第十七話 名馬対策

 出走時刻までまだ時間があったので、今回出馬することが分かっている名馬の対策をすることにした。


「クロ、エアシャカールとゴールドシップのことに付いて、分かっていることを教えてくれないか?」


「別に構わないけれど、ゴールドシップも?」


「ああ、今回の皐月賞、ゴールドシップも出馬する」


「「えええええぇぇぇぇぇぇ!」」


 今回出馬する名馬の中に、ゴールドシップが居ることを告げると、クロと大和鮮赤ダイワスカーレットは驚きの声を上げた。


 そう言えば、大気釈迦流エアシャカールからは、黄金の破天荒船と言う二つ名は聞かされていたが、真名を知るのは、彼女たちは初めてだったな。


「今回のレースに、クラシック二冠の強豪が二頭も出馬するなんてね」


「分かった。エアシャカールだけではなくって、ゴールドシップのことも教えるね」


 クロがタブレットを操作して、空中ディスプレイの画面が切り替わる。すると黒鹿毛の馬が表示された。


「エアシャカールの成績は、20戦4勝の馬よ。主な勝ち鞍は、皐月賞と菊花賞。東京優駿日本ダービーでは、アグネスタキオンの兄であるアグネスフライトにハナ差7センチで負けたけれど、二冠を取ったことで準三冠馬と呼ばれてある馬ね」


 準三冠。その言葉に生唾を飲み込む。たったハナ差での勝敗と言うことは、運命が変わっていれば、エアシャカールは三冠馬になっていたかもしれないのだ。その事実だけでも、強敵であることが十分理解できる。


「だけど、エアシャカールはとても癖のある走りをするのが特徴的なの。それが今回のレースでエアシャカールの勝つための鍵となるかもしれないけれど、斜行癖があって、真っ直ぐに走ることができないのよ。だから騎乗する騎手は、真っ直ぐに走らせるために、常に体勢の悪い状態で乗り続けないといけない。だから体力を奪われ、思考力の低下に繋がると思うわ」


 真っ直ぐに走ることができない馬。だけど、そんなことは大気釈迦流エアシャカールも理解している。彼は勝率95パーセントと言っていた。だから対策済みだと思って良いだろう。


『真っ直ぐに走れないなんて、常に酔っ払っているみたいだね。蛇行運転は危ない』


「確かにそうね。当時の騎手も『真っ直ぐ走ってくれないし、乗り難いことこの上ない』と評して『頭の中を見てみたい』と言うほどだから、優秀な騎手でなければ扱い不可能の馬ね」


 ポツリとハルウララが呟き、それにクロが答える。


 確かに、騎手が制御を怠れば、エアシャカールは斜めに走る。それは時には妨害となってくるかもしれないな。


「エアシャカールに関して、レースで役立ちそうな知識はこのくらいかな。他にもエピソードはいくつかあるけれど、別にレースには関係ないから」


 エアシャカールの話はここまでとクロが言うと、彼女はタブレットを操作し、空中ディスプレイの画面が切り替わる。すると、芦毛あしげの馬が表示される。


「次はゴールドシップね。ゴールドシップの戦績は28戦13勝の成績で、その内G Iレースは6勝しているわ」


『エアシャカールの3倍! 数字だけ見れば、エアシャカールを大きく凌駕する強さだね!』


 クロの説明にハルウララが驚く。だけど、彼女が驚くのも無理はないだろう。


「ゴールドシップも、エアシャカールと同じで皐月賞と菊花賞に勝って、クラシック二冠を達成しているけれど、エアシャカールと違う点は、東京優駿日本ダービーは5着で敗れていることよ」


『ムムム。ハナ差で三冠を取れなかったエアシャカールとは違い、ゴールドシップは大きく負けている。さっきはゴールドシップに1点を入れていたけれど、今度はエアシャカールに1点! これでイーブン』


「お前は何を競っているんだ」


 相変わらずマイペースなハルウララだが、今は彼女に構ってやる時間はない。


「今回は中山競馬場だからあまり関係ない話だけど、ゴールドシップは阪神競馬場のコースを得意とされて、阪神競馬場での戦績は8戦6勝。その無類の強さから、阪神巧者と呼ばれることもあるわ」


『ここで異名ポイントが入った! ゴールドシップに1点追加! あ、でも、エアシャカールには準三冠と呼ばれているから、エアシャカールにもう1点追加! やっぱりイーブン!』


「一番の武器は、脅威の末脚ね。ゴールドシップは最終直線の時に最後尾を走っていたのだけど、それから全ての馬を追い抜き、そのまま1着でゴール板を駆け抜けると言う、信じられないような走りをしたのよ。だからゴールドシップが最後尾だからと言って、油断できる相手ではないわ」


『ここで名馬の伝説レジェンドオブアフェイマスホースになり得そうな凄い話が飛び出して来た! ゴールドシップに100万点追加! これはもう、ゴールドシップの勝ちだね』


 ハルウララよ、お前完全に飽きているだろう。何が100万点だよ。大昔のクイズ番組じゃないんだぞ。


『レースに役立ちそうな知識としては、これぐらいかな? 他にはレースとは関係ないけれど、ゲートが苦手とか、あと写真撮影が嫌いで、レンズを向けられると嫌がることもあるのよ。引退式の時なんか、記念写真を撮るのに時間がかかったらしいわよ』


「へー、そうなんだな」


 クロの言葉に返事を返しつつ、タブレットで時間を確認する。


 そろそろ良い頃合いだろうか。


「それじゃ、俺は控え室の方に行って来るから」


「分かった。それじゃ、私たちは、場所取りをして貰っている明日屯麻茶无アストンマーチャンと合流するわね」


 俺たちは空き教室から出て行くと、それぞれの目的地へと向かって行く。

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