第三話 彼氏の存在

大和鮮赤ダイワスカーレット視点〜






 部屋で寛いでいると、突然部屋のノック音が聞こえてきた。


「誰かしら? 魚華ウオッカくらいしか思い当たらないわね」


 今日訪れるであろう来客があの子くらいしか思い当たらなかったあたしは、扉に向かってドアノブを握り、手前に引く。


「はーい」


大和鮮赤ダイワスカーレットちゃん! パパだよ!」


 茶髪の短髪の男が、両手を上げて笑みを向けて来た瞬間、あたしは勢い良く扉を閉めた。


 え? え? 今のは何? あの男だったわよね? どうして女子寮にいるの? もしかしてあたしに会いに忍び込んできたの?


 そんな風に考えると、両腕に鳥肌が立った。


 いや、いや、男子寮はともかく、女子寮は警備が厳重よ。あの男が忍び込むことはできないわ。もしかしたら見間違いだったかもしれない。兄さんのお迎えの準備とかで忙しかったから、きっと疲れているのかもしれないわ。


 幻聴と幻覚が同時に発症してしまったのだと思い、あたしはもう一度扉を開ける。


大和鮮赤ダイワスカーレットちゃん! パパ――」


 先ほどと同じ格好であの男が視界に入った瞬間、再び扉を閉める。


 やっぱり見間違いではなかった。どうしてあの男がここに居るのよ。怖いんだけど。


 寮長に連絡をした方が良いわね。


 ポケットからタブレットを取り出し、寮長に連絡をしようとしたその時。


「俺だ。大気釈迦流エアシャカールだ。周滝音アグネスタキオンが怖がらせるようなことをしてすまない。ドアチェーンをした状態で良いから、少しだけ扉を開けてくれないか? 俺たちは、少しだけ話がしたいんだ。時間は取らせない」


 今度は風紀委員長の声が聞こえてきた。


 どうやら彼も近くに居たようね。あたしに話って何かしら? ドアチェーンをしても良いって言っているし、時間もそんなに取らないって言うのであれば、少しくらいなら聞いてあげても良いかな?


 ドアチェーンを掛け、制限をかけた状態で扉を開ける。


「感謝する」


「僕も大和鮮赤ダイワスカーレットちゃんとお話がしたい!」


「お前は黙っていろ! お前が騒ぐと話が進まないだろう! それに騒ぎを起こすと、いくら許可書を持っていても追い出されてしまうぞ」


 大気釈迦流エアシャカール周滝音アグネスタキオンのやり取りが耳に入ってきた。


 どうやら、正式に許可を得たようね。なら、少しだけ警戒を解いても良いかしら?


「それで、何の用なのよ。校舎の中ならともかく、女子寮で長話をしたくはないのだけど?」


「それは俺も同感だ。単刀直入に言う。お前、絆アビリティのことを知っているらしいな。簡潔に述べてもらおうか?」


 この男、あたしが絆アビリティを出現させたことを勘付いた。頭の良さはバカにはできないわね。でも、困ったわね。あたしも良く分かっていないのよね。


 真実を言っても、何かを隠していると思われたら面倒だわ。


 どうしたものかと思考を巡らせていると、あることを閃く。


「それなら丁度良いわ。その件に関して詳しい人に、明日聞きに行こうと思っていたのよ。一緒に行く? 正直に言って、偶然発生してどうしてこうなったのか、あたし自身も理解していないのよ」


 これなら、真実を打ち明けた上で、納得してもらえるはず。


「えええええええぇぇぇぇぇぇぇ! 本当に絆アビリティのことを知っている人を知っていたの! 大気釈迦流エアシャカールに言ったことは出鱈目だったのに!」


 本当のことを言った瞬間、周滝音アグネスタキオンが声を上げて驚く。


「お前! この俺を騙していたのか!」


「あ、ヤバイ! 驚きのあまり、口が滑ってしまった!」


「この俺に嘘を言いやがるとは良い度胸だな!」


「で、でも。結果的には絆アビリティに一歩近付いたじゃないか? ほ、ほら、噓も方便って言うじゃない」


 ちょっとだけ扉を開けている状態なので、廊下で何が起きているのかが分からない。だけど、2人の会話からして、嘘を言われたことに対して大気釈迦流エアシャカールが怒り、周滝音アグネスタキオンがどうにかして誤魔化そうとしているのだろう。


「要件が済んだのなら、さっさとこの場から離れて! 迷惑よ! あまりうるさいと、寮長に連絡するから!」


 声を上げて扉を閉め、鍵をかける。


「ほら、早く女子寮から出ないと、パンツ一枚の姿ではりつけにされるぞ」


「歩く! 自分の足で歩くから! だから襟首掴んで引き摺るのだけはやめて!」


 周滝音アグネスタキオンの悲鳴が遠坂っていく。


「ふぅ、どうにかなったわね。でも困ったわね。つい、嘘を吐いてしまったわ」


 嘘を吐いた者の末路がどうなるのか、大気釈迦流エアシャカールの態度を見て、何となく分かった。


「とにかく、今から行動に出ないと」


 あたしはタブレットを操作し、学園長に連絡を入れてみる。


 すると、直ぐに応答をあり、空中ディスプレイが表示される。


 そこには茶髪の髪をゆるふわ縦ロールにしている女性が現れる。


 相変わらず女性にしては背も高く、そして出るところは出て、引っ込むべき場所は引っ込んでいる。多くの女性が羨ましがる素晴らしいプロポーションね。


「はあーい! 学園長よ。あなたは大和鮮赤ダイワスカーレットさんね。どうかしたの?」


丸善好マルゼンスキー学園長、明日の放課後って時間空いています?」


「あら? デートのお誘いかしら?」


「いえ、あることに付いてお伺いしたいことがあるので、時間を作れるかお聞きしたいのですが?」


「うーん、真面目ちゃんね。少しはおばさんのボケに乗ってくれても良いのに」


 彼女の言葉に苦笑いを浮かべる。


 東海帝王トウカイテイオウ義父おとうさんからババァと言われた時は、直ぐに股間を蹴り上げようとしていたのに、自分ではおばさんと認めるなんて。


 まぁ、自分で言うのは良いけれど、他人から言われるのは嫌と言う気持ちは分からなくもないけれど。


「それで、わたくしに何の用かしら?」


「あのですね」


 あたしは絆アビリティのことに付いて聞きたいので、時間を取れないかと訊ねる。


「あ、その件ね。分かったわ。放課後、学園長室にまで来てもらえる?」


「ありがとうございます。では、また明日お伺いいたします」


 通話を切り、空中ディスプレイが消えた。


 ふぅ、どうにか約束を取り付けることができたわね。それにしても、どうしてあたしは絆アビリティと言うものが現れて、東海帝王トウカイテイオウには贈れたのかしら?

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