第十話 ホッコータルマエ
レースで勝つために必要なアビリティを揃えると、俺はフッとあることに対して疑問を思う。
そう言えば、観光大使が騎乗する競走馬って何だろうか?
カンコウタイシなんて競走馬は、2024年までのデータには存在していない。もしかしたらそれ以降の年代には登場しているのかもしれない。だが、不思議なことに、霊馬競馬で召喚される競争馬は、2024年代までの馬なのだ。
本人も観光大使は二つ名だと言っていたし、真名を暴くことができれば、あいつの対策ぐらいはできそうだな。
「なぁ、観光大使と言う二つ名に繋がりそうな競走馬っているか? 今回、その二つ名のやつが契約している馬が出走するんだ」
「観光大使ですかぁ?」
「えーと、ちょっと待ってね。今検索してみるから」
俺の質問に
「あった。多分ホッコータルマエじゃないかな?」
クロがタブレットを操作し、空中ディスプレイを表示させる。
鹿毛の馬体にオレンジと緑のストライプの
この馬って確か。
ズボンのポケットに手を入れ、ポケットティッシュを取り出した。そのティッシュには、画面と同じ馬がプリントされてある。
やっぱり同じだ。あいつ、二つ名を使っているのに、自分の愛馬をプリントしたポケットティッシュを配っていたのか。これじゃ、二つ名の意味がないように思えてくるな。
「ホッコータルマエは、キングカメハメハとマダムチェロッキーとの間に生まれたキングカメハメハ産駒の馬ね。G Iレースを10勝もしている強敵よ。名前の由来は樽前山から来ているわ。苫小牧市の観光協会から、とまこまい観光大使に選ばれ、活躍していた時期には応援イベントなんかが開催されていたみたいね」
G Iレース10勝か。そのG Iレースは中央以外にも地方のG Iのレースも含まれている。実力は中央にも地方にも通用する実力があることから、決して油断してはいけない相手だ。
「2010年に北海道のセレクションセール1歳の時に上場され、最終落札価格は1575万円、え! 安い! 当時は未知数であったとは言え、1000万代でG I10勝の馬が買えたなんて! レースの賞金額を見たら大儲けしているじゃない!」
獲得賞金合計11億1459万1800円。1575万の馬が、11億を生み出した。
文字通り金の卵となるべくしてこの世に誕生した馬だな。
「2012年の4月から2014年の2月まで全て馬券内の成績ね。この時はこの馬を軸にすれば高確率で当たるから、ワイドで賭けていた人は対抗を外さない限り儲けていたでしょうね」
なぜかクロが金ぐるみの話をし始める。
うん、確かにこの馬は金のなる木ならぬ金のなる馬だけど、会話がいやらしくなってきている。もしかして、最近霊馬競馬で負けているのか?
「入賞を逃したのはたったの4回だけ。39戦した内の4回だけが入賞を逃している。だからここまで獲得金額が膨れ上がっているのね」
「あのう。クロ、さっきから金絡みの話しになっているけれど、もしかして最近負け続けているのか?」
「そうですぅ、奇跡の名馬さんの言うとおりですぅ。クロさんの話しはいやらしいですぅ」
俺たちの指摘に、クロはみるみる顔を赤くしていく。
「そ、そんな訳ないでしょう! いや、10回に2回くらいしか的中できていないけれど、10回に2回的中できれば良い方なのよ! 私は負け組のようにバカみたいに最初からハズレが確定している馬券を買っているのではなく、絞りに絞って厳選した馬券で勝負した結果予想が外れているだけなんだから!」
俺たちの指摘が図星だったのか、クロは早口で言葉を捲し立てる。
「いや、悪かったって」
「あのね、私が言いたかったのは、それだけホッコータルマエが強いって言いたかったのよ。恐らく、今回の人気も上位に来るでしょうし、軸にしている人は多いはずよ。だから気を付けなさいよね。ただでさえ、勝率0パーセントの枠からのスタートなのだから」
『クロちゃんは、私を単勝で買ってくれるよね!』
「えーと、あはは」
突然のハルウララの質問に、クロは苦笑いを浮かべる。
「ごめん、帝王とハルウララを応援しているのは本当だけど、単勝を買うとなると本気で迷ってしまうのよ。だって0パーセントよ。歴代のどの馬も3枠になった馬が1着を取ったことがないって事実があると、どうしても踏み込めないのよ!」
クロが頭を抱え込んどその場に座り出す。
まぁ、クロの気持ちも分からなくない。友人を信じたいが、実際に賭ける側になると迷ってしまうものな。
「でも、3着以内には入ってくれると信じているから、複勝かワイドでハルウララを馬券に組み込むから、そこは安心してね」
『クロちゃんが私たちを信じてくれていない! 軽くショック!
期待した眼差しでハルウララは
『ガーン! 2人から私が優勝すると信じられていない。もう良いもん! こうなったら、何が何でも1着を取って、2人や私の単勝を買ってくれない人たちを見返してやるんだから! 私からのざまぁを受けさせてやるんだから! 帝王行こう! そろそろ時間だよ』
不機嫌になったハルウララが部屋を出ることを促し、仕方なく俺も部屋から出て行く。
俺たちの勝ちを信じてもらえないのは軽くショックだが、どう賭けるかは本人次第だ。
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