第二十四話 旅行最終日
ハルウララが期待するようなラッキースケベのようなことなど起きることもなく、1日が過ぎた。
今日はとうとう旅行の最終日と言うことで、宿のチェックアウトを行うと、俺たちの前に観光大使の母親である女将さんが挨拶に来た。
「皆様、この度はとう旅館をご利用していただき、誠にありがとうございます。また縁がありましたら、ぜひご利用ください」
「とても快適な空間で寛ぐことができました。この宿は気に入ったので、また利用させていただきます」
「ええ、もし、新婚旅行などで苫小牧に来ることがありましたら、とう旅館をご利用いただければ、大サービスをさせていただきます」
女将さんの言葉に苦笑いを浮かべてしまう。
この女将さん商売が上手いな。大サービスを餌にして、もう一度来させようとしている。さすが観光大使の母親と言ったところか。
「そうですね。もし、結婚相手ができるようなことが起きれば検討させていただきます」
さすがに行かないとは言えないので、曖昧に答える。
「あ、そうでした。皆様にお土産をご用意してあります。つまらないものですが、受け取ってください」
女将さんが手を叩いた瞬間、どこかに控えていたのか、スタッフの方が手にお土産の品を持って列を作り、次々と俺に手渡してくる。
その量は両手に持てない程の量であり、おそらく金額で言えば数十万ポイント分はあるのではないかと思われる。
俺に対しての投資がエグくないか? どれだけ苫小牧に来させたいんだよ。
しかしここまでしてもらって、ノーと言える勇気は俺にはない。
またどこかの機会にでも、苫小牧に訪れなければならないな。
お土産の品はみんなで分けて、学園に送ってもらうことにした。届いてから、それぞれの家族にお土産として渡すつもりだ。
「皆様はこれから帰られるのですか?」
「いえ、最後にノーザンホースパークに行ってから帰ろうかと考えております」
「そうなのですね。では、無事に学園に戻られることを心から祈っております」
女将さんが頭を下げると、他のスタッフの方も一斉に頭を下げる。
全員でお見送りの形となっているからか。他の宿泊客が驚いているのが視界に入る。
いや、俺たちはビップや有名人ではないのだから、写真を撮らないでくれ。
居心地の悪さを感じ、俺たちは急いで宿を出ると、次の目的地へと向かった。
「ここがノーザンホースパークか」
『目的地に着いたけど、私は納得していないよ! どうして私たちが居るのに、霊馬を見に行くのさ! 浮気か! 浮気相手を探しに行くのか! ここは街コン会場ではないぞ!』
ノーザンホースパークに辿り着くなり、ハルウララが文句を言い始める。
いや、何が浮気だよ。そもそも霊馬召喚していない相手と、どうやって契約を結ぶって言うんだ。
的外れな言葉に小さく息を吐き、俺たちはとりあえずぶらつくことにした。
「お客さん、連休の思い出に乗馬体験などどうですか? 一生に一度かもしれない霊馬に乗ると言う思い出作りしてみませんか?」
敷地内を歩いていると乗馬体験をしてみないかとスタッフの方から声をかけられた。
霊馬の乗馬体験、確かに一般人からしたら貴重な体験だけど、俺たちは日常茶飯事だからな。
スタッフの声かけに思わず苦笑いを浮かべてしまう。
『せっかくだから乗ってみれば? 他の霊馬に乗る体験なんて、あんまりないのだし』
あれ? さっきと言っていることが違うじゃないか?
急な心変わりに違和感を覚えつつも、ハルウララの言うことにも一理あるなとも思う。
まぁ、ハルウララが良いのなら別にいいか。
「そうですね。では、お願いします」
スタッフの方に体験することを告げると直ぐに騎乗する霊馬たちがやってくる。
一番近い馬に乗ってみるか。
『帝王、何やっているの? あなたが乗るのは私だよ?』
「え?」
横からハルウララの声が聞こえ、横に首を曲げる。すると、ハルウララがヌイグルミから飛び出し、俺の横に居た。
「お前、何やっているんだよ」
『だから乗馬体験だよ』
「乗馬体験って。さっき、他の霊馬に乗るなんて体験あんまりないと言ったのはお前じゃないか」
『あれはクロちゃんたちに対して言ったの! 帝王は浮気の前科があるからダメ! 1万歩譲ってトウカイテイオーは許すけど、これ以上浮気相手を増やすのは私の許容範囲外! 帝王の本命軸は私!』
はぁー、結局こうなってしまうのかよ。これじゃあ、貴重な体験が台無しだな。
「すみません、こいつがやきもち焼いているので、俺はこいつに乗って良いですか?」
「え、ええ。構いませんよ。霊馬騎手の方だったのですね。なら貴重な体験ではなかったですね」
スタッフの方に気を使われてしまった。なんだか申し訳ないし、後でレストランの方で昼食を取らせてもらおう。
俺はハルウララに騎乗し、クロたちは他の馬に騎乗してコース内を散歩することになった。
普段はハルウララと走っているが、こうして自然を感じつつ散歩感覚で歩くのは新鮮味を感じるな。
その後コース内を一周して戻って来ると、ハルウララは直ぐにヌイグルミの中へと戻って行く。
そしてその後も似たような展開となった。
観光馬車はハルウララが対抗して俺だけ彼女が引っ張る馬車に乗り、ハッピーポニーショーもハルウララが割り込んでポニーたちよりも目立っていた。
まぁ、妨害してしまったが、観客たちも喜んでくれたと言うことで、お咎めなしだったのが唯一の救いだ。
その後、レストランで昼食を取り、楽しい時間を過ごした俺たちは、学園へと戻って行く。
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