第十五話 弥生賞決着
『第4コーナーを抜け、次々と名馬たちが最終直線へと駆け抜けて行きます。先頭はナイスネイチャ、1馬身差でラシアンジュディが追いかける。そして1番人気のトウカイテイオーは3馬身後だ! 果たしてこの後追い付くことができるのか!』
最終直線となり、ラストスパートをかけるタイミングとなった。
『おい、ナイスネイチャたちに追い越されてしまったぞ! このままでは負けてしまう! 早くアビリティを発動しろ』
過去の経験での物言いなのだろう。このままでは負けてしまうと彼は直感的に悟ったのかもしれない。
だが、これで良い。一番警戒すべきものは、ナイスネイチャのもう一つの
なので、ぎりぎりまではやつに1位をキープしてもらわないといけない。
勝負をかけるのは、ゴール手前にある坂を登り初めてからだ。そのために、今までアビリティを温存してきた。
『誰か〜! 助けて!』
『どうして私と言うものがありながら、他の
前の方から、助けを求めるナイスネイチャと、糾弾するラシアンジュディの声が聞こえてくる。
だが、
鞭を叩いて正気に戻させようとしているが、ナイスネイチャは逃げ、ラシアンジュディは追いかけることに夢中になっている。
一定の距離は離されているが、これならどうにか追い抜くことができそうだ。
だけど、競馬の面白いところは、ゴール直前での競り合いだ。どの馬が勝つのか分からない、そんなところに人々は魅了される。当然、後方にいる馬たちも油断することができない状況だ。
それにヤマニングローバルは、あのミスターシービーの子供だ。ケガの多い馬生だったが、霊馬となった今では関係ない。名馬の血を受け継いでいるだけあって、油断はできないだろう。
更に、カミノグレッセは名前に関した
ホワイトストーンは、28戦連続で重賞レースに出走した経歴を持つ。そのタフさは、ハルウララには劣るかもしれないが、油断はできない。
『トウカイテイオー! トウカイテイオー! 待ってよ! 僕は絶対に君に追い付くんだ!』
後方からトウカイテイオーの名を呼ぶ声が聞こえてきた。
『この声は、シャコーグレイドか。あいつもこのレースに参加していたのか』
『万年入着馬と呼ばれた僕だけど! トウカイテイオーの居るこのレースだけは負けられない! 君とのレースは2着と3着で敗れた僕は、その後も負け続けて、用無し馬なんて呼ばれるようになったけど、君に負けた悔しさをバネにして走り続けた。ねぇ、覚えている? 君の引退式の日、僕は1着を取ったんだよ! 君に認められたくって、頑張って、頑張って走り続けて、1着と取ったんだ。君の引退に花を添えたい気持ちで、全力を出して走った。だからこそ、霊馬となった今、君に勝ちたい! 君のライバルとしては、ふさわしくないかもしれないけれど、それでも僕のライバルはトウカイテイオー! 君なんだ! だから、このレースだけは絶対に負けられない!』
一生懸命に訴えかけてくるシャコーグレイドの言葉に胸を撃たれる。
彼も自分なりの思いでこのレースに挑んでいる。
『このオレに負け、引退したその日に優勝とか。まるでオレがいないから優勝できたようなものじゃないか。良いだろう! お前の熱い思いをオレにぶつけろ! その思いを払い退けて、優勝してやる!』
『馬群が更に縮まった! ナイスネイチャとラシアンジュディが並び、トウカイテイオーも1馬身差! その後をシャコーグレイドが走る! オースミロッチもここからだ! あの戦法が火を吹くぞ! 今、ヤマニングローバルとカミノグレッセがオースミロッチに並んだ! どの馬が優勝するのか分からなくなった! 勝負は最後の坂で決まる!』
「トウカイテイオー! 今こそ、温めいていたアビリティを使う! 【スピードスター】【闘魂注入】!」
2つのアビリティを発動し、トウカイテイオーに鞭を叩く。すると
『ここでトウカイテイオーが前に出た! しかし、ナイスネイチャも食い下がる!』
『まだだ! 僕は君を超える! 君がいなかったから、あの時優勝できたなんて思わせない! 実力で君に勝ちたいんだああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!
シャコーグレイドが
『ここでシャコーグレイドが前に出た! トウカイテイオーに一歩及ばなかったあの万年重賞馬が! 用無し馬と呼ばれたあの馬がついに、トウカイテイオーに勝つ日が来たのか! しかしリードは半馬身ほど、ゴール板を過ぎるまではまだ分からない!』
『僕は! 僕は! トウカイテイオーに今度こそ勝ちたい! 勝って、ライバルだと認められたい!』
『一番に坂を駆け上がって来たのは、シャコーグレイド! 続いてトウカイテイオー! 3番手はナイスネイチャ! そしてその後をラシアンジュディが追いかける! だが、オースミロッチとヤマニングローバル、そしてカミノグレッセも2馬身差だ! まだ逆転できる!』
『
『
『
『ここでオースミロッチとヤマニングローバル、そしてカミノグレッセが
やっぱり、最後の直線でこいつらも
「この時を待っていたッス! ナイスネイチャも落ち着きを取り戻した今が発動のタイミングッスよ!」
『
『ここで更にナイスネイチャが加速した! 外側に移動したのにも関わらず、トウカイテイオーたちに並ぶ! 6頭の馬が優勝を争う大混戦だ!』
「優勝争いが6頭? そんな訳がないじゃないッスか。優勝争いをすることなく、ナイスネイチャが勝つに決まっているッス!」
『
『ここで前に出たのはナイスネイチャだ! 3番人気のナイスネイチャがこのままリードして勝つのか!』
予想外の展開に焦ってしまう。だが、まだ俺たちには使用していない
「【最後の踏ん張り】!」
ラストの
『オレは、まだ諦めていない! 皇帝の息子の意地を見せてやる!』
『2着争いをしているトウカイテイオーが前に出た! 今、ナイスネイチャに並んだ! しかし後とは半馬身程のリードしかない!』
『僕は諦めない! 君の背中を追いかけるだけじゃない! 今度は君に背中を追いかけてもらうんだ!』
『更にシャコーグレイドが抜け出した! ナイスネイチャと並ぶ! 優勝争いはこの3頭に絞られたか! テイオーの意地か! それともテイオーの背を追いし者か! はたまたブロンズコレクターか!』
『俺は負けられない! 皐月賞と同じコースで負ける訳にはいかないんだ!』
『今日こそ、テイオーに勝つ!』
『3着で終わらせてたまるか!』
ゴール目前、俺はトウカイテイオーに鞭を打つことなく、彼の走りに身を任せた。
『ゴール! 勝ったのはトウカイテイオー! そして2着はシャコーグレイド! そして安定の3着となったナイスネイチャ! ブロンズコレクター! またしても連続3着だ! いったいどこまで3着更新を続けて行くのか! 4着、5着は写真判定となります』
実況の中山の声が耳に入った瞬間、俺は小さくガッツポーズをした。
これでどうにか転校は免れた。
「ありがとうな。トウカイテイオー。お前のお陰で勝つことができた」
掲示板の結果
1着3番
>アタマ
2着5番
>クビ
3着10番
>1 1/2
4着8番
>ハナ
5着12番
払い戻し名 払い戻し金
単勝 210
馬連 4010P
馬単 4920P
三連単 15980P
三連複 990P
ワイド3ー5 1028P
5−10 1127P
3−10 170P
複勝 3番 168P
5番 2584P
10番 264P
(100P購入での計算)
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