第五話 絆アビリティについて
「脱線してしまったけれど、今から絆アビリティについて知っていることを話すわね」
口を開いた
いったい絆アビリティとはどんなものなのだろうか。
「一言で言えば『愛』よ」
「「「「「「「愛!」」」」」」」
絆アビリティの正体、それは愛だと言われ、俺たちは全員が口を揃えて驚きの声を上げた。
「ええ、少なくとも、わたくしはそう言う認識よ。霊馬騎手同士の絆が深まることによって、どちらかの騎手に発生するのだけど、それは自分の愛馬には使用できない仕様になっているのよ」
「と、
俺が勘違いを起こすと思っているのだろう。
「分かっているよ。俺もどちらかと言うと、絆は友情のようなものだと思っているから」
彼女の意見に肯定する。だが、不思議なことに、なぜか
どうして俺は睨まれないといけない。彼女の発言を否定していないというのに。
「愛や友情から生まれる絆か。実際に絆アビリティを
「それだったら、僕と
「悪いが、俺はお前と友情を感じたことはない。だから一生絆アビリティが発生することはないだろう。これまでどちらからにも絆アビリティが発生していないのが証拠だ」
「ガーン! 僕は君のことが大好きだと言うのに! 友達関係はただの遊びだったのね」
「気持ち悪いことを言うな!」
「ねぇ、帝王、私たち幼馴染だよね? でも、私と帝王との間にも絆アビリティがないよ。帝王も、私との関係は遊びだったの?」
風紀委員たちのコントを見て、クロが不安そうに訊ねてきた。
「そもそも、前提が違うんじゃないか? 競走馬に騎手が乗ってレースを繰り返すことによって絆を感じるように、霊馬騎手同士も、レースに出走してから発生するようになるとか?」
別にクロとの関係は遊びではない。本気で幼馴染と思っている。だから変な心配を与えないように、適当なことを言った。
「さすが
「そうなのですね。良かった」
「それじゃ、次にどんなことで絆アビリティを発生させるのかだけど、これまで過去に絆アビリティを発生させた人は少ないわ。だから資料が少ない分、これだとは言えないのだけど、レース中に頭の中で好きな人を思い描いて格好悪いところを見せたくないと思ったり、デート中にキスをしたりした時に愛情と言う名の絆を感じて、その後に発生した人もいるわ」
彼女の説明を受け、女性陣は顔を赤くする。
資料が少ない分、偏ってしまうのかもしれないが、確かに
『初めて〜のちゅう〜♡♪ 君とちゅう♡♪』
「お前、こんな時に何歌っているんだよ?」
『知らないの? 初めてのちゅうだよ! あの猫型ロボットを描いた漫画家の作品で、頭にちょんまげをつけた
俺の呆れた言葉を質問と捉えてしまったようだ。聞いてもいないのに、ハルウララは解説を始めた。
「また脱線してしまったわね。と言っても、これ以上はわたくしも知らないから、教えられるのはここまで。一応、愛情が最大限にまで膨れ上がった時に、絆アビリティが発生するものだと思ってもらえたら良いかと思うわ。人によっては、別の考え方とかになるかもしれないけれど」
「ありがとうございます。
正直に言って、絆アビリティの発生条件は愛情が最大限に深まった時と言うのは、極端なような気がする。
「絆の根本的な部分は、愛と言う感情から生まれてくるものだと思うのになぁ」
俺が参考程度にすると言ったからだろうか?
そんな時、この部屋に着信音が流れる。どうやら
空中ディスプレイを出さないのは、俺たちがいるからだろう。
「はい、はい、はい。それは本当ですか!」
電話に応答した彼女は、目を大きく見開いて椅子から立ち上がる。
「はい。わかりました。直ぐに準備をいたします」
通話が終わり、
「みんな、落ち着いて聞いてね。次のGIレースの天皇賞・春なんだけど――」
「え?」
彼女の言葉を聞いた俺は、一瞬自分の耳を疑った。
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