第十三話 3枠のバッドステータス
ゲートが開いた瞬間、俺はハルウララに走るように合図を送る。だが、彼女はワンテンポ反応が遅かった。
『あ、ごめん。集中しないといけなかったのに、あっ!』
ゲートが開いたことに気付いたハルウララが走り出そうとする。しかしスタート直後に躓いたようで、スタートダッシュに失敗してしまった。
その時間はおそらく1秒未満。だが、たった1秒でも出遅れると大きなタイムロスになってしまう。
『3番ハルウララが大きく出遅れてしまいましたが、それ以外はまずまず揃ったスタートです。激しい先頭争いの中、どの馬が
大きく出遅れてしまった以上、最初の先頭争いは諦めるしかない。今はなるべく好位を取ることを考えるべきだ。
そのためには、最低中段グループに食い込んでおく必要がある。
「こんなところで使うつもりはなかったが、仕方がない。アビリティ発動! 【スピードスター】!」
ハルウララに鞭を打ち、
『最初の先頭争いを勝ち取ったのはエスポワールシチー、半馬身差でシャア、その後ろをフリオーソとタマモストロングが並走しております。2馬身程離されてハッピースプリント、その隣をミッキーヘネシーが走っており、ここで上がって来たのはハルウララ』
よし、どうにか中段グループには入ることができた。外側から他の馬が追い上げて挟まれない限りは、最後の直線で勝負することができそうだ。
そう思っていた。だが、心の中で思っていたことがフラグであったかのように、俺たちの隣を並走するかのように1頭の馬がやってきた。
『続いて速度を上げてきたのはホッコータルマエ、スタートがやや遅れましたが、好位を走っております』
「これは、これは、ハルウララの騎手ではないですか。こんな位置で大丈夫ですか? 船橋は先行できないと負けますよ。では、お先に失礼します」
ホッコータルマエの騎手、観光大使が嫌味を言うと、一気に俺たちを追い抜き、先頭集団へと向かって行く。
『帝王、私たちも先に急ごうよ』
ハルウララの提案を耳にして、俺は歯を食い縛りながら思考を巡らせる。
確かに船橋競馬場は先行できないと不利だ。
でも、ハルウララは元々最後の直線で追い抜く差しが得意だ。今無理に前に走らせては、最後にスタミナ切れを起こす可能性がある。
元々、先行するのはスタートダッシュに成功した場合だ。失敗して出遅れた今は、切り替えて通常通りの走りに専念した方が良い。
何事も無理をしては失敗するリスクを大きくするだけ。やっぱり、馬群がバラけるスパイラルカーブを勝負どころにするべきだ。
「ハルウララ、悪いがその提案には乗れない。今はチャンスを待つべきだ」
『先頭集団にホッコータルマエが食い込んで来ました。後方集団にはベストウォーリアー、タガノビューティー、それとゴールドドリームが控えている状態です。それでは先頭に戻りましょう。先頭は依然エスポワールシチー、続いて――』
第1カーブを曲がって第2カーブに向かって行く。
だけど、まだチャンスは見えない。第2カーブをすぎて
「ホッコータルマエ、加速です。
『
「ここで、更に差を開きましょう。
『食らえ! 俺の渾身の妨害を!』
「させるか!
『見える! 私にも見えるぞ! 当たらなければどうってことはない』
『そんな! まさか俺の泥団子が躱されるなんて!』
『戦いとは、二手三手先を考えて行うものだ。当たらなかったのは、君の騎手が坊やだからさ』
様子を伺いながら前方の様子を見ていると、ホッコータルマエが砂を蹴り上げた際に水分を含んだ砂を利用して後方のシャアに妨害を仕掛けた。しかし呆気なく躱され、不発に終わっている。
先頭集団は争いあっているな。互いに潰し合ってくれれば、チャンスが生まれてくれるはずだ。
あいつらの戦いに巻き込まれないように、今は一定の距離を空けていた方が良さそうだ。
『最初の前半800メートルを通過、時計は48秒と早い時計となっております。隊列は縦長の状態。これは、後続の差し返しは厳しいレースとなるでしょう』
エスポワールシチーの速度が早い。さすがかしわ記念優勝回数3回の優勝候補だ。でも、このまま逃げ切り勝ちをさせる訳にはいかない。
「ハルウララ、アビリティなしで速度を上げられそうか?」
『厳しいけれどやってみるよ。でも、サポートはお願いね』
「ああ、最後の直線が大勝負だ。それまで頑張ってくれ」
『ここで先頭集団にハルウララが食い込んできました。第3コーナーを曲がり、第4コーナーへと向かっていきます』
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