第9話 春の始まり

「ごちそうさまでした」

「うむ、満足した」

「また来たいね」

「ああ、これからまだまだ通えるぞ」

「この学園の生徒になったんだしね」


 私達は席を立つと食器を返却して食堂を出た。


「さて、次はどこに行こうかな?」

「そうだな。腹も膨れた事だしそろそろ寮の部屋に戻らないか?」

「そうだね。ちょっと早いけど部屋に戻ろうか」

「うむ、では行くとしよう」


 私達は食堂を出て、自分の寮へと向かう事にした。

 しばらく歩いていくと、綺麗な桜並木が見えてきた。


「きれいな場所ね」

「ああ、春というのもあるだろうが、これはさらに別の何かがあるのかもしれないな」

「それって春の……」


 桜並木を見上げながら歩いている時だった。不意に声を掛けられて私は言いかけた言葉を飲み込んで立ち止まってしまった。


「学園生活は順調に送れているようだね」

「風巻翼……どうしてここに?」


 そこにいたのは私をCランクに位置付けた張本人、風巻翼だった。

 なぜ彼がここにいるのか分からない。まさか学食に行くところだと言うのだろうか。

 だとしたら道を譲ってやるのも吝かではないが、彼は私と話を続けてきた。


「綺麗な桜並木が見えたんでね。これにはやはりあれが関わっていると言えるんじゃないだろうか」

「春の魔法使い……?」


 私がそう言った時、急に風が強まって桜吹雪が吹き付けた。私は思わず目を瞑ってしまう。そして再び目を開けるとそこには風巻翼が変わらず微笑んで立っていた。


「やはり君はそれを知っていてこの学園に来たんだね」

「教えてやる義理はないんだけど、今の風はあなたのしわざなの?」

「違うよ。今のは春一番。ただの自然現象さ」

「そう」


 どう見ても狙ってきたとしか思えないんだけど、挨拶程度にむきになる事もないだろう。ただ風が吹いて花が舞っただけの事だ。


「そして、春の魔法使いへの歓迎の祝詞でもあるんだろうね」

「どういうこと?」

「君にはこの先、大きな試練が訪れることになる」

「え?」

「その時に君の力が試される。今のままでは到底乗り越えられないほどの大きな壁だ。だけど、君ならきっと大丈夫だろう。僕はそう信じているよ」

「何を言っているの?」

「まぁ、頑張ってくれってことだ。では、僕は学食へ行くからこれで失礼するよ。うどんが美味しいって評判なんだ」

「待って! あなた一体何を知っているというの!?」


 私は去ろうとする彼を呼んで引き留める。彼は聞きたいのかいって勝ち誇った笑みを浮かべた。


「何ってうどんが美味しいって」

「そうじゃなくて。それも気になるけど!」

「それを僕なんかに訊きたいのかい? 桜坂のお嬢様」

「…………」


 その余裕ぶった顔に私はカチーンと来てしまった。


「いや、いい。私には頼りになる友達がいるからね。この子と一緒に頑張る事にするわ」


 いきなり引き寄せられて聡美ちゃんがポカンとした顔をしている。風巻翼は可笑しそうに笑った。


「CランクとSランクが手を組んだか、それは楽しみだ。じゃあ、僕からのアドバイスだ。困ったことがあったら相談に来るといい。いつでも力になってあげるよ」

「分かったわ。その時はよろしく頼むわね。そんな時が来ればね」


 私が皮肉を込めてそう言うと、彼は目の前から去って行った。後には綺麗な桜景色が残るのみだ。


「ふう、なんか疲れちゃった」

「お前は主席のエリートとも友達なのだな」

「あんなのと友達なんて冗談止めてよ」


 それにしても気になる事を言っていたな。CランクとSランクだとか。Cランクは私だからもしかして聡美ちゃんはSランクなのだろうか。

 それがどれほど凄いのか私にはよく分からないけど、聡美ちゃんはまだ状況がよく呑み込めていない顔をしていた。


「ねえ聡美ちゃん。もしかして聡美ちゃんって強いの?」

「ふふふ、わらわが本気を出せば、世界が滅んでしまうかもな」

「そうなの?」

「うむ、だが、わらわが本気を出すことはない。この力は世界を守る為に使うと決めているからな」

「聡美ちゃんて偉い人なの?」

「さてな。だが、その時にはお前の事も守ってやるから安心するとよい。わらわ達は盟友だからな」

「ありがとう。でも、私も聡美ちゃんの事守るからね」

「うむ、お互い守り合うとしよう」


 聡美ちゃんと仲良くなった私は、その後二人で部屋に戻って来た。寮の部屋は出た時のままで日常に戻ってきたって感じがした。


「ただいま」


 そして、ここから始まるんだ。私たちの魔法学校での暮らしが。


「よし、ここから頑張ろう」


 私はそう決意するのだった。聡美ちゃんは眠そうに欠伸していた。

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四季おりおり 春風の魔法学校 けろよん @keroyon

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