第六話 ダイワスカーレットの秘密

「レースの準備ができたところで、今度はレースを競う相手のことを考えようよ。レースは複数で行われるものだから、他の出走馬も出るけれど、何も情報がない段階では、ダイワスカーレットのことだけを考えよう」


 対戦する名馬の対策をしようとクロから提案され、俺は思考を巡らせる。


 ダイワスカーレットは、牝馬の中でも有名な名馬だ。俺が遊んでいるゲームアプリ、ウマキュン! シスターズにも登場している。確か……。


「ダイワスカーレットは、幻の3冠馬と呼ばれたアグネスタキオンと、スカーレットの一族であるスカーレットブーケの間に生まれたサラブレットの牝馬だね。通算成績は12戦と少ないけれど、8勝もしているし、負けた残りの4戦中2戦は2着を取った強敵だよ」


 クロの説明を受け、生唾を飲み込む。


 ダイワスカーレットは有名な牝馬だが、そこまで強い馬だとは知らなかったな。


「普通に走っては、ダイワスカーレットには勝てない。でも、可能性は低いけれど、あの逸話を利用すれば、勝利する可能性は僅かに上がる」


「逸話?」


「うん、ダイワスカーレットはゲート内が苦手だったんだ。父親のアグネスタキオンも、精神面では弱いから、それが遺伝したのだろうね。ゲート内で異常に緊張して、ゲートに体が触れただけでも、錯乱してしまうこともあったんだ。入厩にゅうきゅうから10日ほどで合格するゲート試験を、ダイワスカーレットは2ヶ月もかかってしまった。だから、成功確率は低いかもしれないけれど、ダイワスカーレットの精神面をよくない状態にすれば、出遅れさせることができるかもしれない」


「なるほどな」


 確かに、クロの言う通りに、ダイワスカーレットの精神面を弱くさせれば、出走時に出遅れさせることが可能かもしれない。


「だけど、注意して欲しいのが、例え出遅れさせたとしても、油断はできないことなんだ。ダイワスカーレットは、とにかく前に行きたがる性格で、先行や逃げのスタイルで走るけれど、それだけトップスピードに入るまでの時間が短く、加速力がある馬なんだ。例え、出遅れさせたとしても、直ぐに先頭集団に入るだろうね」


「でも、それは逆にスタミナを多く消費する走りになるとも言える。メリットは少ないかもしれないが、出遅れさせれば勝ち目はあるかもしれないな」


「そうだね。おそらくだけど、ダイワスカーレットの名馬の伝説レジェンドオブアフェイマスホースはそのトップスピードに入るまでの速度を上げる関連だと私は思う」


 名馬の伝説レジェンドオブアフェイマスホースは、愛馬のステータスを確認する画面に載っていたな。


「えーと、名馬の伝説レジェンドオブアフェイマスホースって何だっけ?」


 画面には乗っていたけれど、詳しいことは知らない。


名馬の伝説レジェンドオブアフェイマスホースって言うのは、霊馬競馬で使用することができる必殺技のようなものだね。発動条件はそれぞれの馬によって違うけれど、その馬を表す代表的な走りをした時に、発動することができるよ」


 今更な質問だが、クロは嫌そうな顔をせずに答えてくれた。やっぱり、俺の記憶が一部欠如しているからなのだろうな。


 つまり、俺の愛馬であるハルウララの伝説から考えるに、発動条件は観客の人数が関わってきそうだな。1勝もできない負け馬として、ある意味人気を勝ち取った馬だし。


「現段階では、こんなものかな? 後は帝王次第だから、頑張ってね。大和鮮赤ダイワスカーレットになんて負けたら、口を聞いて上げないからね」


 胸の前で腕を組み、クロは外方そっぽを向く。


 ここまで彼女がサポートをしてくれたんだ。絶対に負ける訳にはいかない。


「それじゃ、そろそろ競技場へと行こうか。もう直ぐ時間になるだろうから」


「ああ、どんな結末になろうと、俺は愛馬を信じて全力で力を引き出し、勝利を目指すだけだ」


 覚悟を決めると、俺はレース会場へと向かう。


 建物内に入り、選手専用の入口前でクロと別れ、1人で奥へと向かった。


 そして騎手控え室へと向かう。


「お、どうやらこれで全員が集まったようですね。時間通りにレースが開始できそうで良かったです」


 扉を開けて中に入ると、解説担当の虎石と目が合う。彼女は俺の姿を認めて安堵したような表情を浮かべていた。


 室内を見渡すと、大和鮮赤ダイワスカーレットの他に、見知らぬ生徒が6人いる。きっと彼らが今回の競うレースの騎手たちなのだろう。


 それにしても、広いな。普通の控え室に比べると、十数倍も広い。


「それでは、皆さんにはここで、今回のレースを行う愛馬を出してもらいます。そうしていただけないと、人気投票で倍率オッズを出すことができませんので」


 虎石からの説明を受け、俺たち騎手は互いの顔を見合わせる。


「良いわよ。あたしの可憐なる愛馬を見せつけてやるわ。その目に焼き付けなさい。来なさい! あたしの愛馬! ダイワスカーレット!」


 大和鮮赤ダイワスカーレットが右手を上げた瞬間、彼女の隣に契約している愛馬が姿を表す。


 栗毛の毛色に水色のマスク、そしてマスクで一部が隠れているが、眉間から鼻へと続く白く細長い模様。そして優しくも力強さを感じさせる瞳。間違いなく、あの有名な名馬、ダイワスカーレットだ。


 ダイワスカーレットの登場に、他の騎手たちがどよめく。


「さぁ、あたしは愛馬を見せたわよ。次はあなたの番」


 俺へと視線を向けながら、彼女は愛馬を顕現させるように促す。


 ここで出し惜しみをしても意味がない。なら、さっさと紹介をして全員の度肝を抜いてやった方が良いだろう。


「良いぜ。見せてやるよ。来い! 俺の愛馬!」


 声を上げて叫び、契約している愛馬を呼ぶ。すると、俺の隣に契約をしているハルウララが姿を現した。


「茶色の肌に黒いたてがみ、そして短い足と優しい瞳。そしてサンディオの人気のキャラである猫キャラ、ギティちゃんや可愛らしい動物たちで作られたマスク! これってまさかあの伝説の!」


 俺がハルウララを召喚した瞬間、大和鮮赤ダイワスカーレットは驚愕した表情を見せる。

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