第十三話 男の急所
ゲーセンから出ようとしたところで、
彼は俺たちに気付かなかったが、
そして現在、尾行をしているのだが……。
「なぁ、本当に尾行するのか? バレたら絶対に怒られるぞ」
『大丈夫、私は脳内でアビリティの【忍び寄る影】を発動している。だから気配遮断の効果が発揮されて彼は気付かない』
「いや、脳内で空想したところで本当にアビリティの効果が発揮できる訳がないじゃないか」
コソコソと小声で話し合う。そんな中、
『お、どうやらここが告白するのに指定された場所のようだね』
「いや、どう考えても告白に適した場所ではないだろう」
告白の場所に廃ビルを使うなんて、どんなイカレタ女だよ。もし、本当に女の子が告白の場所として使っていたら引くし、そんな子とは付き合いたくない。
きっとハルウララが見たとか言うラブレターは、見間違いだったのだろう。
「なぁ、何か巻き込まれそうな気がするし、帰らないか」
『
帰る気はない。そう言って、ハルウララは俺から飛び降りると、奥へと向かって行った。
ハルウララを
好奇心旺盛な愛馬を追いかけて行くと、男たちの怒声や叫び声のようなものが聞こえてきた。
やっぱり、あれはラブレターではなかったのだ。
奥へと進んで行くと、ハルウララが立ち止まっているのを見つけ、彼女の後に立つ。すると、俺の視界へと映ったのは、
『うーん、どうやら私の予想が外れたみたいだね』
うん、そうだな。これはどう見たって呼出しにより起きたケンカだ。
『あそこに縛られている女の子には彼氏が居て。それでも彼女は
いや、どんなに恋愛に結びつけたがるんだよ! 自分の予想が外れたからと言って、無理矢理すぎるだろう!
彼女の言葉に、心の中でツッコミを入れる。
どこからどう見ても、彼は何かに巻き込まれているのは間違いない。
どうする? 警察を呼ぶか?
『うーん、思ったのだけど、どうしてみんな泥臭い殴り合いをしているのかな? 急所を蹴り上げれば、直ぐに終わるのに?』
自分のすべき行動を思案していると、ハルウララがしれっとエグイことを言い出す。
確かに急所を攻撃すれば、どんなに屈強な男でもタダでは済まない。
男性の急所はとてもデリケートだ。幼女の手が不意に当たるくらいで、下腹部に鈍い痛みが継続的に続く。例えば、肘をぶつけた時のジーンとした痛みが近いだろう。人によっては、頭痛や吐き気を感じることもある。
他で表現するのであれば、足の
小指が破壊されたと思った時の痛みがある時に、もう一度同じ場所をぶつけてしまったくらいの容赦のない痛みだ。
ダメージを受けてしまった時、どんな思考もフリーズしてしまい、痛みしか考えられなくなる。
鋭い一撃に息が詰まり、泣きたくなるが、涙が出ても泣き叫ぶ余裕がなくなるほど、あらゆる感情は言葉にならなくなる。
そして人によっては、普段祈ることのない神様に対して、この時ばかりは神様に祈りたくなってしまう。
あらゆることを反省し、日々の行いを悔いる。何でもいいから許されたくなり、痛みから解放されたいと言う気持ちが高まるのだ。
急所を蹴られたときの絶望感は言葉にならない。
そして急所を攻撃したやつに対して、怒りで目の前が一瞬赤くなることもある。それが例え愛する子どもであったとしても。それがワンランク上がると、一瞬意識を失い、目の前が白くなってしまう。
急所の痛みを知っている男は、無意識のうちに急所を攻撃してはならないと思い込み、ケンカ中に顔面は殴っても、急所を攻撃してはいけないと言う暗黙の了解が男たちの間で広がっている。
だから彼らは急所への攻撃を避け、正々堂々と拳や蹴りで殴り合いをしているのだ。
彼らの戦いに圧倒され、動けなくなっていると、あることに気付く。
床に立っている男たちの数が減り続け、今、最後の男が倒れた。
『
「まだその脳内設定が続いていたのかよ」
柱に括り付けられている女の子に、
「ありがとうございます! 早く私を助けてください」
「嫌だ。どうしてお前を助けなければならない」
「え?」
女の子は信じられないものを見たように、目を大きく見開く。俺も同様に驚いた。
「え? 今なんて?」
「だから、嫌だと言っている? どうして俺がお前を助けないといけない?」
彼の言動が理解できず、俺は思わず飛び出してしまった。
「お前、本気か?」
「お前、どうしてこんなところにいやがる!」
俺の姿を見た
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