四、巳之吉
ポンとコンの仲間には、人里近くで暮らすものも多かった。里の噂はいつでも私の耳に届いた。あの晩私が逃がしてやった若い木こりは、名を
遭難した
「なんとか弱いものだ、人間というのは」
今までに生きて帰したのはお前一人だというのに、
巳之吉は美しい青年だった。雪山にはときどき欲深な人間どもが踏み入れる。だが巳之吉はそんな連中とはまるで違って見えた。汚れのない瞳はむしろ、人間よりもポンやコンたちと親しく馴染むような気さえした。私がつい気まぐれを起こしたのはそのせいかも知れない。一度くらいは人間に情をかけてやっても構わないと思った。
ただし、私はひとつ約束を押し付けた。
「今夜のことを決して口にしてはいけない。もし誰かに話せば、そのときは殺す」
私はこの雪山で静かに暮らしたかった。つまらぬ怪談話に仕立てられ噂されるのは
だがその約束は、後に私自身を苦しめた。
「あの晩、小屋で何を見た?」
村の者たちは、年老いた木こりの死体を見て雪女の仕業に違いないと
それでよかったはずだ。
ところが、私の胸の中には理不尽な不満が募っていた。
——まさか彼奴、本当に私のことを忘れてしまったのではあるまいか。
私との約束のために忘れたふりをしているのではなく、長い高熱に浮かされるうちに、本当にあの晩の記憶を溶かしてしまったのではないか。
おお、巳之吉よ!「美しい」と言ったお前の言葉は、解けない氷のように私の胸に刺さったままだ。当のお前に忘れたとは言わせない。だが、もはやそれを確かめる術はなかった。
私は苦しかった。まるで自縄自縛そのものだ。お前があの晩のことを「覚えている」と口にしたとき、私はお前を殺さねばならぬ。だが、忘れられぬのは私の方だ。
胸の内の苦しさは、いつしか身体中へと広がっていた。雪色の腕が、頬が、首筋が、桜色に染まっていった。胸の内が
降ってきた雪を冷たいと感じたのは、初めてのことだった。
その日から私の体は日に日に弱っていった。雪山の寒さに
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