第十二話 なぞなぞ博士はナゾ?

 手紙の送り主がいる場所が分かった俺は、急いで思い付いた場所へと駆けて行く。


「ちょっと待ってよ! どこに向かうの!」


「霊馬召喚システムのある部屋だ!」


 クロの問いに、走りながら答える。


 俺が辿り着いた答え、それが霊馬召喚システムの機材が置かれている部屋だ。


 騎手が求めている時、それに応えてくれる場所。霊馬騎手が求めているもの、それは霊馬だ。そしてその思いに霊馬が答えて顕現してくれる。


 予想が当たっていれば、手紙を送った人物は、あの部屋にいる。


 霊馬召喚システムのある部屋の前に辿り着くと、取っ手に手を置いた。


 普段は丸善好マルゼンスキー学園長がこの部屋の鍵を管理しているので、普段は空いていない。俺の予想が当たっていれば、この扉は開くはずだ。


 緊張で心臓の鼓動が早鐘を打つ中、扉を開けるために少しだけ力を入れた。


 すると、扉は簡単にスライドして横にずれ、部屋の中に入ることが許される。


 足を踏み入れて部屋の中に入ると、霊馬召喚システムの機材の上に、1人の人物が立っていた。


 身長は推定150センチ前後だろうか? 馬の耳の付いているフードを被って、こちらに背を向けていた。


「午後16時55分ナゾ? 5分前に来るとは、さすがナゾね」


「やっぱり、この場所が正解だったのか。それで、俺に伝えたいことって言うのは?」


 彼女に問うと、馬の耳のフードを被った女の子が振り返る。


「ナゾナ〜ゾ♡」


 良く分からない言葉を口にしながら、女の子は猫のように手を丸めて片足で立ち、謎のポーズを取った。すると、制服の丈が合っていないのか、手を前に突き出した勢いで、袖が伸び、彼女の手を隠す。


「君は誰ナゾ?♪ ワタシは誰ナゾ?♪ 全てが謎に包まれた残念系美少女! それがワタシ、なぞなぞ博士ナゾ!♪」


 急に歌い出したかのようなテンポで言葉を連ねる女の子に驚き、一瞬だけ言葉を失う。


 一応自己紹介をしてくれたのだろうか。


「それでは、再び出会えた記念になぞなぞナゾ?」


 どうにも現状を飲み込めていないでいると、なぞなぞ博士と名乗った女の子はなぞなぞを出すと言い出す。


「ナゾナ〜ゾ♡ 入り口1つ出口は3つ、もしくは入り口1つ出口は2つになっている騎手が特定の日に身につけているものって、な〜んだナゾ?」


 一度両足立ちになって体勢を楽にしたかと思うと、彼女は再び同じポーズを取る。


 話が先に進まないが、このままなぞなぞを無視しても、時間だけが無駄に過ぎ去りそうな気がする。


 入り口1つ出口は3つ、もしくは入り口1つ出口は2つになっている騎手が特定の日に身につけているものか。


 普通のなぞなぞなら、この問題の答えは洋服やズボンと言うのが定番の答えだ。しかし、このなぞなぞには、騎手が特定の日に身につけているものという、条件が付いている。


 つまり、一般的な答えは間違いと言うことになる。騎手が身に付けているもの……身に付けているもの……そうか、分かったぞ。


「答えは勝負――」


『勝負下着!』


 答えを言おうとした瞬間、ハルウララが俺の言葉を遮って己の導き出した答えを言う。


「勝負下着ナゾ? うーん、困ったナゾね。人によってはあるだろうから、あながち間違えでもないナゾ? でも、ワタシが望んでいる答えではないナゾ?」


 ハルウララの問いになぞなぞ博士は困ったかのように苦笑いを浮かべる。


「答えは勝負服だろう」


「正解ナゾ? 流石無敗の騎手ナゾ? なぞなぞの答えも1着ナゾね」


『私のだって正解だよ! 間違いではないもん! だから、私が1着! 帝王は2着!』


 なぞなぞ博士の言葉に納得のいかなかったハルウララが、駄々を捏ねる。


 正直、どっちだっていいじゃないか。


「なぞなぞはもう良いだろう。それで、俺に伝えたいことは?」


「もう言ったなぞ?」


「いや、なぞなぞを出しただけじゃないか?」


「だから、なぞなぞで伝えたじゃないかナゾ?」


「いや、意味が分からないのだが?」


 彼女が何を言いたいのか、全然分からない。


「仕方がないナゾね。なら、最初から解説するナゾ? レース出走と言う入り口は一緒でも、ゴールと言う出口には複数のパラレルワールドが存在するナゾ? 今までは優勝と言う出口を引き当てたからこそ、優勝ができているナゾ? でも、少しの間違いが、別の出口へと繋がってしまうナゾ?」


 つまりは、連勝しているからと言って、油断していると負けることになると忠告をしてくれたのだろうか?


「札幌競馬場、メイクデビューの時には、油断してハルウララに負けてしまったナゾ? でも、次は負けないナゾ? 今度はワタシたちが勝つという、未来の出口に先に辿り付いてみせるナゾ?」


 彼女の言葉に、俺は入学したばかりの頃を思い出す。そう言えば、こんな感じの騎手が居たような気がするな。でも、はっきりとは覚えていない。


 彼女のことを思い出しかけていると、なぞなぞ博士の隣に、1頭の馬が現れた。赤褐色の肌に『なぞ?』と書かれた緑色のマスクを被っており、碗節わんせつ飛端ひたんの部分は黒ずんでいる。そして右前足以外のつなぎ部分は白くなっていた。


 この馬には見覚えがあった。確か『ナゾ』って言う名前だったな。


「えーと、帝王に言いたいのはそれだけなの?」


 今まで静観していたクロがなぞなぞ博士に訊ねる。


「そうナゾよ」


「ではぁ、あのラブレターなんだったのですぅ?」


 クロが口火を切ったことがきっかけで、続いて明日屯麻茶无アストンマーチャンも彼女に訪ねた。


「ラブレターナゾ? そんなものは書いた覚えはないナゾ?」


「ラブレターではない? なら、どうしてハートのシールなんてものでフタを止めていたのよ?」


 今度は大和鮮赤ダイワスカーレットが訝しむようになぞなぞ博士を見ながら問う。


「それはたまたま手元にあったのが、ハートのシールだったと言うだけナゾ? もしかして馬のシールの方が良かったナゾ?」


 なぞなぞ博士の答えに、クロたちは一斉に溜め息を付いた。


 ここに来て疲れが出たのだろうか?

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