第二十一話 遊戯室のゲーム

 旅館の料理を食べた後、俺たちは軽く運動でもしようかと言う話となり、遊戯室に向かう。


「温泉の定番と言えば、卓球よね!」


「そうですねぇ、ハルウララを審判役としてぇ、ちょうど2対2のダブルスができますぅ」


「誰が相手になろうと負けないわよ。勝つのは、あたしとペアになった人だから」


 クロたちのそんな会話をしている声が耳に入ってくる中、俺は遊戯室の扉を開けた。


 部屋はちょっとしたゲームセンターとなっているようで、レースゲームやメダルゲームのようなものがあった。


「すみません、ここに卓球はありますか?」


「申し訳ございません。とう施設には、卓球系のゲームは置いてありません。作り物の馬に乗って遊ぶレースゲームや競馬を体験できるメダルゲームなどはありますが」


「そ、そうなのですか」


 卓球はなく、馬関連のゲームはあると言われ、苦笑いを浮かべる。


 さすが元騎手の経営する旅館だけあって、そっち系のバリエーションは豊富なようだ。


「卓球はないらしいけど、どうする?」


「うーんどうしようか?」


「でもぉ、せっかく来たのですからぁ、何か遊んでいきたいですねぇ」


「そうね。せっかくだから、何かして遊びましょうか。何があろうと1番はこのあたしが取ってみせるわ」


 明日屯麻茶无アストンマーチャン大和鮮赤ダイワスカーレットが遊ぶつもりのようだし、ここは彼女たちの意見を尊重するとするか。


「俺も2人に賛成だな。せっかく来たのだから、何かして遊ぶとしよう」


『賛成! 賛成! 私あれがやりたい!』


 ハルウララが走り出し、とあるゲームの前に行く。


 彼女が遊びたいと言い出したのは、作り物の馬に乗ってレースをするレースゲームだ。


 普段から霊馬に騎乗しているが、ここでも作り物とはいえ、馬に跨ることになるとはな。


「でも、どうやってお前が遊ぶのだよ。全然届かないだろう?」


 ヌイグルミの大きさでは、どうやっても届かない。そもそも、ヌイグルミから出て霊馬の姿になったところで馬に跨ることはできない。


『うん、だから見ているだけ。私の代わりに帝王が乗って』


 つまり、どんなゲームなのか興味があるだけと言うわけか。まぁ、ハルウララがそれで良いのなら1回だけ遊んでみるか。


 タブレットを操作して100ポイントを支払い、ゲームを起動させる。すると、画面にはプレイヤー名を決める画面へと変わった。


『帝王! 帝王! プレイヤー名は私が決めて良い?』


「まぁ、良いが」


 ハルウララを抱っこすると、操作盤の前に近付ける。彼女は器用に前脚で操作盤を入力し、俺の名前を入力した。


『さぁ、帝王のプレイヤー名はスケベニンゲンだ!』


「「ブッ!」」


 ハルウララがスケベニンゲンと言った瞬間、俺とクロが同時に吹き出す。


 いかん、この前のオンラインゲームを思い出してしまった。さすがに偶然だと思うが、まさかよりにもよってスケベニンゲンかよ。


 既にプレイヤー名は決まってしまった。なので、取り消すことはできない。


 一時の恥となってしまうが仕方がない。このゲームをプレイする間だけの我慢だ。


 画面が進むと、1人プレイだけではなく2人プレイも可能のようで、対戦相手を待っていますと表示がされる。


「2人対戦ができるんだ。なら、せっかくだから私もやってみようかな?」


 クロがタブレットを操作すると、入金したようで作り物の馬に跨る。そしてプレイヤー名を入力していった。


 プレイヤー名は、彼女のニックネームでもあるクロだ。


 対戦相手が決まり、レースが始まる。


 どうやらステージは中山競馬場芝2500メートルの有馬記念のようだ。


『各馬ゲートへと入っていきます。まもなく有馬記念の発走です』


 ゲームから音声が流れてくる。


『今回注目されるのは、8番に騎乗するスケベニンゲンと1番の馬に騎乗するクロ騎手の手綱捌きに注目が集まっています』


 このゲーム、入力したプレイヤー名を読み上げるのかよ!


 ゲームからスケベニンゲンと言う言葉を聞く度に恥ずかしくなる。ハルウララが決めたこととはいえ、高校生のプレイヤー名がスケベニンゲンって、羞恥心で冷静ではいられなくなりそうだ。


 とは言え、ゲームに集中すればそんなことは気にしなくなるだろう。ゲームが終わった後、死ぬほど後悔するかもしれないが、仕方がない。


『ゲートが開きました。各馬、一斉に走っていきます』


 ゲートが開き、俺は普段通りの体勢を取る。軽く腰を浮かせ、馬の背中に尻を付けないようにした。


『先頭は8番に騎乗するスケベニンゲンが逃げる展開となっております。続いて1番に騎乗するクロ。続いて3番、5番、7番の順番で最初のコーナーを曲がっていきます』


『スケベニンゲンがクロちゃんに追いかけられている! スケベニンゲンである帝王がクロちゃんに追いかけられているみたい』


 ハルウララの声が耳に入り、力が抜けそうになった。


 頼むから、お前は黙っていてくれ。


 ハルウララの妨害に遭う中、俺は騎乗している中違和感がどうしても拭えなかった。


 ゲームと霊馬競馬は全然違うものだと理解しているが、アビリティなどが使えないと、どうしても物足りなさがある。


 やっぱり、激しい攻防がないと、今の俺は満足できないみたいだ。


 その後も1番は俺、2番手をクロが走る中、最終直線に入る。


『最終直線に入ったまま、8番の馬は逃げ続けております。2番手の1番は追い付くことができるのでしょうか?』


『うーん、このままだとスケベニンゲンが1着で終わりそうでつまらないな。よし、罰ゲームをしよう。勝った方が負けた方の言うことをなんでも聞かせるってことで!』


「お前、何を言って……うわっと」


 ハルウララが罰ゲームを言った瞬間、1番の馬が急に前に出始める。


 そんなに罰ゲームを受けるのが嫌なのかよ。まぁ、俺も嫌ではあるがな。


『ここで1番の馬が前に出ましたが、その差は半馬身ほど、まだ8番も差し替えせられるでしょう。鞍上のスケベニンゲンの手綱捌きが上か、それとも1番に騎乗するクロが上か!』


『ス・ケ・べ! ニーンゲン! ス・ケ・べ! ニーンゲン!』


『クーロ! クーロ!』


 ゴール目前となってゲームが盛り上がり、プレイヤー名をゲームが叫ぶ。


 このタイミングでスケベニンゲンコールはなしだろう!


 俺とクロのレースは接戦となった。だが、最後の最後で力が抜けてしまい、ハナ差で俺は負けてしまったのだ。


 まさか、敵は味方に居たとは、ハルウララがプレイヤー名を入力していた段階で、俺の負けは確定していたのだな。

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