第二十三話 買って良かったアビリティ
ナゾの
周囲からも『謎だ?』コールが響き、俺自身の集中力も失いつつある。
早く、この現状を打破する術を見つけなければ。
『先頭を走るナゾ、そして2番手のロゴタイプとは5馬身も離れています。ナゾの大逃げに、観客席からも響めきの声が上がっております』
実況担当の中山の声が耳に入る中、思考を巡らせる。
ピンチを潜り抜けるには、アビリティだ。でも、何かあったか?
今回トウカイテイオーに装備させているアビリティをひとつずつ思い出す。すると、この状況に最適なアビリティを装備していたことを思い出した。
「
トウカイテイオーの体に鞭を打ち、アビリティを発動した。
この
『あれ? 俺は今まで何をしていたんだ? なんか、今はどうでも良いことが非常に気になっていたような気がするのだが?』
「トウカイテイオー、正気に戻ったようだな。このままではナゾに逃げ切り勝ちをされてしまう。最低でも、2番手にまで上がらないと厳しいかもしれない」
『了解した。速度を上げよう』
俺の言葉に反応し、トウカイテイオーが速度を上げる。しかし、それでも2番手を走るロゴタイプに追い付くことはできない。
「
速度を上げるアビリティを使用し、再びトウカイテイオーに鞭を入れる。すると、アビリティの効果が発動し、トウカイテイオーは今まで以上に速度を上げた。
『先頭はナゾのまま、2番手をロゴタイプ。その後をクリンチャーが追いかけ、4番手を走っているトウカイテイオーが速度を上げてきた。クリンチャーを追い抜き、ロゴタイプと並ぶ。そしておよそ5馬身離され――』
よし、どうにか2番手を走るロゴタイプに追い付くことができた。坂の最高到達点である第2コーナーは目の前だ。
内側と外側の分岐点である第2コーナーを内側に曲がり、内回りのコースに進入する。
ここからの直線は下り坂だ。スピードが出やすいが、それは他の馬たちも一緒だ。気を抜けば、追い抜かれることになる。
『最初の1000メートルは平均よりも早いペースとなっています。これは後方に位置取りしている馬は厳しい状況となっていますね』
『このままではまずいと判断したのでしょうか? 次々と後続が速度を上げています。先頭から殿まで、およそ10馬身差まで縮まっています』
『先頭はナゾのまま、2番手をトウカイテイオー、そしてロゴタイプ。その後ろをクリンチャー。そして3馬身ほど離されてハクタイセイ、イシノサンデー、サクラスピードオー、アルアイン、ダイタクリーヴァ、シンコウカリド、ミスキャストが一塊となり、その後ろをペルシアンナイト、トップコマンダー、ダンツフーレム、ワールドエース、エアシャカール、そしてゴールドシップの順番となっています』
後方勢も距離を詰めて来ているようだな。坂を下ってスピードが上がったと言うのも関係しているかもしれない。
それに、さっきまで聞こえていた『謎だ?』コールも聞こえなくなっている。俺はアビリティを使用してトウカイテイオーを正気に戻したのを見て、同じように対策を取ったのかもしれない。
『後方を走るゴールドシップ、そろそろ馬群の中間地点に位置取りをしたいところですが、ワールドエースに阻まれて中々前を抜け出せないと言った状況か』
『くそう! さっきから俺の前を走りやがって! 邪魔なんだよ! 良い加減に道を譲れ!』
『譲れと呼ばれて誰が譲るかってんだ! 生前、お前には負かされたからな。今度は俺が勝たせてもらう。そのためには、最後まで後方でいさせてもらうぜ』
後方から、ワールドエースとゴールドシップのやりとりが耳に入ってきた。
ワールドエースって確か、ゴールドシップが出走した皐月賞で、2着で敗れたんだったよな。同じ追い込み馬として、敗れてしまったから、今回は勝つために妨害しているのかもしれない。
彼がこのままゴールドシップを抑えてくれれば、どうにかなるかもしれない。だけど、そんなに上手く行くとは思わない方が良いだろう。
後方の動きも気になるところだが、今は先頭を走るナゾに追い付くことを優先にして考えたほうが良い。
ゴールドシップも、エアシャカールも、本格的に動き出すのは第4コーナーから最終直線にかけてからのはずだ。
もう直ぐ坂を降り、今度は緩やかな登り坂を駆け登って外回りとの合流地点である第3コーナーに到達する。
ナゾは今、第3コーナーを曲がったところだ。逃げの脚質である馬は、序盤飛ばしてリードを確保できる分、スタミナがない。このままなら、追い付くこともできるはず。
『さぁ、レースも終盤となって来ました。このままナゾが逃げ切るのか、それとも他の馬たちが差し切るのか、足元の悪い馬場は、どの馬に味方をするのか』
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