第7話 探索を始めよう
さて、始まったと言っても時間はまだ昼だ。これから何をやって過ごせばいいのだろうか。
ここで聡美ちゃんと見つめあっていてもどうにもならない。私は悩んでいた。これからどうやって過ごそうかと。
寮の見物も終わってしまったし、明日まで何もせずに過ごすとか? いやいや、まさか。せっかく来たのだから何かしておきたかった。
聡美ちゃんは動かない。緊張しているのだろうか。桜坂の名前でびびらせてしまったのかもしれない。ここは私から動かないとね。
「そうだ、まだこの学校の中あんまり歩いてないし、何があるのか敷地内を探検してみない?」
「敵情視察というわけか。悪くない考えだな。さすが我が盟友よ」
ここは敵地なのだろうか。そして、盟友とは。彼女の言っている意味は分かりにくいが、私達は早速出かける準備を始めた。と言ってもちょっと散歩をするだけで大して必要な物はないのだが。
ふと私は彼女が右腕を気にしているのに気が付いた。よく見ると包帯をしていた。
「あれ? その腕は怪我してるの?」
「そうではない。これは封じているのだ。邪悪な者をな」
「それって設定なの?」
「そうではない。お前はどうやら魔というものを知らないらしいな。ククク……」
まあ、そういうのはこれからこの学校で学んでいくのだろうし、何かの病気なら尋ねるのも悪いかもしれない。彼女は元気そうなので今は出かける事に意識を向ける事にする。
「よし、それじゃあ行こうか」
「うむ、いざ参ろうぞ」
私達は簡単な荷物を持って外に出た。友達と一緒に出掛けるなんて何だか不思議な気分だ。
私と聡美ちゃんは寮を出て、学校の敷地の探索を始めた。ここには何があるのだろうか。少しワクワクした。
まずは胸躍らせながら道をまっすぐに歩いて最初の分かれ道に到着する。
道は前と右と左とに分かれていて先に何があるのかは分からない。
「さて、どこへ行けばいいのかな」
「こういう時、案内図でもあれば便利なのだがな」
「見える範囲ではなさそうね。適当に行こうかしら」
「待て。お前は行き辺りばっかりで行くつもりなのか?」
「じゃあ、どっちへ行くの? 前か右か左か三択で」
ちなみに道を外れて進むという選択肢はない。聡美ちゃんの言った敵情視察といった言葉を信じているわけではないが、始めて来た場所で不注意な冒険に挑む気はなかった。
「ふむ、こういう時こそ魔法の出番であろうな」
「魔法を使うの?」
私は驚いてしまうが聡美ちゃんは何を当たり前の事をと言いたげにため息を吐いた。
そりゃ私だって使えるなら使いたいけどまだ何も習っていないので使い方なんて分からない。
それに香澄ちゃんは授業の時以外に魔法は使っては駄目だと言っていた。その事を話すと聡美ちゃんは不敵に笑った。
「不用意にはであろう? 今は必要だからいいのだ」
「でも、使い方がまだよく分からないんだけど」
「このブラッディ・クロノスを侮るでないわ。我にとっては昼飯前よ」
そう言えばまだお昼ご飯を食べていなかったな。これが終わったら食べに行こう。
彼女の態度は自信に満ちているが、もしかして聡美ちゃんは魔法を知っているのだろうか。彼女の挙動を見守る事にする。
彼女はすぐに魔法を使う事はせず、目元に当てていた指を前方の分かれ道の地面へと向けた。
「よく見ろ。ここでは道が三つに分かれておるだろう?」
「うん、それは見れば分かるけどそれが?」
「魔法学校にある物ならばこの配置には意味があるはずだ。それを読み解くとしよう」
「なるほど」
地道な気がするがここは誘いに乗っておこう。友達と一緒にゲームをするのも楽しいものだ。
私は聡美ちゃんと一緒にその配置の意味を読み取ろうと道をじっと見つめる。すると、三つの内のどれか一つだけ他とは違う輝きを放っているような気がした。
「こっちが何か光ってるように感じるわね」
「ほう、感じるか? お前もやはり入学を認められた魔法使いなのだな」
「まあね」
私は得意げに胸を張る。Cランクなんだけどとは言う必要はないだろう。そう言えば聡美ちゃんは何ランクなんだろうか。
不用意に尋ねて負けた気分になりたくもないのでここは黙っておこう。
「桜坂の令嬢が金に物を言わせて入ってきたのでは無かったようだな」
その発想は無かったな。まあ、言われてもやらなかっただろうけど。聡美ちゃんも本気では言っていないようで先に進む。私も前へと意識を向けた。
私達は光っていると感じた道を進む。するとその先には校舎を小さくしたような建物があった。
「これはもしかして部室棟なのかしら? 今日は入学式だから部活はやってないと思うけど」
「ふむ、そうだな。せっかくだから誰もいないうちに見学を済ませておくか」
「そうね。そうしましょ」
私達は友達のいない者同士、他人と関わらないうちに偵察を済ませようと中に入ろうとするのだが不意に後ろから声を掛けられてしまった。
「そこのお二人さん。見ない顔だけど見学に来た新入生かな?」
「「うわっ! はい、そうです」」
とっさに嘘が口を突いて出る。いきなりなんだから考える暇はなかった。隣を見ると聡美ちゃんも同じように驚いていた。
振り返るとそこには優しそうな先輩らしき人が立っていた。隙のない立ち姿でいかにもスポーツが得意そうに見える。
「こんにちは。私は新藤恵理。君達より一つ上の二年生だよ」
「はい、初めまして。桜坂園音といいます」
「黒野聡美……です……」
クロノスちゃんがびびりまくっている。人見知りが上級生に声を掛けられたんだから無理もないか。どうやら私は自分でこの状況を打開しないといけないようだ。
自己紹介を終えると恵理さんは嬉しそうに手を差し出してきた。
「同じ学校に通う者同士なんだからそんなに緊張しなくていいよ。仲良くやろうね」
「はい、分かりました。よろしくお願いします、えっと……新藤先輩」
「そう堅苦しく呼ばなくても、私はみんなからエリーって呼ばれてるからそう呼んでくれても構わないよ」
「じゃあ、エリー先輩って呼びますね」
「ああ、そっちの君も……」
「わらわの事は……聡美でいいです」
おい、クロノスはどこいった。聡美ちゃんは恐縮するばかりで私の背後に隠れていた。
そこは隠れ場所としてはどうかと思う。
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