第十四話 アビリティ発動?サトノダイヤモンドの悲願
『先頭はエスポワールシチー2馬身のリード、続いてホッコータルマエ、3番手をシャアが走って、1馬身差でハルウララ、その後がベストウォーリアーが追いかけている形となりました。各馬第4コーナーを曲がって最後の直線に入ろうとしています』
ホッコータルマエとシャアがやり合っているが、そのせいでエスポワールシチーが自分のペースで走ってしまっている。このまま競り合うことができなければ、やつが1着でゴールをしてしまう。
ホッコータルマエもシャアも互いを牽制し合うことに夢中になっている。ここは、俺たちがエスポワールシチーを食い止めなければ、独走を許してしまう。
勝負は最終コーナーに入ったスパイラルカーブだ。
距離を縮めることができないまま最終コーナーのスパイラルカーブへと入っていく。
スパイラルカーブは、カーブの緩い3コーナーではスピードが落ちず、スピードを維持したままきつい4コーナーに侵入するため、馬群がバラける。それにより、差し馬が進路を確保しやすくなる。
カーブを周りながら遠心力を利用し、外枠の良い場所に進路を確保する。
俺たちの走る進路は馬の足跡がない。綺麗な平坦で、凹凸がない分、ハルウララは走りやすいはずだ。
「ここで更に前に出るぞ! ハルウララ! アビリティ発動!【ピンチをチャンスに】!」
ここでレース前に購入した
俺はどのアビリティも切り捨てることができずに悩んでいたときに、ハルウララのコントと言う名の助言で先に購入すべきアビリティを探した。
その時に見つけたのがこのアビリティだ。
このアビリティは、最終直線に入った時に先頭から引き離され、好位にいた場合のみに発動することができる。
発動条件は難しいが、上手く噛み合った場合の威力は凄まじい。馬のやる気を引き出してスタミナを回復して速度を上げ、デバフを受けても効果を1度だけ打ち消すことができる。
この1枚で下位互換ではあるが、スピードスターと闘魂注入、更に冷静沈着の3つの効果を得ることができる。
『先頭はエスポワールシチー、だが後方から追い上げて来たのはハルウララだ!』
『させるか! 霊馬になってもかしわ記念の覇者はこの俺だ! かしわ記念は全て馬券内だった実力を思い知らせてやる!
『先頭のエスポワールシチーが引き離しにかかります。かしわ記念優勝回数3回、2着1回、3着1回の安定の軸馬の維持で、このまま1着を取りに行くのか!』
「優勝するのは苫小牧のアイドルホースであるホッコータルマエです。ここで負ける訳にはいきませんよ! ホッコータルマエ、あなたの本気を見せなさい」
『
『ここで3番手だったホッコータルマエが一気に追い抜く! エスポワールシチーを躱し、先頭に躍り出た!』
『生前の屈辱をここで晴らす!
ホッコータルマエに追い抜かれ、シャアにまで接近させられている。このままではまずいな。なら、切り札を使うまでだ。
「ダイワスカーレット! お前の力を貸してもらうぞ! |絆アビリティ発動!【
絆アビリティを発動した瞬間、ハルウララが物凄い末脚で加速を始める。
『この私が追いつけないだと! あの牝馬は化け物か!』
『ふんーだ!
『3番手だったハルウララがエスポワールシチーを躱して2番手にまで上り詰めた! しかし、ホッコータルマエとは2馬身差! このままホッコータルマエが逃げ切るのか! それともハルウララが差すのか!』
観客席が近付き、応援する客たちの声援が耳に入ってくる。
くそう。ハルウララが伸びない。このままでは2着で終わってしまう。
残ったアビリティ
このアビリティはサトノの冠名から始まる馬はG Iレースに勝てないと言うジンクスを、サトノダイヤモンドが打ち破った実話が元になったアビリティ、その効果はジンクスを打ち破る効果を発揮する。
しかし、発動していない以上、発動条件を満たしていないと思っていた方が良い。
そもそもどうやってジンクスを打ち破ると言うのだ。
今の状況では、絶対に打ち破る未来は見えてこない。
ゴールまで100メートルを切った。このままでは2着で終わる。
やっぱり、3枠の馬はかしわ記念で勝つことはできないと言うジンクスを打ち破ることはできないのか。
ハルウララ、ごめん。どうやら俺たちはここまでのようだ。
《諦めるのはまだ早いよ!》
負けを覚悟した瞬間、ハルウララの声が聞こえたような気がした。だが、ハルウララは懸命に走っている。言葉を話せる余裕はないはずだ。
不思議な声に驚いていると、どこからか強風が吹き出す。
「アビリティ発動! 【逆風】!」
どうやら後方にいるシャアに騎乗している騎手がアビリティを発動したようだ。
え! このタイミングで俺のアビリティも発動しただと!
強風が吹いた瞬間、俺の【サトノダイヤモンドの悲願】が発動する。
これでジンクスに打ち勝つ力を発揮することができる。
だが、喜んだのにもかかわらず、何も起きない。
何も起きないじゃないか。まさか不発か?
不安が押し寄せる中、前を走るホッコータルマエに騎乗している観光大使の勝負服の中から、1枚の布切れが現れ、空中に舞う。
「ああ! お母様からいただいた手作りのホッコータルマエハンカチが! あれを失くす訳には行かない! アイキャンフライ!」
ゴール目前に観光大使が飛んで行くハンカチへと手を伸ばしていく。
まさか、あのハンカチを取ろうとしているのか! あの体勢のままでは転落してしまうぞ。
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