第十八話 控え室でのやりとり

 作戦会議が終わり、俺は騎手の控え室へと向かった。扉を開けて中に入ると、半分以上の騎手がおり、その中には馬の耳のフードを被っている先輩の姿もあった。


「なぞなぞ博士、どうしてここに?」


「なぞなーぞ♡ どうしてここにとは、とんだご挨拶だナゾ? 今回のレースに出走するからに決まっているナゾ?」


 声をかけると、なぞなぞ博士は猫のように手を丸めて片足で立ち、例の謎のポーズを取った。すると、丈が合っていないようで、手を前に突き出した勢いで、袖が伸び、彼女の手を隠す。


 勝負服まで袖を長くしているのかよ。制服の時の丈の長さは、わざとだったんだな。


「前回私が出したなぞなぞは覚えているナゾ?」


 前回出したなぞなぞ。それって確か、俺となぞなぞ博士が初めて会った時に出されたなぞなぞだったよな。えーと、確か。


「入口は1つ、出口は3つある騎手が身に付けているものは何かと言うものだったよな?」


「そうだナゾ? これまで連勝している君は、今回も1着を取れる未来の出口にたどり着けるか見物だナゾ? 当然、私も1着を取れるように全力を出すから、OPオープン馬だからと言って侮って貰っては困るナゾ? 油断していると、私が足元を掬うナゾ?」


 念を押して油断するなとなぞなぞ博士は忠告してくる。今回優勝を競い合う敵とは言え、後輩思いの一面が出ているなと思った。


 なぞなぞ博士と軽い雑談をしているが、他の騎手たちは無言のままジッと目の前を見つめている。


 みんなレースに向けて集中しているのだろう。


 そんなことを思っていると、扉が開き、大気釈迦流エアシャカールが入ってきた。


大気釈迦流エアシャカール


「一応年上なんだぞ。先輩を付けろ。まぁ良い。この前、お前に今回のレースは勝率95パーセントと言ったが、アレは訂正させてもらう」


 訂正と言う言葉を聞き、俺は生唾を飲み込む。


 まさか、100パーセントに仕上げたと言うのか。


「今回のレース、俺が勝率96パーセントの確率で勝たせてもらう」


 1パーセント上げたと言う言葉を聞き、俺はズッコケそうになった。


 たった1パーセントかよ。それなら、わざわざ報告する必要はないんじゃないのか?


 いや、確かに95パーセントから96パーセントに引き上げるのも難しいのかもしれないが、俺だったらわざわざ言わない。


「そうか。なら、俺は4パーセントと言う訳だな」


「いや、お前の勝率はたったの1パーセントだ。そして勝率2パーセントはゴールドシップ、それ以外が纏めて1パーセントと言う結論に達した」


 彼が淡々と言葉を述べると、控え室に居る騎手たちが一斉に大気釈迦流エアシャカールを睨み付ける。


 それもそうだろう。自分の勝率が1パーセント以下だと言われて喜ぶ騎手はいない。


 いや、これも彼の作戦なのだろう。レース前から挑発することで、騎手の集中力を切らせる狙いがあるかもしれない。


「そうか、なら1パーセントの確率で勝たせてもらう。ここまで大見えを切ったのだ。もし負けたのなら、相当な恥をかくことになるな」


「そうナゾね。1パーセント以下の私が優勝すれば、大穴どころではないナゾ? もし、私が勝ったら、罰ゲームとしてパンツ1枚でVR競馬場を走ってもらうナゾ?」


「ふん、良いだろう。万が一にでも、お前が優勝するようなことになれば、その罰ゲームを受け入れてやる。だが、これだけは言っておこう。お前が勝つことはないと言う確証はある」


 大気釈迦流エアシャカールの挑発めいた言葉に対し、なぞなぞ博士は睨み付けるが、大気釈迦流エアシャカールは涼しい顔のままだ。


 張り詰めた空気のまま、次々と残りの騎手たちが控え室の中に入ってきた。


「悪い、悪い。スマホゲームをしていたら、時間ギリギリになってしまった。めんご」


 最後の騎手である黄金船ゴールドシップが控え室の中に入って謝る。言葉では謝っているが、軽く舌を出してふざけた態度を取っているので、本当に悪いとは思っていないのだろう。


 まぁ、時間ギリギリではあるが、間に合っている。


「それでは、メンバーが集まりましたので、皆さんは今回騎乗する名馬を呼び出してください」


 解説担当の虎石に促され、俺はトウカイテイオーをこの場に顕現させる。


「なるほど、今回出馬する馬は、トウカイテイオー、ナゾ、エアシャカール、ゴールドシップ、ワールドエース、ロゴタイプ、ハクタイセイ、イシノサンデー、サクラスピードーオー、アルアイン、ラガーレグルス、クリンチャー、ペルシアンナイト、ダイタクリーヴァ、トップコマンダー、ダンツフレーム、シンコウカリド、ミスキャストですね。それでは、パドックへと連れて行きます。厩務員きゅうむいんの皆さん、お願いします」


 虎石が声をかけると、厩務員の人たちが部屋の中に入ってきた。当然、その中にはいつものようにクロが居る。


 彼女は俺のところに来ると、トウカイテイオーの手綱を握った。


「それじゃ、トウカイテイオーは連れて行くわね」


「ああ、頼んだ」


 トウカイテイオーをクロに任せると、時が来るのを待つ。そして時間となり、俺は下見所パドックへと向かった。

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