第十九話 馬生ゲーム 繁殖期

「繁殖時代に入る前に、イベントが発生するナゾ? いったい何が起きるのか? ワクワクナゾ?」


 ゲームの進行をなぞなぞ博士がする中、彼女の言うイベントが発生する。


 目の前に色々なイベント内容が表示されては消えるのを繰り返し、今回発生するイベントが決まる。


「シャッフルだナゾ? これはプレイヤーの順番が入れ替わるナゾ?」


 順番が入れ替わる。そう、なぞなぞ博士が呟いた瞬間、俺たちの順番が入れ替わった。


「最初は内巣自然ナイスネイチャからナゾ? 良かったナゾね。1番ナゾ? まず、繁殖相手の牝馬を選ぶナゾ? 子どもの獲得したファンは、そのまま自分のファン数に加算されるので、気を付けて選ぶナゾ?」


 なぞなぞ博士が注意事項を語り、内巣自然ナイスネイチャはナイスネイチャの種付け相手を選ぶ。


「あのう、なぞなぞ博士、ひとつ質問して良いッスか?」


「良いナゾ? 何が分からないナゾ?」


「俺の選べる相手がラシアンジュディしかいないのだけど」


「それは親愛度に左右されるナゾ? 馬の親愛度が高いと、繁殖相手が多く設定されるナゾ? 今回のナイスネイチャは親愛度が低いので、ラシアンジュディ一択となっているナゾね」


「そうッスか。親愛度ッスか。確かにナイスネイチャが種付けした牝馬は何頭かいるッスが、このゲームにおいて、親愛度を上げるイベントはあまり起きなかったッスね」


 苦笑いを浮かべながら、内巣自然ナイスネイチャはラシアンジュディを選択する。するとその瞬間にイベントが始まった。


『ナイスネイチャとラシアンジュディの愛が深まり、2頭の間に子どもが生まれた。セイントネイチャーが誕生した』


「子どもが無事に生まれたので、次はクロちゃんのターンナゾ?」


 2番目はクロの番のようだ。彼女は繁殖相手の選択を押す。


「なぞなぞ博士、これってバグかな? 繁殖相手の一覧に、トウカイテイオーがいるのだけど?」


「バグではないナゾ? この馬生ゲームは、親愛度が高いと、プレイヤー同士の馬と交配をすることが可能ナゾ? つまり、2回行動が可能となり、より多くのイベントが発生するので、ファンを多く獲得することができるので、お得ナゾ?」


「なるほどね。今のを聞くと、トウカイテイオー一択じゃない。ヤマニンジュエリーを、トウカイテイオーと交配させるわ」


 クロが交配相手をトウカイテイオーに選んだ瞬間、イベントが始まった。


『トウカイテイオーとヤマニンジュエリーの愛が深まり、2頭の間に子どもが生まれた。ヤマニンシュクルが誕生した』


 そう言えば、ヤマニンジュエリーはトウカイテイオーと交配していたな。意外とこの交配システムには信憑性がありそうだ。


「それでは、お次は大和鮮赤ダイワスカーレットのターンだナゾ?」


「次は私ね。えーと、どんな牡馬ぼばがいるのかしら?」


 彼女が一覧の中からとある牡馬を選ぶ。すると、イベントが始まった。


『トウカイテイオーとダイワスカーレットの愛が深まり、2頭の間に子どもが生まれた。トウカイスカーレットが誕生した』


「ちょっと待て!」


 俺は結果を見て、思わず声を上げる。


「びっくりしたじゃない。どうしたのよ? 急に声を荒げて?」


「いや、なんでトウカイテイオーを選択するんだよ。ダイワスカーレットの交配相手なら、チチカステナンゴやキングカメハメハがいるじゃないか! どうしてよりにもよって、トウカイテイオーなんだよ!」


「だって仕方がないじゃない。このゲームに勝つには、より多くのファン数が必要なのよ。なら、2回行動が可能な馬になるようにするのが普通じゃない」


 大和鮮赤ダイワスカーレットの言葉に論され、それ以上は抵抗できなくなった。史実を捻じ曲げるが、これはあくまでもゲームだ。そう思うしかなさそうだな。


大和鮮赤ダイワスカーレットが終わったところで、次は魚華ウオッカの番だナゾ?」


「よーし、大和鮮赤ダイワスカーレットには負けていられねぇ! あいつに勝てる交配馬を探して見せるぜ!」


 意気込みながら、魚華ウオッカは操作を始める。すると、彼女は不適な笑みを浮かべ、交配相手を選んだ。


 彼女の笑みに背筋が寒くなる思いをするも、選択によってゲームが進行する。


『トウカイテイオーとウオッカの愛が深まり、2頭の間に子どもが生まれた。トッカが誕生した』


 やっぱり、彼女も同じ選択をしたか。まぁ、大和鮮赤ダイワスカーレットをライバル視している以上、こうなることは目に見えていた。


「次は明日屯麻茶无アストンマーチャンの番ナゾね。いったい彼女はどの馬を選ぶのか、楽しみナゾ? 因みに、トウカイテイオーが一覧になかった場合、99パーセントの確率で明日屯麻茶无アストンマーチャンは優勝できなくなるナゾ?」


「そうなのですかぁ? それはぁ、とても重大ですぅ」


 優勝できなくなる可能性を告げられ、明日屯麻茶无アストンマーチャンは不安そうな顔で操作する。すると、しばらくして彼女の顔が綻んだのを目撃した瞬間、ゲームが進行した。


『トウカイテイオーとアストンマーチャンの愛が深まり、2頭の間に子どもが生まれた。トウチャンが誕生した』


「アストンマーチャンの子どもですぅ。お母さんに似て、可愛いですぅ」


 誕生した子どもを見て、明日屯麻茶无アストンマーチャンは顔を綻ばせて喜びの笑みを浮かべていた。


 そう言えば、アストンマーチャンは現役のまま亡くなった名馬だ。例えゲームであったとしても、彼女にとっては感慨深いものがあるのだろう。


「トウチャンとは、面白いナゾね。子どもなのに、既に父親になっているナゾ?こんなパターンの名前の選ばれ方があるとは驚きナゾ?」


 続いてなぞなぞ博士が言葉を漏らすが、俺の前に空中ディスプレイが表示された。


 最後は俺の番だ。


「さて、どの馬を交配相手にしようか?」


 一覧に表示されてある馬の名前を見る。思っていたよりも候補は多い。


 だが、一覧を一通り見て、俺は苦笑いを浮かべた。


 交配相手の候補には、ヤマニンジュエリーやダイワスカーレット、そしてウオッカにアストンマーチャンの名前も表示されている。


「そうだったナゾ? 言うのを忘れていたナゾ? 先に交配した相手は、一覧に追加されるナゾ? 一度交配した相手と再度交配をすると、もう一匹操作することが可能ナゾ? つまり、2人が2頭を操作するので、1ターンに4回のファンを獲得することになるナゾ?」


 なぞなぞ博士が言い忘れていたことを告げた瞬間、クロたちが詰め寄ってきた。


「みんなどうした?」


「お願い、私と子どもを作って!」


「お願い、あたしと子どもを作って!」


「お願いだ。アタイと子どもを作ってくれ!」


「お願いしますぅ。私と子どもを作ってください」


 彼女たちの剣幕に押されて、俺は一歩後退りした。


 どれだけこのゲームに勝ちたいんだよ。でも、困ったな。誰かを選べば角が立ちそうだし、だからと言って、他の馬を選ぶと良くない展開に陥りそうな気がする。


「ねぇ、帝王♡私だよねぇ、だって、私たち幼馴染なんだから、別に2人で子を作ってもおかしくはないよ♡」


東海帝王トウカイテイオウ、あたしを選びなさいよ♡あたしだって、子どもを作りたい♡」


大和鮮赤ダイワスカーレットには負けられねぇ、奇跡の名馬の相手は、アタイがしてやる。アタイとしてくれたら、後悔させないくらいの思いをさせてやるぜ」


「奇跡の名馬さんはぁ、私としてくれますよねぇ。奇跡の名馬さんとのぉ、子どもならぁ、喜んで作りますぅ」


「これは、これは、面白い展開になったナゾ? 果たして東海帝王トウカイテイオウは、誰と子作りをするナゾね」


 俺の状況を見て、なぞなぞ博士はニヤついた笑みを浮かべていた。


 くそう。彼女は今の俺の状況に手を出せないようになっている。助けを求めることができないか。


「「「「ねぇ、誰と子どもを作ってくれるの♡」」」」


「私だよね」


「あたしよ」


「アタイだ」


「私ですよぉ」


 4人の美少女たちが、俺との子どもを欲している。


 こんなの悪夢だ。いや、夢だったのならどれほど良かっただろうか。けれど、これは夢ではなく現実に起きている。


 時間を巻き戻すことはできないが、もし過去に戻れるのであれば、2時間前に戻りたい。


 どうすればいい? そうだ! なぞなぞ博士がゲームマスターとして手が出せないのなら、同じプレイヤーなら止められるじゃないか。


内巣自然ナイスネイチャ、頼む。こいつらを説得してくれ!」


「どうせ俺はナイスネイチャと違ってプレイボーイじゃないッス。だから女の子にモテたことがないッス。全てのリア充のあそこが爆発すれば良いッス」


「どうしてこんな時に限って落ち込んでいる!」


 どうやら内巣自然ナイスネイチャは使い物にならないようだ。さて、どうやってこの状況を乗り切ろうか?


 悩んでいると、急にこのゲームの世界に変化が起きた。


 空間が歪み、捩れ初め、VR酔いのようなものを感じて気持ち悪さを覚える。そんな中、ゲームの世界が消え、普通の空き教室の空間に戻った。


「あれ? 空き教室になっている?」


『やっと現実世界に戻って来たね! さっきから何度も声をかけても反応しないし、もう怒ってゲームの電源を落としたよ! プンプン!』


 どうやらハルウララがゲームの電源を落としたようだ。


「ハルウララ……ありがとう」


『あれ? なんで帝王はお礼言っているの? まぁ、良いか。お礼を言われて気分が悪くなるようなことはないし』


「良いところでお邪魔されてしまったナゾ? ハルウララのような霊馬には、人間専用のVRゲームの効果は通用しなかったナゾね? これは改良の余地がありそうナゾ? 次は霊馬もゲームの世界に引き込めるようにしておいた方が良さそうナゾ?」


 なぞなぞ博士がブツブツと言葉を吐くが、こんな思いをするゲームは、二度としたくない。

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