第十一話 手紙の送り主の居場所

 告白を断るために、俺たちは手紙の解読に取り掛かる。


 手紙には、【ナゾナ〜ゾ♡ 騎手が求めた時、それに応えてくれる場所ってどこナゾ? 17時までに来て欲しいナゾ? 伝えたいことがあるナゾ? 待っているナゾ?】と書かれてある。


「うーん、関係ない場所は省くと、騎手が求めた時に、それに応えてくれる場所に向かえば良いんだよね」


「アタイは考えるのは面倒臭い。考えるよりも行動する派だから、片っ端から探そうぜ。これだけの人数が居るんだ。人海戦術の方が早いと思う」


 クロが暗号文の解読をしようとすると、魚華ウオッカが行動した方が早いと言った。


「これだから魚華ウオッカバカあれなのよ。指定している場所が校舎内とは限らないわ。学園の敷地内を全て探そうとすると、時間以内に見つけ出すのは難しいわ。なら、手紙の内容を推理した方が早いに決まっている」


「何だと! アタイの考えが悪いって言うのかよ!」


 魚華ウオッカの案に対して、大和鮮赤ダイワスカーレットが反論する。しかし、彼女の言い方にトゲがあったからか、魚華ウオッカは声を荒げてしまった。


「別に悪いとは言っていないわよ。少しは頭を使えって言っているの」


「バカにしやがって! もう良い! こうなったら、アタイが先に見つけてやる! 大和鮮赤ダイワスカーレット、勝負だ! どっちが先に手紙の送り主を見つけるか競ってやる」


「別に良いわよ。どうせ先に見つけ出すのはあたしだから。どうせ魚華ウオッカには見つけられないでしょうから、その勝負に乗って上げるわ」


「言質取ったからな! アタイが先に見つけて後悔しても知らないからな! ブオン! ブオン! ブオオオン!」


 魚華ウオッカ大和鮮赤ダイワスカーレットが、どちらが先に手紙の送り主を見つけられるか、勝負をすると言いだし、魚華ウオッカは手首を回してバイクのアクセルを回す動作をすると、エンジン音を口に出しながら校舎の外へと走って行く。


魚華ウオッカには負けられないわ。早く手紙の内容を解読しましょう」


 大和鮮赤ダイワスカーレットが手紙の解読を始めるように促し、俺たちは話し合う。


「騎手が求める時、それに応えてくれる場所。うーん、どこだろうか」


「きっと、騎手って言うのが解読の鍵になっているんじゃない? みんなは、どんな時にどんな場所を求めているの?」


 クロがこの場にいる全員に質問をした。


「俺はハルウララがうざ絡みをしてくる時、彼女の居ない場所を求めるな」


『帝王酷いよ! 私は帝王と仲良くなりたいから話しかけているのに、それをうざ絡みって言うなんて!』


 クロの質問に答えた瞬間、俺の頭に体重をかけていたハルウララが、前足を使って頭を叩いてくる。


 けれど、ヌイグルミの状態なので、いくら叩かれても痛くはない。


「あたしはレース前だと、落ち着くために紅茶を飲むから、リラックスできるような空間を求めてしまうわね」


「私はファンの方からぁ、しつこく付き纏われる時があるのですぅ。そんな時にぃ、誰もいないようなぁ、静かな場所に逃げ込みたいと思いますぅ」


「因みに私は、気分が落ち込んだときに、楽しい気分になれるところを求めるかな?」


 それぞれが自分の求めている場所を言うが、大和鮮赤ダイワスカーレット明日屯麻茶无アストンマーチャンが共通するくらいだ。


 共通点がバラバラ。これでは、答えに辿り着きそうにないな。


 悩んでいると、明日屯麻茶无アストンマーチャンが小さく手を上げた。


「ちょっと提案があるのですぅ。聞いてもらえますぅ?」


「ああ、何だ? 言ってみてくれ」


「ありがとうございますぅ。ではぁ、言わせてもらいますねぇ。騎手が求めている時なのですがぁ、それを別の言葉に変換してみてはどうでしょうかぁ? 例えばぁ『時』を『物』にしてみるとかですぅ」


 明日屯麻茶无アストンマーチャンの意見に、それもありだなと思った。


 確かに、そのまま本文の意味で考えても答えに辿り着けそうにない。


 騎手が求めているものがある場所、そう考えると答えに辿り着けそうな気がするな。


「騎手が求めている物ってなると、レースに必要な道具とかかな? 鞭やゴーグルがある場所に行ってみる?」


「そうだな。一応まだ時間はあるし、用具室に行ってみるか」


「そうね、そうしましょう」


「ではぁ、用具室に向けてぇ、レッツゴーですねぇ」


 クロの言葉をヒントに、俺たちは鞭やゴーグルが置かれてある用具室へと向かった。


 用具室は1階にあるので、玄関から徒歩1分程で用具室へと辿り着く。


 この部屋の中にいるのであれば、扉に鍵はかかっていないはず。


 扉の取手を掴み、横にスライドさせようとする。だが、扉には鍵がかかっていたようで、いくら力を入れてもびくともしない。


「どうやら外れのようだな」


 再び振り出しに戻った。用具室ではないとすると、答えはどこなのだろうか?


『今度は騎手を変換してみたらどう? 騎手をモテない男に変換してみたら、求めているものは彼女、つまり、女子トイレか女子更衣室だよ』


「お前、本気で手紙の答えを探そうとはしていないだろう。どうして女の子が女子トイレや女子更衣室に呼び出すんだよ。それじゃ変態じゃないか。解読に飽きちゃったのなら、先に帰ってくれても良いんだぞ」


 こいつは何を言っているんだよ。


『チ、チ、チ。帝王はまだまだだね。私の言いたいことを理解できていないなんて。きっとこの手紙の送り主は、新堀シンボリ学園長の刺客なんだよ。帝王に手紙を送って、女子更衣室へと誘導させ、着替え中の女の子を覗く。すると帝王は覗き魔扱いされて、この学園を退学にさせられる。そうなると、帝王は霊馬学園に編入するしかないと言う訳さ』


 ハルウララが推理を披露した。


 あながち的外れではない回答に、驚きを隠せなかった。


 義父はどんな手を使ってでも、俺を自分の経営する学園に編入させようとしてきた。


 一応約束ではレースでの敗北が条件となっているが、義父のことだ。約束を守らずに、他の手段を用いってきた可能性は否定できない。


『どう? 私の灰色の脳細胞から導き出した答えは?』


「正直に言って驚いた。お前がそこまで考えられるとは」


『どうだ! 参ったか! 今度から私のことをシャーロックウララと呼ぶが良い!』


「ウララ仮面の次はシャーロックウララか。お前、次から次へとバリエーションを増やしてくるな」


 さて、あながち間違えではないハルウララの怖い回答だが、どうしたものか。もし、彼女の言ったことが本当に起きているとするのであれば、向かう訳にはいかない。


「なら、私たちで手分けして女子トイレを探してくるよ。私は1階のトイレを調べてみるね」


「そうね、なら、わたしは2階のトイレを調べてみるわ」


「ではぁ、私は3階と女子更衣室を調べてみますねぇ、奇跡の名馬さんがぁ、犯罪者となって退学させられるのはぁ、私も嫌ですぅ」


『みんな! 帝王を変態にしないためによろしくね!』


 ハルウララがお願いをすると、女性陣がそれぞれの持ち場へと向かって行く。


 さらっとディスられているような気がするのは、気のせいだろうか?


 それからしばらく待つと、クロが戻ってきた。彼女は無言で首を左右に振る。どうやら1階の女子トイレは誰もいなかったようだ。


 続いて2階を捜索していた大和鮮赤ダイワスカーレットも戻って来たが、結果は同じだった。そして最後に明日屯麻茶无アストンマーチャンが戻って来る。


「3階トイレにいましたぁ」


「何だって!」


 思わず驚きの声が出てしまった。


『ほら見たことか! シャーロックウララの灰色の脳細胞は凄いんだぞ!』


 まさか、義父が俺を変態に陥れようとしていたとは思わなかった。あの男、そこまでして、俺を自分の経営する学園に編入させたかったのか。


明日屯麻茶无アストンマーチャン、それで、手紙を送ったのは誰だったんだ?」


 学園のアイドルに訊ねてみる。すると、彼女は苦笑いを浮かべた。


「誤解を招く言い方をしてすみません。トイレに居たのは虎石さんですぅ。扉を叩いたらぁ『直ぐに出るので待っていてください。同意があったので、直ぐに向かいますから』って言っていました」


 またしても用を足している最中に、レースの同意があったのか。彼女も大変だな。


「念のために手紙のことを聞いてみましたがぁ、彼女は知らないと言っていましたぁ。因みに女子更衣室にはぁ、学園の制服を着ている丸善好マルゼンスキー学園長がいましたがぁ、私は何も見ていないフリをしましたぁ」


 何故に丸善好マルゼンスキー学園長が、女子の制服を着ていたんだ? まぁ、趣味は人それぞれだ。俺も聞かなかったことにしよう。


 流石に丸善好マルゼンスキー学園長が刺客な訳がない。そうなると、ハルウララの推理は外れていたことになる。


「ハルウララが変なことを言ったから、余計な時間を使ってしまったな」


「どうしてそんなことを言うのさ! 帝王が答えを求めていたから、私はそれに応えてあげようとして、一生懸命に考えたんだよ!」


 ハルウララが再び頭を叩いてきた。


「すまない。今のは半分冗談だ」


『半分は本気じゃないか! もう怒った! シャーロックウララはもうやめる! もし、私が死んで消えても、再召喚に応じてあげないのだからね』


「え、今なんて言った!」


 ハルウララの言葉に引っかかるものを感じ、もう一度言ってもらうようにお願いする。


『だから、再召喚には応じて上げないって言っているの! もし、さっきの言葉を訂正するって言うのなら、万が一死んで消えても、再召喚に応じて上げるよ』


 再召喚……騎手が求めて馬が応じる。


 彼女の言葉がヒントとなり、全てのピースが揃った。そして答えと言う名のパズルが完成する。


「手紙の送り主の居場所が分かった! あそこだ!」

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