを考えていても不思議ではない。


 俺の肩から手を離すと、兜城カブトシローはそのまま扉の方へと向かい、そして部屋から出て行く。彼に続いて他のメンバーだと思われる騎手たちも部屋から出て行った。


 今回のレース、色々な意味で油断できないレースとなりそうだ。


「そろそろ時間だな。俺も下見所パドックに向かうとするか」







 オマケコーナー


 文字数が少ないので、ここからはオマケコーナーです。もしもシリーズをお楽しみください。


『もしも、兜城カブトシローたちが体育会系のノリだったら』







「交渉不成立って訳か。まぁ良いぜ。そっちのパターンも考えていた。俺の未来のビジョンには然程影響は起きないだろう。おい、お前たち集まれ! 円陣を組むぞ」


 そう言うと、兜城カブトシローは八百長メンバーを集め、円陣を組み出した。


「みんな準備は良いか!」


「「「「「おう!」」」」」


「バカ共から今回も金を毟り取って行くんでよろしく!」


「「「「「よろしく!」」」」」


「俺はお前たちのために! お前たちは俺のために、ワン・フォー・オール! オール・フォー・ワン!」


「「「「「ワン・フォー・オール! オール・フォー・ワン!」」」」


「行くぞお前ら! ウオオオオオオオオォォォォォォォォ!」


「「「「「ウオオオオオオオオォォォォォォォォ!」」」」」


 威勢良く声を上げ、兜城カブトシローたちは部屋から出て行く。この場に取り残された俺はポカンと空いた口が塞がらないままこの場に立ち尽くすのであった。


                      オマケシリーズもしも◯◯だったら 


 終わり

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