第21話 タッグマッチと行くか


「クレープ美味しかったね! てか、一口くらい食べてくれても良かったのに……」

「あ、ああ~。そう言えば、碧獣のグッズがクレーンゲームに追加されたらしいな。楽しみだなー、ほんとに」

「あー、話逸らした」


 柏木さんには悪いが……こればっかりは俺の精神衛生の問題なので仕方がない。 


 それはさておき。


 クレープを食べ終えた俺と柏木さんは、五階にある集合場所、ゲームセンターへと向かっていた。同じく、エレベーターを使って、だ。


「辺達、もう来てるかな」

「待ち合わせの時間まで……あと五分あるね」


 エレベーターのドアがウィーンと開く。その奥に見慣れた二つの人影があった。


「お、来た来た」

「早かったねー、二人とも」


 制服姿のカップルの片方、辺は紙袋を幾つか下げている。紙袋に印字されたロゴを見るに、先ほどアパレルショップで購入したものらしい。


「二人とも、さっきまで何して過ごしてたの?」

「文具屋に寄った後、フードコートでクレープ食べてた」

「おぉー、クレープ! 良いじゃん良いじゃん! あおりん、クレープ好きなの?」

「……まあ」


 柏木さんは俯きながら、ぼそりと言う。仕方ない、助け舟を出そう。


「そう言う山崎達は何してたんだ?」

「あたし達は……雑貨屋を回ったり、服選んだりしてたよ。……じゃじゃーん! 見てこれ、可愛いでしょ」


 山崎は紙袋の中から取り出したのは、石鹸が入っているであろう箱。パッケージには、マリーゴールドが描かれている。


「おお」

「千乃とお互いに石鹸選んで交換したんだぜ」


 うわあ、何か凄いおしゃれなことしてる……と思うのは俺だけだろうか。


「ま、報告はこのくらいにして! さっさと入ろ! 時間なくなっちゃう」

「こんなところで駄弁ってたら、他の客に迷惑だからな」

「そゆこと! ごーごー! ほら、あおりんも早く早く!」

「わわっ」


 俺は足早にゲームセンターに入り、柏木さんは山崎に背中を押されながら入って行った。



 ◆



「――わぁ~、懐かしい!」

「おお、金魚すくいか」


 山崎が立ち止まった先にあるのは、メダルゲーム「金魚すくい」。ポイ型のコントローラーを動かして、金魚やデメキン、たまに現れる金色の金魚なんかをすくう、メダルゲームコーナーには必ずと言っていいほど置いてあるゲーム機だ。


「あたし、これめっちゃ好きだったの! このゲームならだれにも負けないかも!」

「お、言ったな千乃。良いぜ、俺ら四人で勝負――」


 そう言いかけて。


「――いや、ここはタッグマッチといくか。俺と千乃、冬城と柏木さんでな」

「……良いぞ、受けて立とう」

「え、ちょっと、カスミ」

「うおっし、決まりだな。早速メダルに換えてくるぜ」


 その場を離れた辺は、しばらくして山盛りのメダルが入ったメダルカップを持って来た。メダルカップを配りながら、辺はルールを説明する。


「一人二十枚ある。これ以上の追加、譲渡はなし、制限時間は十分。より多くメダルを取れた方が勝ちだぜ」


 最後に、スマホのアラームをセット。


「分かった」

「へへーん、ゆっきーにだって負けないんだから!」


 ◆


 ピピピピッ ピピピピッ


 ――十分後。


 金魚すくいの画面にへばり付く、山崎千乃の姿があった。


「――あおりん……つ、強過ぎでしょ……はは、なにこれ……」


 乾いた笑みを浮かべる山崎の視線の先。柏木さんの目の前には、溢れんばかりのメダルが入ったメダルカップが鎮座していた。


 山崎は割と最後まで粘っていたが、辺は早々にメダルが尽きて脱落。対する俺と柏木さんは、片方がポイ型のコントローラーで金魚を追い込み、もう片方がそれをすくうという方法で大量にメダルを稼いでいた。


「てか、お前ら息ぴったり過ぎるぜ……阿吽の呼吸って奴なのか、これが」

「ゲームで俺達に勝とうなんて、十年早いってやつだ」


 ゲーム中の柏木さんは真剣そのもの、狩人の目をしていた。


「そう言えば、柏木さんってこのゲームやったことあるのか?」

「これが初めて、かも」


「「嘘」」「だろ!?」「でしょ!?」


 辺と山崎が同時に驚く。こいつらもなかなか息がぴったりだが……。


「小学生の時は……毎日のようにゲームセンターでこのゲームやってたあたしが……まさか初心者のあおりんに負けるなんて……」

「ははは、完全に一本取られたぜ、これは」

「――よし、次、次は負けないんだから! 何で勝負しよっか……」


 山崎は早くも立ち直り、考える仕草をする。


「――そうだ! あそこにあるMARI-KARTマリーカート! 次はあれで勝負しよ!」

「良いぜ、千乃。どこまでも付いて行ってやる」

「……分かった」


 ◆


 ――そのまた十分後。


 シートに腰掛けた状態で項垂れる、山崎の姿があった。


「うぐぅ……かてない」

「さっきも言ったことだが……お前ら、ほんとに呼吸合い過ぎるだろ……」


 山崎はコースアウトを連発。辺はドリフトを駆使して一位まで登り詰めたが、柏木さんの仁義なき甲羅によってゴール前で転倒し、最終的に六位だった。


「ふぅ。じゃ、今回は俺達の完全勝利ってことでいいか」

「……いや。最後にもう一勝負、しよ」


 山崎はよろよろと立ち上がり、クレーンゲームの方へと向かうのだった。


 ◇◇◇ ◇◇◇


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