第十二話 ゲーセンはギャンブル
〜
遡ること1時間前。
下着泥棒の件が冤罪となった日の翌日、俺はハルウララと学園の近くにあるゲーセンに来ていた。
店内は数人の大人や学校帰りだと思われる学生たちの姿が見える。
『ここがゲーセンか! 来るのは初めてだけど、賑やかでちょっとうるさいね』
どうやらゲーセンは初めてのようで、ハルウララが声音を弾ませて、当たりを見渡した。
『どれからやろうかな! ねぇ、どれでも遊んで良いんだよね!』
「ああ、約束だからな。でも、あまりハマり過ぎるなよ」
『分かっているって! よし、まずはアレをしよう!』
早速遊ぶゲームを見つけたようだ。彼女の選んだゲームは、スウィートランド。よく、小さい子どもが遊んでいるイメージの簡単なUFOキャッチャーだ。ボタンは①の掬いに行くと、②の掬ったものを離すの二つしかない。
ハルウララが小さい子ども用に用意されてある椅子の上に後ろ足で立ち、俺はタブレットを操作して100ポイントを支払い、ゲームを始められるようにする。
取り出し口が開き、ボタンが小さく光って遊べるようになったことを確認した。
「いつでも初めて良いぞ」
『よーし、たくさん景品をゲットしてやるんだから!』
筐体内を円形にゆっくりと景品が周り、ハルウララがタイミングを見計らう。
『ここだ! このタイミングで間違いない!』
自分の思ったタイミングでハルウララは①のボタンを押した。決められた動作でアームが動く。
どうやら、彼女の狙っているのは小さいニンジンのヌイグルミのようだ。
アームが右に動いて下に落ち、大きいツメでニンジンを掬う。
『やった! 取れた!』
一発で狙った景品を救うことができ、ハルウララは喜ぶ。だが、これで景品が獲得となった訳ではない。ここからはプッシャーに移行する。
固定された土台の上に設置されてある台が前後に動き、景品を手前の取り出し口に落とさなければならない。
自分の思ったタイミングでハルウララは②のボタンを押し、ツメが開いて救った景品を台の上に落とす。だが、小さいニンジンのヌイグルミは動く方の台の上に落下して乗り、景品を獲得することができなかった。
『ムキー! どうしてお金を使ったのに、景品が取れないんだよ! この筐体、壊れているよ!』
「いや、自販機じゃないのだから、取れないこともあるって。ゲーセンのクレンゲームなんて、こんなものだろう?」
『お金を使ったのに取れないなんて、こんなのギャンブルじゃないか! 競馬と同じだよ!』
プンプンと怒りを表すハルウララだが、彼女の言い分にもあながち間違ってはいないなと思う。
お金を使って運良く景品を獲得すれば、貰えるシステムは、ギャンブルと同じだ。そう考えると、縁日の射的やくじなどもギャンブルと言える。ギャンブルはしないと言う人が大多数だろうが、クレンゲームや縁日のくじなどをギャンブルに含めると、ギャンブルをしたことがない日本人は、ごく少数ではないのかと思ってしまう。
「何この筐体の景品! マジ神がかっているのですけど! 取り出し口をゴール板に見立てて、エアシャカールとアグネスフライトが7センチ差で置いてあるなんて、激アツじゃない! 設置した店員神すぎでしょう!」
「
はしゃぐ声が聞こえ、声が聞こえた方に顔を向ける。ギャルと思われる女の子がはしゃぎ、小学校高学年か中学生くらいの女の子がおどおどとしていた。
「
元気に声を上げ、ギャルの女の子はクレーンゲームを始めた。しかし、何度かトライしても、景品が取れない。
「どうなっているのよこの筐体は! 設置は神なのに、全然景品が取れないじゃない!」
「
「
「でも、確率機には、設定した金額のタイミングで確実に掴まないと、カウントがゼロになるものもあるの。これがそっちの設定なら、運が悪ければ永遠に景品は取れない」
「こんなに神がかっている景品の設置をしてある筐体が、悪質な設定の訳がないじゃない! 絶対にどっちか取ってやるのだから!」
「
「大丈夫、これだけお金を使ったのだから、次は絶対にゲットできるって、きっと、あと1000ポイント使えば、取れるはず」
遠目から見て思うが、それだけお金を注ぎ込んで取れないのなら、止めた方が良いと思う。完全にギャンブルをする人の状況に陥っているな。
これだけ使ったのだから、次は取れるかもしれない。そう思わせる人間心理をついたゲームであろうからな。
「まだまだ! これからよ!」
「もう止めようよぉ」
暴走する姉を見て、妹と思われる女の子は心配で涙目の状態となっていた。
もう、彼女のために諦めてくれ。
そう願っているが、
すると、今度は3本ツメのアームがアグネスフライトを掴み、持ち上げる。
「頼む! 今度こそ取れて!」
「お願い! これ以上
頼む、どうか取れてくれ。
何故か俺まで心の中で願ってしまった。
3人の願いが届いたのか、確率が来てくれたようで、アームはアグネスフライトを落とすことなく、取り出し口の真上にまで移動した。そして景品を離すと、取り出し口へと落下する。
「「やった!」」
2人は喜び合い、声を上げる。なせか、俺まで嬉しくなった。
「
「でも、それは
「いいの、いいの。元々
「本当!
「アタシも
「うん!」
2人は仲良く手を繋いでゲーセンから出て行く。
何だか良いものを見たような気がする。そう思っていると、頭を軽く叩かれた。
『もう! いつまで待たせるんだよ! 全然遊べないからつまらないじゃない!』
いつの間にか、ハルウララが俺に攀じ登っていた。
「あ、すまない。それじゃ、次は何をする?」
『もうギャンブルはしない。別のところに行こう!』
別の場所に行くように促され、俺たちはゲーセンを出て行く。
すると、自動ドアの前を
どうやら俺たちには気付かなかったようだ。
『
「いや、そんな趣味の悪いことができるかよ」
『良いから行くの! 誰のお陰で冤罪になったと思うの!』
「いや、そもそもお前が犯人だったじゃないか。もう、分かった! でも、バレそうになったら、引き返すからな」
こうして、ハルウララの暇潰しにより、俺は
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