第六話 かしわ記念の出馬表

 廊下を歩いていると、人集りができていることに気付く。


 そう言えば、今日は G Iのかしわ記念の出走メンバーが発表される日だったか。


「あ、帝王! あなたの名前が載っているよ!」


 電子掲示板に近付くと、クロが俺の存在に気付き、声をかけてくる。


『お! 帝王が選ばれたか! なら、今回は私の番だね!』


 俺が選ばれたことを知り、俺の頭の上に乗っているハルウララが嬉しそうに声を出す。


 地方の競馬か。高知競馬場以来だな。と言っても、2週間前か。


 電子掲示板に近付き、他に知っている名前がないか調べてみると、1人だけ名前に心当たりのある人物の名前を発見する。


 観光大使、多分、ティッシュ配りをして苫小牧をPRしていたあの男だよな。


「帝王は夜の競馬場は初めてだよね」


「ああ、そうだな。今回の競馬は、今までとは全く違う競馬になりそうだ」


 中央と地方の競馬場の違いは大きく分けて3つある。


 1つは曜日だ。中央競馬は土日開催の週2回だが、地方は月曜から金曜までの週5日開催となっている。なので、霊馬競馬になる前の競馬は、毎日どこかで行われていたらしい。


 2つ目は時間帯だ。中央競馬場は第1レースが午前10時前後に行われるのに対し、地方競馬場は午後15時前後に行われる。これは平日開催と言うこともあり、午前中は人が集まり難いと言うのがあるのかもしれない。だからGIレースは、完全に陽が落ちた暗闇での発走となる。


 3つ目はコースだ。中央競馬場は芝がメインなのに対し、地方はダートがメイン。今回のかしわ記念はもちろんダートコースとなる。


 もう一度電子掲示板に顔を向ける。


 設定条件は午後20時05分、天候曇り、馬場状態は重か。


『お、馬場状態は重か! これは走りやすいから良いや、芝と違って、ダートコースは水分を含んでいる方がスピードが出るからね』


「それは他の馬も一緒だろうが」


 夜のコースと言っても、街灯が設置にされてコースをライトアップしてくれているから、完全な暗闇と言う訳ではない。でも、昼間と違って見え難いと言うのは間違いないだろう。


 愛馬はもちろんだが、騎手も普段とは環境が違う状態でのレースとなる。


 俺自身も暗闇に慣れておく必要があるな。


「暗闇に慣れるために、夜の散歩を始めるか」


「それ良いわね。少しでも耐性をつけていた方が良いわ。レース対策と言う名目なら、外出許可も下りやすいだろうし、私も付き添いができる時は一緒に歩いてあげる。1人だと、長続きしないものだし」


「確かに、俺1人だと直ぐに飽きそうだな。ハルウララは面倒臭がって付いて来てくれないだろうし」


『良く分かったね! その通りだよ。お散歩は嫌いじゃないけど、毎回だと飽きる』


 予想が的中して何とも言えない気持ちになる。


 ハルウララの性格は分かっているが、やっぱり嘘でも協力的であってほしい。


「うん? 東海帝王トウカイテイオウじゃないか、お前たちこんなところで……いや、今日はかしわ記念の出走メンバーが発表される日だったな」


 本番に向けて対策を考えていると、風紀委員の腕章を付けた不良がこちらに向けて歩き、声をかけてくる。


『あれ? どうして大気釈迦流エアシャカールは修行僧のように頭を丸坊主にしていないの? 風の噂で聞いたのだけど、天皇賞・春で1着を取れなかたら丸坊主にするって』


「あれは正確には俺個人ではなく、風紀委員全体での話しだ。だから周滝音アグネスタキオンが1着を取った時点で俺は負けていないことになる。そもそも、あいつがエアシャカールのバッドステータスを引き出さなければ、ダイワメジャーには勝っていた。まさか身内から攻撃されるとは予想外だった」


 そんな話があったのか、全然知らなかったな。


「なんでお前はそんなことを知っているんだよ」


『チ、チ、チ。このハルウララの情報網を甘く見ては困りますぜ旦那』


 何かのモノマネだろうか? 普段は言わないような口調で、ハルウララはキメ顔を作る。


「まぁ、そんな訳で、俺は丸坊主を免れている。出走メンバーに選ばれたのなら、問題を起こすんじゃないぞ。俺は見回りの続きをしてくる」


 問題を起こさないように釘を刺すと、大気釈迦流エアシャカールはこの場から離れて行く。


『だってよ、気を付けてよね。帝王』


「一番気を付けるのはお前だよ」


 俺はともかく、ハルウララの方が何か問題を起こさないか心配だ。こいつは好き勝手にするから、トラブルを持ち込みかねない。







 オマケコーナー教えてなぞなぞ博士



「今回も文字数と言う名の大人の事情と言うこともあって、オマケコーナーを担当するナゾ?」


『ゲストは前回に引き続き、この私、ハルウララです!』


「それではやっていくナゾ? 今回のお題はこちらナゾ?」


 私は今回のお題を電子掲示板に出す。


『家族で珍名馬?』


「そうナゾ? 今までは親は競走馬らしい名前だったナゾが、今回は親までが珍名馬なのナゾ? まずはこの名前ナゾ?」


 電子掲示板の内容が切り替わると、今回紹介する珍名馬の名前が表示される。


「オトナノジジョウ、ナゾ? 漢字で書いたら『大人の事情』となるナゾ? そして母親の名前はリャクダツアイ、漢字で書くと『略奪愛』となるナゾ?」


『うわー、リャクダツアイって、こんな名前よくつけるね。その馬主さん』


「リャクダツアイと名付けた馬主さんが所有している馬は珍名馬が多く、他にもイロジカケ、ヨアソビ、ヒメゴト、ウフフ、センテンスプリングなど、あっち系を想像してしまいそうな名前が多いナゾ?」


 この馬の名前の羅列を見て、あの馬の名前を思い出してしまったナゾ?


 女の子として、この珍名馬の名前は絶対に許せないナゾ? 思い出しただけで、少しイライラしてきたナゾ?


「せっかくなので、この馬も紹介するナゾ? その名は、ジーカップダイスキ! これはわざわざ漢字にする必要はないナゾね」


『うわー、この名前にした馬主サイテー』


「そんなにおっぱいが大きい娘が良いのか! 無いものの気持ちを考えろだナゾ!」


『うわ! なぞなぞ博士、暴れないで! なぞなぞ博士のような控え目の胸が好きな人だっているよ! ほら、私なんてツルペタだよ』


「そもそもヌイグルミナゾ! 胸の膨らみなんてないナゾ!」


『このままではまずい! と言うことで、今日のオマケコーナーはここまで! また次回お会いしましょう。なぞなぞ博士落ち着いて!』

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