第8話 昼の時間
「それでエリー先輩は何の部活をやっておられるのですか?」
背後に隠れようとする友達を気にしつつせっかく来たのだから踏み込んだ事を尋ねてみよう。気を取り直してきた私が前を向いて思い切って尋ねるとエリー先輩は気さくな笑顔で答えてくれた。
「ああ、私はね。魔法箒部だよ」
「「魔法箒部!」」
何ともファンタジーな名前が出てきましたよ。私も聡美ちゃんもびっくりした声を上げてしまう。
と言ってもここは魔法学校なんだから不思議でもないか。でも、どんな活動してるのか全く想像できないな。私は興味津々になって尋ねた。
「あの、具体的にはどういう活動をしてるんですか?」
「魔法の箒は知ってるよね? あれを使って空を飛ぶんだよ」
「魔法の箒で空を飛ぶんですか!?」
それはすごい! 私はやった事はないけど、そういう事ができるなら一度乗ってみたいものだ。
だが、期待する私にエリー先輩は注意するように言ってきた。
「ただ誰でも飛べるわけじゃないよ。魔法の力を使った特殊な飛び方があるんだ」
「へー、何だか面白そうですね」
「そうかい? 見せてあげたいけど許可を取った日時と場所じゃないとやってはいけない決まりになっているんだ。今日は先生もいないしね」
「あら、残念」
「今日は準備の為に来ていたんだけど、もしよかったら今度体験入部に来てみる?」
「いいんですか?」
「もちろんさ。部員は少ないけどいつでも歓迎するよ」
「じゃあ……」
私達が盛り上がっていると後ろの聡美ちゃんが私に声をかけてきた。
「おい、そろそろ行こう」
「え? まだ話してるんだけど……」
「いいから」
「うん……じゃあ、またよろしくお願いします」
「うん、待ってるよ」
もう少し話を聞いていたかったけど、仕方がない。
私は名残惜しかったがその場を離れる事にした。
「聡美ちゃん、どうして止めちゃったの?」
「お前は危機感というものを知らないのか? あんな怪しい部活に入るつもりなのか?」
「え、怪しいの?」
「当たり前だ。魔法の箒が空を飛ぶなんて現実にあると思うか?」
「まあ、確かに」
魔法の箒が飛ぶとか、ちょっと信じられない。普通なら笑い飛ばすところだけどエリー先輩は自信満々に言ってたな。
ここは魔法の学校だし、もしかしたら本当に飛んでしまうのかもしれない。だとしたら魔法ってすごいな。
私はそう思うのだが、聡美ちゃんは違うようだった。
「それに高い場所なんて怖いだろう? そんな場所に箒一本で挑むなどおそらくただでは済むまい。イカロスになるのがオチというものだぞ」
「ええ、そうかな。面白そうだけど」
「お前はあれか? 絶叫しながら面白ーいとか言うタイプか?」
「別にそういうんじゃないけど。お化けとか普通に怖いし」
寮の部屋に入った時に聡美ちゃんに驚かされたのもまだ記憶に新しいところだ。私は空を見上げる。この澄み切った空を箒一本で飛び回れたらきっと楽しいことだろう。
魔法の箒は気になるが聡美ちゃんが急ぎたがっているので私は諦めて先に進むことにした。
さて、次はどんな出会いが待っているのやら。
部室棟を離れて歩いていくと校舎裏に出てきた。そこは公園のような広場になっていて大きな木があってその下にベンチが置いてある。
「秘密の花園って感じ。ここで昼寝でもできそうだね」
「うむ、デーモンの召喚場所としても悪くはなさそうだ」
聡美ちゃんは何を召喚するつもりなのか。冗談なんだろうけど裏庭になっているここは人気が無くて静かだ。
私達はベンチに座って一休みする。歩いてきて疲れていた足にちょっとした休憩は心地いい。
「あ、なんかお腹が空いてきたかも」
「ふむ、もうすぐお昼だからな」
「食堂の場所って分かる? せっかくだから行ってみたいな」
「ならば案内しよう。この学園には学食もあるのだ」
「そうなんだ。楽しみにしてるね」
聡美ちゃんの反応を見ると美味しさに期待できそうな感じがした。
私達は立ち上がり、昼食を食べるために歩き出した。
しばらく歩くと、大きな建物が見えてくる。ここが食堂らしい。
中に入ると、数人の生徒達がいた。今日は入学式だけだが、帰らずにまだ残っている生徒たちもいるようだ。
もしかしたら私たちのように探検している人や、エリー先輩のように用事があって来ている人もいるのかもしれない。
私達は食券の自販機に行くと、聡美ちゃんが注文をする。
「わらわはオムライスにする」
「私も同じものにするね」
「ほう、桜坂の令嬢でもオムライスに目を付けるか」
「そういうんじゃないけど、あとあまり桜坂の名前を出さないでね」
「うむ、時が来るまでは目立ちたくないということだな。では、列に並ぶとしよう」
時とはいつの事だろうか。
考える間もなく聡美ちゃんが列に並びに行ったので、私も同じように列に並んだ。
「それにしても賑やかなところね。なんか普通の学食であんまり魔法学校って感じしないけど」
「この食堂は一般にも開放されているからな。普通の人でも使えるように作られているのだ」
「へー、詳しいね」
「まあな、だが中には一般の人は入れないエリアもあって、そこには限られた者しか入ることができない」
「何だか漫画で見たことがあるような設定だね」
「だが、現実にあるようだ。わらわは入ったことが無いので知らないがな。おっと順番が来た」
並んでいる間に会話を楽しんでいると、いつの間にか私達の番になっていた。聡美ちゃんがオムライスの食券を出すのを見て私も同じように食券を出す。
「オムライスをお願いします」
「はい、まいどあり」
お姉さんが笑顔で答えてくれる。何だかこういうやり取りって楽しくなるよね。
料理は別に魔法でやっているわけではなく普通にやっているようだ。ここの人達は魔法使いではないようだ。
私はいつになったら魔法が見られるのだろうか。気になりだした時、料理が出てきた。
「お待たせしました」
「よし、あそこの席で食そう」
私は聡美ちゃんの後に続いてオムライスを持ってテーブルに着く。
「ふむ、旨そうなオムライスだ」
「聡美ちゃんは食べるのは初めて?」
「前来た時はうどんを食べたな。あの味もなかなかだったが、これはどうだろうな」
「早く食べようよ」
私は待ちきれなくなってスプーンを手に取る。
「じゃあ、いただきます」
「うむ、頂くとしよう」
私達はオムライスを食べ始める。すると、先に口に入れた聡美ちゃんが驚いた表情を浮かべたので、私はスプーンを口の前で止めてしまった。
「おお! これは……」
「どう? 美味しい?」
「美味いぞ。何と言うかこうオムライスなのに違ったオムライスのように感じられる。これはいったい何なのだろうな」
「オムライスなのに違ったオムライスに感じる?」
聡美ちゃんの言っている意味は相変わらずよく分からないが、とにかく美味いという事は感じられた。
「うむ、美味いと評判は聞いていたが、これほどとは思わなかった」
「ほう、これは期待できそうだね」
「お前の舌を満足させられるかは分からんがな。だが、美味い。お前にも分けてやる。ほら」
聡美ちゃんが私の口の方にオムライスを差し出してくる。だが、私の手元にはもう同じオムライスがあるのだ。
「いや、いいって。私も同じの買ってるから」
「そう言えばそうだったな。同じ物を買うとは変わった奴だ」
今更言われても。聡美ちゃんは恥ずかしそうに席に戻る。
あの聡美ちゃんが我を失うほどの美味しさか。私はごくりと唾を飲み込んでスプーンを口に運んだ。
途端に私の意識も美味しさの渦に巻き込まれた。
「うわっ、何これすごい」
「な? わたしの言っていた意味が分かったであろう?」
「うん、こんなの初めてだよ。まるで魔法みたい」
「この学園の名物だからな。うどんも旨いから一度食べてみるといい」
「そうだね。今度は別のものも頼んでみようかな」
「メニューはまだたくさんあるからな」
まあ、それは後の楽しみに取っておくとしよう。
私達はあっという間に完食してしまった。
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