第五話 9割のバカ
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「復讐だと?」
「ああ、馬券を買う9割りのバカへの復讐さ。あいつら本当にバカだよな。自分たちが汗水垂らして稼いだ金を使って勝者に献上しているのだから」
競馬は参加者同士で集めた金の奪い合いだ。25パーセントの控除を引いた残りの75パーセントの金を参加者同士で奪い合い、勝者に分配される仕組みだ。
公営ギャンブルと呼ばれる競馬は、100ポイントで購入した場合、15ポイントは運営の利益、そして残りの10ポイントは国の利益となる。つまり、馬券を購入した段階でその馬券の価値は75ポイントに下がってしまう。
1000ポイントで購入した場合は150ポイント分が運営に、そして100ポイントが国の利益になる。
つまり、勝者に分配される金は、敗者の金から頂いている形となるのだ。この形は霊馬競馬となっている現在でも引き継がれている。
「競馬をやっている9割の人間は1割の勝者の養分になっていることに気付かずに、馬券を購入している。負けたことに対して感情的になり、負け額を取り戻そうとして予定外のレースにまで賭けて、その結果、予想を外して負け額を増やす。それ以外にも、どうして予想を外したのかを深く考えずに次のレースにも賭けるから、同じ失敗を繰り返すこともしている」
「ああ、思い出してしまったぜ。賢い振りをしたバカもいたな。えーと、なんだ? 仁徳とか言ったか? 負け額を減らすために競馬の負けパターンを調べて降格ローテに行きつき、実践したその日はまぐれで回収率が300パーセント越えをした。だが、調子に乗ったことが原因で2周連続降格ローテが失敗し、せっかく儲けた金を全て吐き出してしまったと言うバカだ」
降格ローテ、そんな戦略もあったな。
公式ではないものの、実は各競馬場にはランク付けがされている。
Aランク:京都競馬場、阪神競馬場
Bランク:中京競馬場、小倉競馬場
Cランク:函館競馬場、札幌競馬場
Dランク:新潟競馬場、福島競馬場
Eランク:東京競馬場、中山競馬場
降格ローテを簡単に言うと前走がランクの高い競馬場に出ていた馬がランクの低い競馬場に出走して来た際に狙う戦法だ。
競馬には、西高東低と言う言葉がある。馬を管理している施設が関東と関西に一つずつあるからだ。
東を拠点にしている美浦トレーニングセンター、西を拠点にしている栗東トレーニングセンターと言うものがあり、競走馬はそのどちらかに所属している。
そしてどうして西高東低と言う言葉ができたのかと言うと、施設の差によるものだ。
栗東には、急勾配な坂のコースがあるが、美浦には急勾配の坂が存在していない。そのため馬にかかる負担のレベルが違い、栗東の馬のほうが自然とレベルが上になる傾向にあるため、西高東低と呼ばれるようになった。
輸送するのにも色々な理由があるため、なるべく拠点が近い競馬場で競走馬を走らせるのだが、そのため、強い馬は強い競馬場に、弱い馬は弱い競馬場に集中する傾向にある。
極端な言い方をすると、Aランクで走って敗れた馬が次走でEランクの競馬場に出て1着を取る。なんてことが起きる。
これが人気薄の大穴の馬が馬券内に来る原理だ。
だが、これにも罠がある。この競馬場を利用した降格ローテは、
競馬場以外にも年齢による降格ローテ、性別による降格ローテ、ハンデ戦による降格ローテなど様々な方法があり、これらの中には芝のレースで有効となる降格ローテも存在している。
「しかも降格ローテの馬を軸にした結果、軸馬が馬券外になって全ての馬券が外れる始末、本当に笑えるよな! 本当に才能がないっての! さっさと辞めて貯金したほうが良いんじゃないの。本当に滑稽だよな。アーハハハ!」
降格ローテのことで思考を巡らしていると、
仁徳と言う人物に心当たりはなく、俺のことをバカにされている訳ではないのでノーダメではある。だが、他人の悪口と言うのは、聞いていて気分が良いものではない。
「降格ローテで調子に乗ったバカは痛い目に遭って、今は騎手の枠順と勝利数と言うテーマで研究しているらしいが、さてさて、どっちに転んだのだろうな? アハハハハ!」
こいつの言う9割のバカと言うのがどのような存在と言うのかは分かった。碌に勉強をせずに金儲けをするために運に任せる奴らのことを言っているのだろう。
競馬はギャンブルではあるが、頭脳戦だ。
他者よりも多くの知識を身に付けて様々な情報から馬券内に来る馬を予想することで、少ない数で的中率を上げることができる。
俺がデータ競馬をメインにしているのも、データから答えを導き出せるからだ。
「お前の言う9割のバカは理解した。だが、それと復讐がどう関係すると言うのだ?」
「そんなこと決まっているだろうが! あいつらはバカである故に、俺たち騎手に対しての仕打ちが最悪だからだ!」
先ほどまで嘲笑っていた表情を一変し、怒りと憎悪で彼の顔が歪む。
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