第十一話 こうなるのなら、最初から手を組まない方がよかった
〜
「あなた何やっているのよ! 作戦と違うじゃない!」
「何を言っているのですか? 私は私の作戦で動いているだけですよ?」
この女、裏切ったわね!
「良くも裏切ったわね! 誰のお陰で桜花賞に出られていると思っているのよ!」
「それは感謝しています。あなたが声をかけていなければ、桜花賞には出られていませんでした。ですが、ひとつ勘違いをしています。あなたが私を利用したのではなく、私があなたを利用しただけです。そもそも、私は一度もあなたと手を組むとは言っていませんよ」
確かに、この女は一度も手を組むなんて言っていない。
掌の上で踊らされていたのは私の方だと知り、怒りが込み上げてくる。
「この女狐!」
思わず声を荒げてしまう。
『ダイジョーブデスカ? ナニヲソンナニ、カリカリトシテイマス? レイセイニナッテクダサーイ!』
愛馬のローブデコルテが冷静になるように訴えてきた。
彼女にこんなことを言わせてしまうなんて、騎手として未熟者ね。
チッ、あの女狐には苛つくけれど、確かに彼女の言う通りよ。冷静さを欠いては、彼女をこのレースに勝たせて、桜の女王の座を与えることなんてできない。
優勝争いをする馬は、アストンマーチャンだけではない。ダイワスカーレットやアパパネなど、歴代の桜の女王の称号を持つ名馬たちとも競り合わなければならないわ。
今はアストンマーチャンよりも、アパパネに警戒をした方が良い。彼女の素早い末脚には警戒をしないと。
頭の中で思考を巡らし、レースの状況を把握する。
今はアストンマーチャンがブロックしているせいで、前に進めない。だけど、ローブデコルテの武器は、大外からでも差し切ることのできるパワーとスタミナにあるわ。
ここは、最終直線を視野に入れつつ、外側へと移動した方が良さそうね。
手綱を操作し、私はローブデコルテを外側へと移動させる。
これで、目の前の進路を塞ぐ馬は居なくなった。後は最終直線で追い抜き、差し切ってゴールするだけだわ。
『先頭はダイワスカーレットのまま、緩やかな坂を駆け下り、第4コーナーを曲がります。間もなく内側のコースとの合流地点に差し掛かろうとしています』
先頭のダイワスカーレットとの差は、およそ3馬身差。これなら、必殺技で距離を縮めることができたら、最後のアビリティで追い抜いて差し切ることもできるはず。
『ここでアパパネが動いた。外側から加速する! 8番手から6番手、5番手にまで上がった! ここでローブデコルテと並ぶ!』
気が付いた時には、アパパネがローブデコルテよりも外側の位置へ並走していた。
『あなたは……知識としては知っているわ。運良く
『ここでアパパネがローブデコルテを抜いた! コスモマーベラス、ショウナンタレントとロンドンブリッジを抜いて2番手に上がった!』
アパパネの言葉を聞いた瞬間、私は悔しい思いに駆られる。
当時の
ローブデコルテは5番人気であったのにも関わらず、最後に差し切ってハナ差で1着を取ることができた。
彼女が
歴代の桜の女王がなんだ! いくら強敵であっても、最後まで諦めない者に勝利の女神は微笑むのよ!
『先頭はダイワスカーレットのまま、2馬身差でアパパネが追いかける! 残り400メートル!』
負けられない! 負ける訳にはいかない! ローブデコルテのためにも、あの
『
『ここで大外からローブデコルテが迫って来た! ダイワスカーレット、アパパネ、ローブデコルテの接戦か!』
いける! いけるわ! 何が2冠覇者よ、何が史上3頭目の牝馬三冠馬よ。最後まで諦めない者こそが、真の勝者となり得るのよ!
ローブデコルテに鞭を打ち、彼女に加速するように合図を送る。
『
『
『
『
『ここで、ソールレディ、ファレノプシス、プリモディーネ、レジネッタが
瞬く間に追い抜かれた光景を目の当たりにした私は、衝撃的過ぎて一時的に思考が止まってしまった。
これが、歴代の桜の女王の力なの。
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