第九話 動き出す恋のオッズ
ハルウララと共に初夢特別を優勝した俺たちは、あの後仲直りをした。
俺から謝るべきかと思っていたが、意外とハルウララの方から謝ってきたので、拍子抜けつつも、俺も謝罪の言葉を言って謝った。
こうしてひとつの困難を乗り越えた俺たちだったが、安心してはいられない。次はいつ、新たな刺客が送り込まれるのか分からないからな。
廊下を歩いていると、電子掲示板の前に
「ついに始まるな」
「ああ、今年はどんな名馬が出場して、桜の女王の称号を得るのか楽しみだな」
聞こえてくる生徒たちの言葉を聞く限り、今週末に行われる桜花賞の話をしているのだろう。
GIレースの桜花賞、牝馬のみ参加ができるレースだ。霊馬競馬となった今では、騎手の成績により選ばれた全国の騎手が集まり、桜の女王の座を賭けて競い合う。
親父が何かしらの手段を用いた場合、俺が選ばれる可能性がある。そうなれば、ハルウララで桜花賞に挑むことになるが、このレースに出場することになった場合、勝率は10パーセントもないだろう。
思考を巡らせながら廊下を歩いていると、軽くパーマを当てられ、緩くウェーブがかけられている赤いロングヘアーの女の子が視界に入る。
「よぉ、可憐なる貴族」
周囲には他の生徒もいるため、真名が暴かれないために、彼女の二つ名で声をかける。
「あ、
俺とは違い、
「まるでいつもは誰かと連んでいるような言い方だな」
「だって、基本的にはコアラの親子のように、ハルウララが引っ付いていることが多いじゃない」
「コアラの親子って」
苦笑いを浮かべながらも、彼女の言葉を聞いて確かにそうだなと思った。
ハルウララは、珍しく寮の部屋でお留守番をすると言っていたので、今日は付いて来ていない。まぁ、いつもの気まぐれだと思うから、飽きたら俺のところに来るだろうとは思っている。
「もう直ぐ桜花賞だな、可憐なる貴族は出馬するんだろう?」
「どうかしらね。まぁ、本音を言えば出馬できるのならしたいけれど。そこは白羽の矢が立つかどうかだから、分からないわ。選ばれたら当然出馬するわよ。第67回桜花賞の桜の女王と契約している者としてね」
ダイワスカーレットと契約しており、同じ名を持つ者として、選ばれたら出馬する意思を示す
そう言えば、俺とレースで競い合って以来、彼女が走っているところを見たところがないな。彼女が桜花賞の出馬メンバーに選ばれると良いのだが。
「
「ああ」
「そう、ちょうどあたしも教室に戻ろうと思っていたから、一緒に行きましょうか」
「帝王! ねぇ、これを見てよ!」
クロが椅子から立ち上がると、俺たちのところに来た。そして自身のタブレットの画面を俺に見せる。
「恋の
「そう、性格診断の一種で、相手の特徴を記入して質問に答えると、その人との相性が
「へぇ、そうなんだ」
本当に女の子はこういうのが好きだな。
「ねぇ、帝王もやってみてよ! 面白いよ!」
目を輝かしてクロが俺にもやってみるように促してくる。恋は別として、クロは占いとかも好きだから、純粋に俺と誰かの
「まぁ、授業開始までまだ時間があるし、別に良いが」
「本当! ならお願い!」
クロが素早くタブレットを操作すると、俺に手渡してきた。画面には質問内容が書かれ、『はい』か『いいえ』で答えるシンプルな選択肢の質問が出されていた。
質問に答えていき、最後の質問を答える。
「全部の質問に答えてやったぞ。後は診断結果を待つだけだ」
「ありがとう。返して」
全ての質問に答えたと伝えると、クロは礼を言いつつ、タブレットを奪い取る感じで引ったくった。
俺も診断結果が見てみたかったが。まぁ、良いか。
診断結果が出るまでの間、クロはワクワクした感じで朗らかな笑みを浮かべていたが、暫くすると渋面を作り出した。
「そんな……
どうやら診断結果がお気に召さなかったようだ。
クロはなんやかんやで、占い結果を信じるタイプだからな。
さて、そろそろ授業が始まる時間だし、席に座るか。
自分の席に向かおうとしたところで、
「こっちにも答えてみてよ」
「いや、もう直ぐ授業が始まるから」
「何? お祭り娘にはしてあげるのに、あたしのは答えてくれないの? 幼馴染にはして、クラスメートにはしないって差別じゃないかしら?」
「分かった。やるよ。やれば良いんだろう」
赤い瞳で睨まれ、俺は折れると彼女のタブレットに表示してある質問に素早く答える。時間があまりなかったので、良く考えずに直感で答えた。
全ての質問が終わると、クロ同様に俺の手からタブレットを奪い取る。
すると、診断結果が出たのか、彼女は若干口の端を引き上げた。
「なぁ、
「内緒よ。所詮は占いだから」
答えを教えてもらえないと言う意地悪をされ、俺は若干の虚しさを感じる。
2人はいったい誰と俺との相性を調べたのだろうか?
その日の放課後、俺はクロと
自分の下駄箱の前に向かい、扉を開けると、中から一枚の封筒が落ちてきた。その封筒のフタの部分には、赤いハートのシールで止められている。
これ、なんだ?
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