第七話 かしわ記念作戦会議
かしわ記念当日、俺はいつものようにクロたちとかしわ記念の作戦会議をしていた。
いつもは
「それじゃ、いつものように作戦会議を始めるわよ」
クロがタブレットを操作し、空中ディスプレイを表示させると、船橋競馬場のコースが移り出す。
「船橋競馬場の特徴は、スパイラルカーブよ。普通の競馬場は綺麗な半径を描いているのだけど、船橋競馬場のカーブは、コーナーの入り口は緩やかで、出口はきつくなっているの。その影響でスピードはそれほど落とさずに侵入できて、コーナーの出口でバラけやすくなっているの。だから馬群に包まれている馬にもチャンスが生まれるわ」
スパイラルカーブか。今までの競馬場にはなかったギミックだな。
「後方の馬にもチャンスが生まれる作りになっているわ。それにより、逃げ馬の勝率が他の競馬場よりも激減しているのよ。もし、賭ける側になったのなら、逃げ馬が群を抜くような実力がない限り、極力馬券には組み込まない方が良いわ」
「かしわ記念のスタート位置はここね。距離が1600メートルだから、
指差し棒を使い、クロがコースの流れを説明する。
「細かいことを言うと、スタートから第1コーナーまで距離が220メートルとやや短めになっているの。だから先行力のない馬は、厳しいコースになるわ」
「先行力がない馬は厳しいか」
俺はハルウララへと顔を向ける。
『て、帝王! その目はなんだよ! 確かに私は、先行力はないけれど、さっきのスパイラルカーブのことを思い出してよ! 差し馬にもチャンスがあるって言っていたじゃない!』
「いや、別にお前の走りを疑っている訳じゃない。それに普通の競馬とは違って、霊馬競馬にはアビリティがあるからな。それらを使えば速度を上げて先頭集団に食らいつくことだってできるはずだ」
「ゴホン。話を続けるわね。力量や先行力が然程変わらない下級中級クラスのレースは、
今回のレースはG Iのかしわ記念だ。先ほどの話だと、内側の枠、つまり1枠から3枠あたりの枠番だとハンデを背負うことになるのかもしれないな。
そんなことを思っていると、俺のタブレットから着信があった。それに応答をすると、空中ディスプレイが表示されて解説担当の虎石が移り出す。
『みんな私のことが見えているかな? お待ちかねの抽選の時間となりました! この枠の抽選でレースでの有利不利が決まってしまうので、騎手の運が試されます。それでは、抽選スタート!』
虎石が言い終えると抽選が始まり、ランダムで枠番が決まっていく。
俺とハルウララが走る枠は3枠3番となった。
「3枠って、一番勝率の低い枠番じゃない!」
「これはぁ、厳しい戦いにぃ、なりましたねぇ」
抽選結果を見たクロは声音を強めて声を上げ、
『これにて抽選は終了です。それでは出走する騎手は控え室にお越しください』
最後のセリフを言い終えると、通話が終了したようで空中ディスプレイは消えた。
3枠ってそんなに悪いのか? どちらかと言うと中央寄りだから1枠や2枠よりもマシなイメージなのだが?
「中央よりだけど、3枠ってそんなに悪いのか?」
「枠番の中では1番勝率が低いわね。勝率が12パーセントある7枠に比べて、3枠の勝率は7パーセント。連対率は14パーセント、複勝率は22パーセントと最も低いわ」
勝率が一番高い7枠と比べると、5パーセントも差があるのか。
「さっき内枠の成績は良くないと言ったけれど、1枠の勝率は8パーセント、2枠の勝率は9パーセント。誤差の範囲と言えばそれまでだけど、この2枠と比べても、3枠の勝率が低いのは事実よ。更に脚質別で言うと、馬券に絡む確率、つまり3着以内に入る確率も、逃げ31パーセント先行29パーセント差しと追い込みが16パーセントとなっていて、ハルウララに取っては3着以内に入るのも厳しいわ」
「でもぉ、そんなに嘆くことはないですぅ。今回は馬場に救われていますぅ」
勝率が低いことで不穏な空気が漂っていると、
「馬場に救われた?」
彼女の言っている意味が良くわからず、首を傾げながら問い返す。
「実はぁ、3枠には道悪実績と言うのがありましてぇ、馬場状態が悪いとぉ、好走して番狂わせを起こしてくれる場合があるのですぅ。普段は勝率がもっとも低い枠番ですがぁ、馬場状態が悪いと好走することが多いのですよねぇ」
道悪実績、そんなものもあったのか。確かに今回のかしわ記念の馬場は重となっている。ある意味ジンクス頼りとなってしまうが、完全に心が折れて消沈するよりも、僅かな希望に縋った方が良いな。
今回クロから教えてもらったことも踏まえて、装備するアビリティを考えた方が良さそうだな。
「ああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
次にアビリティを考えようとしたその時、びっくりするほどの大声をクロが上げ、反射的に彼女の方を見た。
彼女は顔色が悪そうにしており、そしてポツリと言葉を漏らす。
「ごめん、帝王。あなたの勝率0パーセントになってしまったわ」
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