第十七話 馬生ゲーム 全盛期編 前編

 幼年期が終わり、全盛期のコースへと切り替わる。


 順番は幼年期の順番をそのまま引き継いでいるので、俺からのスタートだ。


 さて、まずはマップのコースを確認するか。マップへとカーソルを合わせて選択すると、マップが表示された。


 マップは、いくつか分岐のような場所があるが、最終的には同じコースをぐるぐると回るようになっている。


 マップには1を出してしまうと悲しみマスになってしまう。1だけは絶対に出さないようにしないと。


 数字のカードを持っていれば回避できるが、カードは何も持ってはいない。ここは普通にルーレットを回すしかないな。


 なるべく大きい数字が出てくれ。


 心の中で大きい数字が出るように祈りながら回すと、ルーレットは10で止まる。


 よし、超ラッキーマスだ。


 超ラッキーの音声と共にイベントが始まった。


『ダービーを見据えて左回りのコースを走ることになったトウカイテイオー。3歳新馬戦に出走し、コース内を走る。不良馬場で先行馬が有利な展開である中、トウカイテイオーは後方から順位を上げて行く。最後の直線で追い抜き、2着のカラーガードと4馬身差を付けて圧勝した。全てのパラメーターが上がり、1000人のファンを獲得した』


 一気に1000人も増えたか。デビュー戦でこれなら、大きいレースではもっと多くのファンが付きそうだな。


 そんなことを思っていると、次に大和鮮赤ダイワスカーレットのターンになった。


「次はあたしね。あたしは5のカードを持っているから、まずはマップを確認しようかしら?」


 大和鮮赤ダイワスカーレットがマップを確認してみる。しかし5マス先は普通のイベントマスだった。


「これなら、普通にルーレットを回した方が良さそうね。ルーレットを回すわよ」


 ルーレットの項目を選択してルーレット盤が回り出す。しばらくしてルーレット盤の回転が収まると、数字は8だった。


「おっしい。もう少しで超ラッキーマスだったのに」


 指で音を鳴らして悔しさを表す中、駒が8マス先へと移動を始めた。だが、マスへの移動が終わった瞬間、通常マスが虹色に光って超ラッキーマスへと昇格して確変が起きた。そしてイベントが始まる。


『2歳新馬戦でデビューすることになったダイワスカーレット。最初は短距離でスプリンターにさせる予定だったが、調教師の意向で2000メートルに出走することに。しかし結果は2着のコスモグルミットと1馬身4分の3の差を付けて1着となった。この時、兄のダイワメジャーがマルチチャンピオンシップで優勝し、兄妹で優勝したことで、大きく記事に取り上げられた。全てのステータスが上がり、ファンが1000人増えた』


 確変が起きて昇格! そんな演出があるのか。これには驚きだ。


「さて、次はアタイの番だな。ダイワスカーレットには負けられねぇ! 良いマスに止まりやがれ!」


 魚華ウオッカがルーレットを回す。針が示した数字は5だった。


 駒が5マス進み、イベントが始まる。


『京都競馬場新馬戦1600メートルでデビューしたウオッカは、2番人気での出走となった。スタートから先頭となって差を広げ、直線では後方と3馬身半の差を付けて他を圧倒した。全てのパラメーターが上がり、ファンを500人獲得した』


「どうして圧倒的に勝ったのにファンが500人しか増えないんだよ。可笑しいだろう! ウオッカの人気なら、もっと増えてもおかしくないのに!」


 結果が納得いかず、文句を口にする。それだけ自分の愛馬を愛している証拠なのだろうが、ゲームに文句を言っても意味がないだろうに。超ラッキーマスと通常マスの違いが、ファン数に直結しているのかもしれないな。


 このゲームは、ファン数が多い人が勝利だ。このゲームに勝とうとするのなら、なるべく超ラッキーマスを踏むようにした方が良いな。そのためには、カードが鍵になるだろう。


「次は俺の番ッスか。何だか嫌な予感がするッス」


 嫌な予感がする。そう言いながら、内巣自然ナイスネイチャはルーレットを回した。ルーレット盤が回転し、止まった数字は3だ。


「やっぱり的中じゃないッスか! どうして俺ばかり3が出るッス! 確率可笑しいじゃないッスか!」


 出た数字に嘆く中、彼の意思に反して駒は自動的に動き、そして3マス目で止まった。


 そしてイベントが始まる。


『京都開催の新馬戦に出たナイスネイチャは、後方からのスタートになった。最後の直線で進路を塞がれつつも、僅差で2着と言う結果となる。ナイスネイチャは次のレースに向けて意欲を燃やした。スピードとスタミナ、そして根性のパラメーターが上がった。ファン100人獲得した』


「良かったじゃないか。ナイスネイチャが2着を取ったぞ。3以外の数字だ」


「全然嬉しくないッス! どっちにしろ、史実だから2着になるのは当たり前ッス! これ、俺は勝てないんじゃないッスか? 3の呪いッスよ」


 あまりにも3が続くので、励ましの意味で言ったのだが、彼には逆効果だったようだ。あまりにも不運な境遇に、このままやめてしまわないか心配だ。


『それではぁ、私の番ですねぇ、イベントがぁ、史実通りと言うのであればぁ、デビュー戦の結果は見えていますぅ。でもぉ、ルーレットを回さないとぉ、始まりませんのでぇ、回しますぅ』


 明日屯麻茶无アストンマーチャンがルーレットを回した。するとルーレット盤の針が指し示した数字は8となり、8マス進む。


 だが、大和鮮赤ダイワスカーレットも8マス先にいるので、同じマスに止まった。


 また2頭関連のイベントが始まるだろう。そう思っていると、バトル発生と言う文字が現れる。


 どうやら、全盛期では、同じマスに止まるとバトルが発生するようだ。


 阪神競馬場のファンファーレが鳴り、画面には桜花賞と言う文字が現れる。


 そして、チュートリアル的な簡単な説明分が表示された。


 どうやら互いにルーレットを回し、出た数字の数だけ進み、阪神競馬場を駆けるミニゲームのようだ。そしてルーレットはこれまでのステータスに反映され、出やすい数字が決められているとのこと。


「なるほどですぅ。ではぁ、私からのようなのでぇ、先にルーレットを回していきますぅ」


 先に明日屯麻茶无アストンマーチャンがルーレットを回し、ルーレットは6で止まった。6マス分進み、今度は大和鮮赤ダイワスカーレットの番になる。


「リアルと同じ様に私が勝って見せるわ」


 彼女がルーレットを回した。だが、結果は1となり、1マスだけ進む結果となった。


「こんな時に限って、ルーレット運がないわね」


 明日屯麻茶无アストンマーチャン大和鮮赤ダイワスカーレットが交互にルーレットを回し、終盤は接戦となった。だが、先にゴールしたのはダイワスカーレットではなく、アストンマーチャンだった。


「やったですぅ! 桜花賞の借りは桜花賞で返しましたですぅ」


「まぁ、所詮は運ゲーね。リアルとは違って実力ではないのだから、負けても仕方がないないわ」


 勝ったことに喜ぶ明日屯麻茶无アストンマーチャンとは違い、大和鮮赤ダイワスカーレットは悔しそうにすることなく、負けを受け入れた。


 まぁ、運ゲーなのだし、仕方がないところもあるからな。


 そう思っていると、2頭のステータスの変化が起きる。アストンマーチャンの全てのステータスが大幅に上がり、ファンが1000人増えたことに対し、ダイワスカーレットは全てのステータスが減少し、ファンも300人減った。これでダイワスカーレットのファンは700人だ。


「うそ! 負けたらペナルティーがあるの! 運ゲーなのに!」


 どうやら、負ければペナルティーが発生するようだ。勝てば大幅に上がるが、負ければ今まで積み上げていたものが崩されていく。


 実力ではなく運である以上、できることならバトルになるようなことは避けたい。


「それじゃぁ、私の番ね。どうしようかな? なるべくバトルはしたくない。私が持っているカードは6のカード。これを使えば誰とも同じマスに止まることはないけれど、次のターンで内巣自然ナイスネイチャが3を出すから結局バトルになってしまう。ここは普通にルーレットを回した方が良さそうね」


「メタ推理はやめてほしいッス! 確かに、これまで3しか出ていないッスけれど、100パーセント出ると思ってほしくないッス!」


 クロの言葉に、またしても内巣自然ナイスネイチャが怒る。


 まぁ、彼の気持ちも分からなくはない。


 クロがルーレットを回すとルーレットが回転し、9で止まった。


「ふぅ、どうにか回避することができたわ」


 9マス進んでイベントが始まる。


『ヤマニンジュエリーは今日も元気です。馬主さんからお裾分けのリンゴを貰って更に元気になりました。スタミナとパワーのステータスがアップ』


「あれ? 私にはレースイベントがないの?」


 どうやら、ヤマニンジュエリーのレースイベントは用意されていないようだ。

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