第八話 憤慨の新堀学園長

 〜新堀シンボリ学園長視点〜






 初夢特別の結果を見たワシは、手に持っていたお茶の缶を握り潰した。


「くそう。またしても負けたか。どうしてこうも、やること成すこと裏目に出てしまう」


 前回の弥生賞では、帝王がトウカイテイオーに騎乗してレースに出走した。その後、甥っ子からの情報でハルウララと仲違いをしたと言うことを知り、今回はダート戦になるように裏回しをした。


 当然同じ轍を踏む訳にはいかなかったので、ハルウララと仲直りをしたことも考え、プログラムにハッキングをかけ、アビリティの購入や譲渡がしばらくの間できないようにしていた。


「それなのに、どうしてこうも勝てないんだ!」


 ワシは声を上げて机を叩く。


 机を叩いた衝撃で手に痛みを感じるも、苛立ちは治らなかった。


「どいつもこいつも役立たずめ! やっぱりトレイセント学園の生徒の実力はこの程度か!」


 少しくらいは骨のあるやつが紛れ込んでいると思っておったのに、ワシが目をつけているやつは帝王に負かされた。こうなって来ると、ワシの学園の生徒を刺客として送り込むしかないか。


 そうなってくると、月毎に行われるG Iレースにしか刺客を送り込めなくなるな。


 それぞれの学園で行われるレースはG IIまで、G Iレースだけは開催日が決まっており、主催となっている開催学園に集まって行うと言う仕組みになっておる。


 今年の開催はトレイセント学園だ。


 今は四月、今月開催されるG Iレースは桜花賞、中山グランドジャンプ、皐月賞、そして天皇賞・春だ。


 中山グランドジャンプは障がいレースと呼ばれ、障がい物をジャンプしながら走るレースだ。だが、こちらは専門外なのでこのG Iだけはやめておこう。


 そうなってくると、残りは桜花賞と皐月賞、そして天皇賞・春だが、帝王の場合、天皇賞・春は参加資格がない。そして桜花賞は牝馬ひんば限定のレース。しかし、桜花賞では、別の思惑がある。だから桜花賞に、帝王に対しての刺客を送る訳にはいかない。


 次々と選択肢を消して行くと、残ったのは皐月賞だ。


 やっぱり皐月賞か。帝王個人の人気を考えても、皐月賞なら出走資格はあるはず。皐月賞に帝王に対しての刺客を送るとしよう。


 このレースの場合、やつが騎乗するのはトウカイテイオーだ。だが、今度こそ負ける気はしない。


 だって、こちらは強力なジンクスが味方に付いている。前回のレースで、トウカイテイオーは弥生賞を優勝した。しかし、弥生賞で優勝した馬は、皐月賞では勝てないと言うジンクスが存在している。


 もちろん、このジンクスには論理的な理由があるのだが、そのことを考えても意味がない。


 このジンクスの効果はワシの知る限り、1990年から2000年の10年間、破られなかった。しかし2001年には、あのダイワスカーレットの父親のアグネスタキオンがこのジンクスを打ち破った。


 だが、トウカイテイオーはアグネスタキオンではない。アグネスタキオンではない限り、あの強力なジンクスの影響は必ずあるはずだ。


「次こそ、お前に敗北の味と言うものを噛み締めさせてやるからな。東海帝王トウカイテイオウ


 ニヤリとほくそ笑んでいるとタブレットから着信の知らせがあった。直ぐに通話のパネルを押すと、空中ディスプレーに黒と金のツートンカラーの少年が現れる。


新堀学園長プロデューサー、負けちまったぜ! でも、熱いレースライブで俺は満足だ。ヒャヒャヒャ!』


 画面に映った雷の頭目、本名雷電頭目ライデンリーダーが満足気な顔をしている。


『それで次のレース公演はいつだい? 何ならGIレースに出て、観客たちとの熱い一体感を演出しても良いが』


「悪いが、お前はクビだ。ワシの事務所から出て行ってもらう」


『あちゃー、事務所を追い出されてしまったかぁ! これは別の事務所を探さないといけないな。ヒャヒャヒャ!』


 帝王への刺客から外すと言うと、雷電頭目ライデンリーダーはまるで他人事のように笑い声を上げた。


「それじゃ、俺は新しいトレーナープロデューサーを探すとしますか! 目指せ! ナンバーワン騎手アーティスト! 俺がメジャーデビューをした時には――」


 やつの言葉を最後まで聞かずに、ワシは通話を切る。


 さて、帝王の前に桜花賞の対策を取るとするか。もし、あの娘がアレに目覚めてしまい、帝王の手に渡るようなことなれば、やつを更に強化してしまうことに繋がってしまう。


 これ以上、不安要素を増やしたくはないからな。そのためにも、ワシは徹底的に芽を摘んで行く。


 今後の対策を考えていると、扉がノックされる。


「入れ」


 入室するように促すと1人の女子生徒が入って来た。フードを被って顔が見え難いが、声からしてワシが呼びつけた。帰国子女の樫の女王で間違いない。


「来てやったわよ。約束通り、可憐なる貴族とロクヨンの名牝馬ひんばとのGIレースで勝たせてくれるのでしょうね?」


「ああ、約束は守る。ワシの指示に従えば、あの2頭とのレースを実現させ、必ず勝たせようではないか」


「期待しているわよ。私は絶対にあの2頭に勝ちたいの」

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