第九話 アビリティ選びは大変

 3枠の馬は勝てないと言うジンクスを打破するために、俺は今回のレースで使用するアビリティを厳選することにした。


 まずは俺が持っているアビリティを確認しよう。


 任意能力アービトラリーアビリティは【スピードスター】【闘魂注入】【冷静沈着】の3つ。


 自動能力オートアビリティは【マイル適性】【登山大好きっ子】【芝適性】の3つ。


 そして絆アビリティ【先頭への拘りオブセッションウィズバトル】だ。


 かしわ記念は、1600メートルのマイル戦と言うこともあり、【マイル適性】は絶対に必要だ。今回はダートとだから【芝適性】は装備させる必要はない。


 そして速度を上げる【スピードスター】もいるだろう。ハルウララは差しだが、今回は先行しての走りをすることになる。そうなると、最後の直線でスタミナ不足により最後に差されてしまう可能性だってあり得る。なら【闘魂注入】も入れておくべきだよな。


【冷静沈着】はどうだろうか? 前回はこれのお陰で助かったけれど、今回もデバフを使われることはあるだろうか? 今回の出走馬が誰もデバフ系のアビリティを使って来なかった場合は、装備させるだけ無駄だ。


 でも、100パーセント使われないと言う確証はない。一応念のためにも入れておくべきか?


 そしたら、最後は絆アビリティだよな。


 あれ? スロットが全部埋まってしまった。


 持っているアビリティから状況を考えて必要なものを選んだつもりだが、全部が必要な気がしてしまった。


 でも、これでジンクスを打ち破れるとは思えない。新しいアビリティを購入する必要がある。


 だけど、どれを削る? 【マイル適性】は絶対だし、速度を上げる【スピードスター】は必要だ。先行で無理して走らせることになるから【闘魂注入】も必要だし、デバフを受けたことを考慮した場合【冷静沈着】を装備していればと後悔することになる。絆アビリティも強力である以上、これを外すと言う選択肢はない。


 あーくそう。どうしてスロットは5つまでと言う制限があるんだよ。


 悩みに悩み、気が付くと頭を掻きむしっていた。


 案外あっさりと決められると思っていたが、こうも難しくなってしまうなんて。


 レースの結果を予想するのに1レースに1時間をかかることもあるが、あの時のように苦戦してしまっている。


 俺は絶対に負ける訳にはいかない。だからこそ、ジンクスに屈しないアビリティの組み合わせを考える必要がある。


『帝王、苦戦しているね』


「ハルウララ、悪いが話しかけないでくれないか。今俺は真剣に考えて頭を使っているんだ」


『私、待ちくたびれたからお笑いの練習をするね』


 俺が散々悩んで待ちくたびれたようで、ハルウララは時間潰しを始めた。


 お前は良いよな。ただレースで走るだけで。騎手の俺はこんなにも悩まないといけないと言うのに。


『ショートコント、馬券を思い込むやつ! この馬は1番人気だし、絶対に1着を取ってくれるだろう』


『ちょっと待った!』


『な、何やつ!』


『私はお前の心の中に潜む悪魔だ』


『何!』


『1番人気だからと言って、馬券を買うのは危険だ。競馬に絶対はない。1番人気が馬券外に来ることだってあるぞ』


『そいつの言うことに騙されないで』


『だ、だれ!』


『私はあなたの心の中にいる天使です。1番人気の馬の馬券を買いなさい。だって、1番人気なのですよ。人気がある以上、負ないはずです』


『わわわ、私はどっちを選べば……って、普通は逆でしょう! どうして天使が悪魔のようなことを言って、悪魔が天使のようなことを言っているの!』


 1人で3役を演じ、忙しそうに立ち位置を変えながら、ハルウララはコントを続ける。


 こっちはアビリティ選びに集中したいと言うのに、気になってしまうじゃないか。くそう、集中したくとも集中できない。


『天使の言うことに惑わされるな。競馬で馬券を買う時って思い込みが激しくなるけど、それって危険だぞ。視野が狭くなって他の可能性を見出すことができなくなる。第3の選択、それが道を切り開くこともある。最終的には競馬は運だ。色々考えたところで悩みが成果に繋がることはない』


『悪魔の言う通りだ。悩んだところで救われることなんて少ない。なら、楽に考えて1番人気の馬券を買おう』


『あれだけ敵対していた悪魔と天使が悩まないところで結託した! よし、悩まないで4着になりそうな馬の馬券を買おう!』


『なんでやねん! なんでそうなる! ありがとうございました』


 どうやら、コントの練習は終わったようだ。気になって最後まで見てしまった。だけど、悩んだところで絶対に報われるとは限らないか。それに、思い込みも危ないと言うのも共感できる。第3の選択肢か。そう言えば、俺は今持っているアビリティから考えていたけれど、先に販売されているアビリティを見ると言う選択肢もあったな。


 まさか、ハルウララの暇つぶしで、このことに気付くなんて。


「ハルウララ、ありがとう」


『何が? 私はただ暇潰しでお笑いの練習をしていただけだよ?』


 彼女に礼を言うと、ハルウララは惚けたように暇潰しをしていただけと言う。


 そう言うことにしておこう。確かに、陰でサポートをするようなキャラではないもんな。


 タブレットの画面を切り替え、アビリティの購入画面に切り替える。


 販売されているアビリティを見ていると、可能性を感じるアビリティを発見した。


 こいつを買えば、アレとアレを外すことができる。


 俺は見つけたアビリティを購入し、それをハルウララに装備させる。


「うん? これって?」


 他にも使えそうなアビリティがないか見ていると、面白い名前のアビリティを発見した。


自動能力オートアビリティ【サトノダイヤモンドの悲願】

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