第六話 警備の強化された学園
「警備員が普段よりも多いな」
学園の敷地を歩きながら、俺は校舎へと歩いていく。
『まさか、天皇陛下が天皇賞・春を観戦に来るとはね。確か現在閲覧できる競馬史では、2023年の天皇賞・秋に、令和の天皇陛下が競馬の歴史を学びに競馬場を訪れたらしいよ』
俺の頭の上に体重をかけ、ハルウララが
「本当に大丈夫なのですか? 陛下の身に何か起きてからでは、遅いのですよ」
「だから、何度も大丈夫だと言っているではないですか」
校門の前で、言い合いをしている男女の声が聞こえ、そちらに顔を向けた。すると、スーツを着た男に、
『なんだか不穏な空気だね。私、ちょっと行って来るよ』
「おい、ちょっと待て! 俺たち学生が大人の事情に首を突っ込む訳にはいかないだろうが」
俺の肩から飛び降り、ハルウララは
『
「あら、ハルウララじゃない?」
「
ハルウララに追い付き、彼女を抱き上げる。すると、スーツ姿の男は俺に視線を向けてきた。
「君は、この学園の生徒だな。丁度良い。せっかくだから、学生の目線からも話してもらおう。最近この学園の霊馬競馬システムには色々とトラブルが起きているらしいじゃないか。アビリティが購入できなくなったり、天候システムがトラブルを起こして馬場状態が変わったりしている。これらを見て、君は安全だと思うか」
スーツ姿の男が、鋭い視線を向けてくる。
『お前はいったい何者だ! 人に物を訊ねる前に自分の名を明かすのが礼儀と言うものだろう!』
これまで起きたシステムのトラブルに関して訊ねられると、ハルウララが彼に対して言葉で噛み付く。スーツ姿の男は、一瞬ハルウララに視線を向けるが、直ぐに内ポケットからタブレットを取り出す。
そして彼は端末を操作すると、空中ディスプレイが表示された。
「私は皇宮警察本部の高松宮と申します。今回こちらの学園で、天皇賞・春が行われ、天皇陛下がご覧になります。天皇陛下の身の安全を確保するのが我々の仕事であるため、こうして現場へと
皇宮警察本部の人とは、また凄い人が出てきたな。ハルウララが失礼な態度を取ってしまったし、ここはちゃんと答えるべきだよな。
「確かに、トラブルが起きたのは事実ですが、それは天皇陛下の安全とは関係性がないと思います。確信を持って言えないのは歯痒いところですが、問題はないと思います」
確信を持って言えないが、アビリティ購入が不可能になったり、天候システムのトラブルが起きたりしたのは、義父のせいだと思う。
いくらあの男でも、国に喧嘩を売るようなバカなことはしないだろう。おそらく、天皇陛下が訪れると言う情報は得ているはずだ。
まったく、レースで関係のないところでも、迷惑をかけやがって。
「確信がないのに物事を言うか。まぁ、世間を知らない学生らしい発言だな。やっぱりこの学園のシステムは信用できないな」
なるべく相手を刺激しないように、言葉を選んで言ってみたが、どうやら信用に欠ける発言だったらしい。まぁ、初対面の相手を信じろと言うのが、難しい話だけど。
「やはり、一度システムのチェックをさせていただきます。その上で、護衛や警備の数を決めますので」
皇宮警察本部の高松宮は、俺たちを横切って、学園の敷地内へと入って行こうとした。
「そこの方、お待ちになってください」
所詮学生の俺にはできることが限られている。これ以上は見守るしかないと思っていると、1人の女子生徒が彼に声をかけてきた。
肩にかかるセミロングの黒髪の女の子だ。
「なんだ? お前は?」
「わたくし、この学園の生徒会長をしております。
「何を言っている! 学生の分際で、警察に楯突くと言うのか! 邪魔をすると、公務執行妨害で逮捕するぞ! 逮捕されたくなければそこを退け!」
帰るように言われ、高松宮は頭に血が上ったようだ。権力を主張し、生徒会長に退くように要求してくる。
「別にわたくしは帰るように
「何を言っておる! 良いから退かぬか!」
「お願いします。わたくしたちを信じて、お帰りください」
彼女から異様な雰囲気を感じ取ってしまった。離れている俺でも、彼女の纏う雰囲気のようなものに押されて一歩後退りそうになる。
「ひっ! わ、分かった。今日のところは帰らせてもらおう。だが、万が一にも天皇陛下の身に危険が及ぶようなことになれば、この学園には責任を取ってもらうからな!」
捨て台詞を言うと、高松宮は逃げるように校門へと走りだし、学園から出て行く。
「ありがとう。助かったわ。生徒会長」
「いえ、いえ。学園に起きる問題を解決するのも、生徒会の仕事の一つです。わたくしは当たり前のことをしたに過ぎませんわ。では、わたくしはここで失礼させていただきます。ごきげんよう」
生徒会長はスカートの端を軽く持ち上げ、片足を後に下げて軽く会釈をすると、この場から離れて行く。
『あの人、格好良いね!』
「そうだな」
生徒会長か。なんとも言えないカリスマと言うか、身に纏うオーラが凄かったが、さすがに関わるようなことはないだろう。
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