第四話 周滝音の暴走、大和鮮赤の彼氏

 〜東海帝王トウカイテイオウ視点〜






 放課後、俺はクロと大和鮮赤ダイワスカーレット、それにハルウララと一緒に教室を出た。


 廊下を歩いていると、茶髪の髪をモテの王道であるクラシカルストレートにしており、茶色のクリッとした可愛らしい瞳の女の子と、毛先は白くなっているツートンカラーのショートヘアーの女の子がこちらに向かって歩いてくる。


「お待たせしましたぁ」


「待たせたな」


「俺たちもさっき教室から出たばかりだ」


 明日屯麻茶无アストンマーチャン魚華ウオッカに殆ど待っていないことを告げると、俺は大和鮮赤ダイワスカーレットの方を見る。


 これから俺たちは、彼女の提案で丸善好マルゼンスキー学園長に、絆アビリティに付いて訊ねることにしたのだ。


「それじゃ、行くか」


「待って、まだ揃っていないわ」


 全員が揃ったと思い、学園長室に向かうようにみんなに促す。だが、そこで大和鮮赤ダイワスカーレットがストップをかけた。


 まだ揃っていないって。他にも声をかけた人がいるのか?


 彼女が声をかけそうな人物に心当たりがないか思い出してみると、1人だけ思い浮かんだ。


 もしかしてなぞなぞ博士だろうか?


 そんなことを思っていると、こちらに向かって歩いてくる人物が視界に入る。


 1人は黒髪のオールバックに、耳にはピアスをしてある鋭い目付きの男だ。もう1人は。真剣な表情をしている茶髪の男である。2人とも、腕には風紀委員の腕章がしてあった。


 大気釈迦流エアシャカール周滝音アグネスタキオン、どうしてこいつからがこっちに向かっている? ただの見回りか?


「待たせたな。俺たちで最後か?」


 どうやら彼らも呼んだらしい。正直に言って、珍しいと思った。どんな風の吹き回しだろうか?


「ええ、それじゃ、行きましょうか。魚華ウオッカ周滝音アグネスタキオンの前を歩いて。万が一あたしに抱き着こうとしてきた時は、遠慮なく蹴り飛ばしていいから」


 大和鮮赤ダイワスカーレットが歩く時の配置を決める。


 彼に取っては可哀想な立ち位置だが、これなら親子のように仲良くなりたいからと言って近付いても、先に魚華ウオッカの蹴りを入れられてしまう。


 彼女の足の長さの範囲外にいなければならないので、周滝音アグネスタキオンだけが俺たちから距離を置いて歩くことになった。


「うう、僕だけ仲間はずれにされた気分」


 目的地に向けて廊下を歩く中、周滝音アグネスタキオンが距離を見誤り、魚華ウオッカセンサーに引っかかって蹴りを入れられると言う現象が数回起きてしまった。だが、周滝音アグネスタキオンを除いて全員が無事に学園長室前に辿り着く。


丸善好マルゼンスキー学園長あたしです。昨日お電話した件でお伺いに来ました」


「はーい。どうぞ」


 大和鮮赤ダイワスカーレットが扉を数回ノックして声をかけると、扉越しに入室の許可をもらい、彼女を先頭に俺たちも部屋の中に入って行く。


「あら? 思っていたよりも大勢で来たのね。ちょっとだけびっくり」


「大勢で押しかけてしまい、申し訳ありません。みんな絆アビリティのことに付いて知りたいと思っている者たちです」


「そう。分かったわ。なら、絆アビリティのことに付いて話すわね」


「え、ええ、ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! それじゃ! 丸善好マルゼンスキー学園長が大和鮮赤ダイワスカーレットちゃんの彼氏なの!」


 突然意味不明なことを叫び始める周滝音アグネスタキオンに驚き、俺たちは全員彼の方を見る。


 こいつ、いきなり何を言い出すんだ?


「はぁ? 丸善好マルゼンスキー学園長が恋人な訳がないでしょう! 何をどうしたらそんな頓珍漢なことを言っているのよ! 魚華ウオッカに蹴られ続けたことで、頭が可笑しくなったの?」


「いや、それは大和鮮赤ダイワスカーレットちゃんの配置のせい……いや、そんなことはともかく、だって大和主流ダイワメジャーが言っていたもん! 大和鮮赤ダイワスカーレットちゃんには彼氏がいるって!」


 周滝音アグネスタキオンの発言に今度は大和鮮赤ダイワスカーレットに視線が集まる。


 まさか大和鮮赤ダイワスカーレットに彼氏が居たなんてな。初耳だ。でも誰だ? 彼女が特定の男と一緒に居るところなんて見たことがないぞ。


 彼氏の存在に驚きつつ、誰なのか心の中で思案していると、急に両足に痛みが走る。


 足元に視線を向けると、クロと明日屯麻茶无アストンマーチャンが俺の足を踏んでいた。


「痛いじゃないか。どうして急に俺の足を踏む!」


「あ、ごめん。帝王の足に悪い虫が居たから反射的に足が動いた」


「奇跡の名馬さんごめんなさいですぅ。クロさんと同じでぇ、こっちにも悪い虫がいたのでぇ、反射的に足が動いてしまいましたぁ」


 悪い虫ってなんだよ。それにいたからと言って踏まなくていいだろう。


 彼女たちの行動に一度視線が俺に向けられるが、直ぐにみんなの視線は大和鮮赤ダイワスカーレットに戻される。


「兄さんのバカ。勘違いをしているわね。でも――」


 どうやら彼女の兄である大和主流ダイワメジャーが目撃した人物を彼氏だと思い込んでいるようだな。途中から大和鮮赤ダイワスカーレットの声が小さすぎて聞こえなかったが、おそらく兄に対しての悪態のようなものでも呟いているのだろう。


「言っておくけど、あたしに彼氏なんていないわよ」


「それは本当! やった! 大和鮮赤ダイワスカーレットちゃんに彼氏がいなかった! パパは安心したよ」


「だからパパではないでしょう!」


 彼氏なんて者はいない。その事実に安心したのか、周滝音アグネスタキオンは両手を上げて満面の笑みを浮かべる。


「ふぅ、大和鮮赤ダイワスカーレットに彼氏が居ないことが分かって安心したよ」


「そうですぅ。安心しましたぁ」


 続いてクロと明日屯麻茶无アストンマーチャンが安心した表情を見せるが、彼女たちの反応には違和感を覚える。


 どうして彼女たちが安心するんだ? もしかして大和鮮赤ダイワスカーレットに恋人がいれば、自分たちと一緒にいる時間が減ると思ったのだろうか? もしそうなら、なんやかんや衝突することはあっても、仲が良いな。


『ふむふむ。どうして大和主流ダイワメジャーがそんな勘違いを起こしてしまったのか。これはちょっとした事件のようですな。ここはシャーロックウララの出番』


「お前が探偵ごっこを始めたら先に進まなくなるだろう」


 推理ごっこを始めようとするハルウララを取り押さえ、俺は丸善好マルゼンスキー学園長に顔を向ける。


「ちょっと話が脱線してしまってすみません。早速ですが、絆アビリティのことを話してくれませんか?」


 絆アビリティのことを話すように促すと、丸善好マルゼンスキー学園長は苦笑いを浮かべたまま口を開く。

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