第六話 ダイワスカーレットの秘密
「レースの準備ができたところで、今度はレースを競う相手のことを考えようよ。レースは複数で行われるものだから、他の出走馬も出るけれど、何も情報がない段階では、ダイワスカーレットのことだけを考えよう」
対戦する名馬の対策をしようとクロから提案され、俺は思考を巡らせる。
ダイワスカーレットは、牝馬の中でも有名な名馬だ。俺が遊んでいるゲームアプリ、ウマキュン! シスターズにも登場している。確か……。
「ダイワスカーレットは、幻の3冠馬と呼ばれたアグネスタキオンと、スカーレットの一族であるスカーレットブーケの間に生まれたサラブレットの牝馬だね。通算成績は12戦と少ないけれど、8勝もしているし、負けた残りの4戦中2戦は2着を取った強敵だよ」
クロの説明を受け、生唾を飲み込む。
ダイワスカーレットは有名な牝馬だが、そこまで強い馬だとは知らなかったな。
「普通に走っては、ダイワスカーレットには勝てない。でも、可能性は低いけれど、あの逸話を利用すれば、勝利する可能性は僅かに上がる」
「逸話?」
「うん、ダイワスカーレットはゲート内が苦手だったんだ。父親のアグネスタキオンも、精神面では弱いから、それが遺伝したのだろうね。ゲート内で異常に緊張して、ゲートに体が触れただけでも、錯乱してしまうこともあったんだ。
「なるほどな」
確かに、クロの言う通りに、ダイワスカーレットの精神面を弱くさせれば、出走時に出遅れさせることが可能かもしれない。
「だけど、注意して欲しいのが、例え出遅れさせたとしても、油断はできないことなんだ。ダイワスカーレットは、とにかく前に行きたがる性格で、先行や逃げのスタイルで走るけれど、それだけトップスピードに入るまでの時間が短く、加速力がある馬なんだ。例え、出遅れさせたとしても、直ぐに先頭集団に入るだろうね」
「でも、それは逆にスタミナを多く消費する走りになるとも言える。メリットは少ないかもしれないが、出遅れさせれば勝ち目はあるかもしれないな」
「そうだね。おそらくだけど、ダイワスカーレットの
「えーと、
画面には乗っていたけれど、詳しいことは知らない。
「
今更な質問だが、クロは嫌そうな顔をせずに答えてくれた。やっぱり、俺の記憶が一部欠如しているからなのだろうな。
つまり、俺の愛馬であるハルウララの伝説から考えるに、発動条件は観客の人数が関わってきそうだな。1勝もできない負け馬として、ある意味人気を勝ち取った馬だし。
「現段階では、こんなものかな? 後は帝王次第だから、頑張ってね。
胸の前で腕を組み、クロは
ここまで彼女がサポートをしてくれたんだ。絶対に負ける訳にはいかない。
「それじゃ、そろそろ競技場へと行こうか。もう直ぐ時間になるだろうから」
「ああ、どんな結末になろうと、俺は愛馬を信じて全力で力を引き出し、勝利を目指すだけだ」
覚悟を決めると、俺はレース会場へと向かう。
建物内に入り、選手専用の入口前でクロと別れ、1人で奥へと向かった。
そして騎手控え室へと向かう。
「お、どうやらこれで全員が集まったようですね。時間通りにレースが開始できそうで良かったです」
扉を開けて中に入ると、解説担当の虎石と目が合う。彼女は俺の姿を認めて安堵したような表情を浮かべていた。
室内を見渡すと、
それにしても、広いな。普通の控え室に比べると、十数倍も広い。
「それでは、皆さんにはここで、今回のレースを行う愛馬を出してもらいます。そうしていただけないと、人気投票で
虎石からの説明を受け、俺たち騎手は互いの顔を見合わせる。
「良いわよ。あたしの可憐なる愛馬を見せつけてやるわ。その目に焼き付けなさい。来なさい! あたしの愛馬! ダイワスカーレット!」
栗毛の毛色に水色のマスク、そしてマスクで一部が隠れているが、眉間から鼻へと続く白く細長い模様。そして優しくも力強さを感じさせる瞳。間違いなく、あの有名な名馬、ダイワスカーレットだ。
ダイワスカーレットの登場に、他の騎手たちがどよめく。
「さぁ、あたしは愛馬を見せたわよ。次はあなたの番」
俺へと視線を向けながら、彼女は愛馬を顕現させるように促す。
ここで出し惜しみをしても意味がない。なら、さっさと紹介をして全員の度肝を抜いてやった方が良いだろう。
「良いぜ。見せてやるよ。来い! 俺の愛馬!」
声を上げて叫び、契約している愛馬を呼ぶ。すると、俺の隣に契約をしているハルウララが姿を現した。
「茶色の肌に黒い
俺がハルウララを召喚した瞬間、
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