第十話 明日屯麻茶无の思惑

 〜明日屯麻茶无アストンマーチャン視点〜






「あなた何やっているのよ! 作戦と違うじゃない!」


「何を言っているのですか? 私は私の作戦で動いているだけですよ?」


 彼女の言葉を聞いた瞬間、私はしてやったりと思って、心内でほくそ笑ます。


 まさか、あの時にローブデコルテと契約をしている騎手から声をかけられるとは、思ってもいませんでした。


 私は一昨日のことを思い出します。






「探したわ。あなたが学園のアイドルね。アストンマーチャンの騎手」


 背後からぁ、私のことを呼ぶ声が聞こえて来ましたぁ。なのでぇ、振り返るとぉ、そこにはぁ、銀髪のゆるふわロングヘアーの女の子がぁ、立っていましたぁ。着ている制服はぁ、トレイセント学園のぉ、制服ではありませんですぅ。彼女の着ている服はぁ、霊馬学園の生徒ですねぇ。


 彼女はどうしてぇ、私の二つ名や契約している馬のことをぉ、知っているのでしょうかぁ?


「誰でしょうかぁ? 私はぁ、あなたのことをぉ、知らないのですぅ」


「噂通りの変わった喋り方をするわね。のんびりしすぎるような気もするのだけど」


「これがぁ、生まれながらのぉ、口調なのでぇ許してくださいですぅ。でもぉ、レースだとぉ気持ちが昂ってぇ、普通になるのですよねぇ」


 私のぉ、言葉を聞いた女の子はぁ、どうしてかぁ額に手を置きましたぁ。頭痛でも起きたのでしょうかぁ?


「あなたと話していると、ぺースが乱れそうだわ。単刀直入に言うわよ。もし協力してくれるなら、桜花賞に出走できるようにしてもらえるとしたら、どうする?」


「桜花賞の出走ですかぁ? う〜ん」


 小首を傾げながらぁ、私は考えますぅ。


 正直に言ってぇ、この人の言っている意味がわかりませんですぅ。何を根拠に言っているのでしょうかぁ?


「何を根拠にそのようなことを言えるのでしょうかぁ? 桜花賞の出走メンバーはぁ、既に決まっていますぅ。それなのにぃ、どうしてそのようなことが言えるのでしょうかぁ? 見た感じぃ、あなたにそんな権力があるとは思えないのですぅ」


「確かにあなたの言う通り、私にはそのような権力はないわ。けれど、私の後ろには、それを可能にする人物が居るのよ。私と手を組み、大和鮮赤ダイワスカーレットを倒すと言ってくれれば、あなたに桜花賞の出走権を上げることができるわ」


 彼女の言葉を聞いて、何となくわかりましたぁ。恐らく彼女はぁ、新堀シンボリ学園長の刺客の可能性がありますぅ。でもぉ、どうして大和鮮赤ダイワスカーレットさんをターゲットにしているのでしょうかぁ?


 きっとぉ、大和鮮赤ダイワスカーレットさんをぉ、ターゲットにしなければならない事情が起きたのでしょうねぇ。でもぉ、確信に至るにはぁ、まだまだ材料不足ですぅ。なのでぇ、もう少し情報を引き出した方が良さそうですねぇ。


「そうですねぇ、いきなりなのでぇ、直ぐにイエスとは言えないですぅ。協力するにはぁ、ある程度信頼関係が必要ですよねぇ、だからぁ。あなたの真名を明かしてくれないでしょうかぁ?」


「なるほど、まぁ良いわ。手を組むには、相方のことを知っていた方が良いでしょう。私の真名は襟無衣装ローブデコルテ、パートナーでもある愛馬も、もちろんローブデコルテよ」


 ローブデコルテ、それはぁ、アストンマーチャンと同じ世代の牝馬ひんばですねぇ。そして、優駿牝馬オークスを優勝して樫の女王となった馬ですぅ。


 桜花賞でぇ、アストンマーチャンとも競い合ったことがありますぅ。あの時はぁ、ローブデコルテがぁ、4着でぇ、アストンマーチャンは7着でしたねぇ。


 なるほどぉ、だから大和鮮赤ダイワスカーレットさんの刺客としてぇ、あなたが送り込まれた訳ですかぁ。そして同じくぅ、ダイワスカーレットに敗れた馬と契約している私にぃ、協力をお願いした訳なのですねぇ。


 少しずつですがぁ、どうして私に声をかけてきたのかがわかりましたぁ。


襟無衣装ローブデコルテさんですかぁ。なるほどですぅ。だから私の協力を求めてきたのですかぁ」


「そうよ。あなたなら、私の気持ちが分かるでしょう! ダイワスカーレットとウオッカの2強と言う強力な光に遮られ、私の愛馬やあなたの愛馬はどんなに活躍しても、小さな光となって遮られてしまう。3強を逃したアストンマーチャンと契約しているあなたなら、私の気持ちも分かるはず」


 自身の胸に手を置いてぇ、襟無衣装ローブデコルテさんはぁ、必死に訴えて来ますぅ。


 確かに彼女の気持ちもわかりますぅ。昔の私ならぁ、なんの躊躇いもなく彼女の手を握っていたでしょう。ですがぁ、私はもう、そんな下らないことでぇ、アストンマーチャンに無理させたくないのですぅ。


 騎手の身勝手な思いにぃ、愛馬を振り回して傷付けたくはないですぅ。もう、私の心の中にはぁ、ダイワスカーレットやウオッカに勝ってぇ、アストンマーチャンの存在を世間に知らしめるつもりはないのですぅ。


 私は断ろうとしましたぁ。ですがぁ、あることが閃いてしまったのですぅ。


 もしぃ、彼女の味方をしているフリをしていればぁ、新堀シンボリ学園長側のぉ、情報を引き出せるのではないでしょうかぁ?


 妙案が浮かんだ私はぁ、彼女の提案を受け入れることにしましたぁ。


「分かりましたぁ。桜花賞に参加できるのならぁ。ダイワスカーレットと戦いますぅ」


「交渉成立ね。なら、今後の作戦に付いて考えましょうか」


 それからぁ、チャンスがあればぁ、彼女から情報を引き出しぃ、色々なことが知ることができましたぁ。


 まさかぁ、霊馬競馬のシステムにぃ、あんなものが存在しているなんてぇ、予想すらできなかったですぅ。これならぁ、大和鮮赤ダイワスカーレットさんがぁ、新たなターゲットとして追加されるのも納得ですぅ。


 そしてぇ、いつかは私にも刺客が送り込まれていたでしょうねぇ。


 でもぉ、最初から裏切っていることはぁ、レース中に分かってしまいますぅ。なのでぇ、桜花賞後はぁ、いつ刺客が送り込まれてもぉ、良いようにしておかないといけませんねぇ。

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