第十二話 桜花賞決着

 〜大和鮮赤ダイワスカーレット視点〜






『ここで、ソールレディ、ファレノプシス、プリモディーネ、レジネッタが加速して追い上げて来た! ローブデコルテを追い抜く! 歴代の桜の女王が横一直線に並んだ! 6頭の牝馬の接戦だ!』


 さすが歴代の桜の女王の称号を持つ名馬たちね。最後の直線が本当の勝負となると思っていたけれど、ここまで6頭が並んで接戦になるとは思ってもいなかったわ。


 もうすぐ、ゴール手前の坂に到達する。ここの急勾配の坂が、勝負の分かれ道となりそうね。


「アビリティ発動! 【トリプルティアラのオーラ】!」


『ここで、ソールレディとレジネッタが後方に下がる。そしてアパパネがダイワスカーレットとファレノプシス、プリモディーネを抜いて前に出た! しかし、その差は僅かにクビと言ったところか』


 アパパネの騎手がアビリティを発動した瞬間、ソールレディとレジネッタが若干下がった。そしてアパパネが前に出てしまったわね。リードはクビの差だけれど、ダイワスカーレットのスタミナを考えると、差し返すことができるかどうか、五分五分と言ったところでしょう。


 任意能力アービトラリーアビリティ【トリプルティアラのオーラ】は【女王の威厳】の上位互換。牝馬三冠を成し遂げた名馬のみに扱うことのできるアビリティ。その効果は、他の馬を萎縮させて速度を下げ、自身の加速力を上げることができる能力だったはず。


 バブとデバフの両方を兼ね備えたあのアビリティは、本来ならクビ差程度では収まらないはずだわ。


 きっと、自動能力オートアビリティの【冷静沈着】が発動して、デバフの方の効果を無効化したのでしょうね。


「そんな! 【トリプルティアラのオーラ】がここまでしか効果を発揮しないなんて! 練習の時と違うじゃない!」


 どうやら、思っていた程の効果を発揮できていなくて驚いているようね。彼女の言葉を聞く限り、デバフの対策をしておいて良かったわ。


「それじゃ、お返しよ! アビリティ発動! 【女王の威厳】!」


 反撃しようと、あたしはデバフのアビリティを発動させる。けれど、現状がさほど変わることはなかった。


『先頭はアパパネのまま、半馬身のリードへと広げて行く! その後をダイワスカーレットとファレノプシス、プリモディーネが追い掛ける展開ですが、中々追い付けない。これが史上3頭目の牝馬三冠を成し遂げた牝馬の実力だ!』


 やっぱり、デバフの対策はアパパネの方もしてあるみたいね。このままではまずい。本当に負けてしまう。


 ハルウララに負けて以来のレース。また負けを更新する訳にはいかないわ。


【全集中】【しなやかな走り】【冷静沈着】【女王の威厳】【馬密集】全てのアビリティを使い切った状態では、残り名馬の伝説レジェンドオブアフェイマスホースしか残っていない。


 だけどこれを使って、もしアパパネに届くことができなければ、あたしたちは負けてしまうことになる。


 負けてしまった時のことを考えると、正直に言って怖い。全力を出して、それでも届かなかった時のことを考えると、怖くて使うことができない。


 名馬の伝説レジェンドオブアフェイマスホースを使わなければ、言い訳ができる。使わなかったから負けたんだって。


 でも、必殺技を使って負けてしまっては、何も言い訳ができなくなり、実力で負けたと言う事実に、打ちのめされてしまうわ。


『最後の坂を駆け登り、残り100メートル。先頭はアパパネのまま1馬身のリード』


 リードを1馬身まで広げられてしまった。これはもう、完全に負けよ。名馬の伝説レジェンドオブアフェイマスホースを発動したところで、差し切ることは難しい。


名馬の伝説レジェンドオブアフェイマスホース! 三強の意地ザ・ウィルオブザスリーパワーズ!』


 後方からアストンマーチャンが必殺技を叫ぶ声が聞こえてきた。


『ここで後方のアストンマーチャンが物凄い末脚で上がって来る! しかし、掲示板入り入賞は難しいか』


 あの子、何をやっているのよ。あんなに引き離されているのに、使ったところで意味がないでしょうに。


 あたしには分からない。負けが確定しているのに、どうして足掻くことができるのよ。


 何を必死になっているのか分からないまま、ゴール板まで残り50メートルの地点に差し掛かろうとしていた。


大和鮮赤ダイワスカーレットとダイワスカーレット頑張れ! 私が応援しているよ!』


 観客席側ホームストレッチからハルウララの声が聞こえ、一瞬だけそちらに顔を向ける。


 ハルウララは扇子を口に加えて上下に振って扇いでいた。


 扇子には『優雅に可憐に咲き誇れ』と言う文字が描かれてあった。


大和鮮赤ダイワスカーレット、お前ならやれる! このレースに勝つことを信じているからな』


大和鮮赤ダイワスカーレット頑張って! まだ差し替えせれるよ!』


『こんなところで負けてどうするんだ! お前を倒すのはこのアタイだ! アタイが倒すまで、誰にも負けるんじゃない! 負けたら、絶交だからな!』


 そして帝王やお祭り娘、そして魚華ウオッカも同じ扇子を持ってあたしを応援してくれている。


 扇子に書かれた文字を見た瞬間、出走前に見た映像を思い出す。


 そうだったわ。ダイワスカーレットが生前に乗っていた騎手も、自分と走る馬が勝つことを信じて走っていたはず。


 あの人のように、あたしもダイワスカーレットの実力を信じて走るべきだわ。


 そして、帝王や魚華ウオッカに無様な負け姿を見せたくない。どうせ負けるにしても、堂々と走り抜けて、全力を出し切って負けた方が、数倍マシよ。


 そうでしょう。明日屯麻茶无アストンマーチャン


「ダイワスカーレット、お願い!」


『分かりましたわ。名馬の伝説レジェンドオブアフェイマスホース! 先頭への拘りオブセッションウィズバトル!』


『ここでダイワスカーレットが加速してきた。ダイワスカーレットがアパパネを追い抜く! しかし、ここでアパパネも終わらない! 何とか食いさがろうとしてくる!』


 ダイワスカーレットの名馬の伝説レジェンドオブアフェイマスホース先頭への拘りオブセッションウィズバトルは、終盤に入って2番手から4番手内であった場合、加速力が上がり、1番になる力を発揮する。


 あたしが出せる全力を出したわ。後は、ダイワスカーレットの走りを信じて上げるだけ。


『先頭はダイワスカーレットとアパパネの争い! しかし、外側からファレノプシスだ! ファレノプシスが追い上げて来る! しかし届かなかった。ダイワスカーレット1着でゴールイン! 今年度の桜の女王に返り咲いたのはダイワスカーレットです。2着アパパネ、3値着ファレノプシス、4着プリモディーネ、5着ソールレディと、歴代桜の女王が掲示板を独占する結果となりました』


 実況の言葉が耳に入り、あたしは信じられなかった。


 無我夢中で手綱と鞭を操り、ダイワスカーレットの走りに身を任せていたからだ。


『やった! やった! ダイワスカーレットの勝ちだ! わーい!』


 観客席側ホームストレッチからハルウララの声が聞こえ、ようやくあたしは桜花賞で優勝できたことを自覚する。


「本当に……勝てたんだ」


 息が荒くなる中、あたしは小さくガッツポーズをした。








掲示板の結果


1着8番

    >アタマ

2着5番

    >1 2/1

3着7番

    >1 

4着3番

    >ハナ

5着1番







払い戻し名          払い戻し金

単勝             270ポイント

馬連             227P

馬単             370P

三連単            349P

三連複            計算中P

ワイド3−7          110P

   3−16         115P

   7−16         112P

複勝 3番           216P

   7番           184P

   16番          136P


(100P購入での計算)

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