第6話 寮の友達

「……いい景色だな……」


 なんて廊下の窓から外を見て現実逃避していてもどうにもならない。嫌な奴と出くわす前にさっさと寮を見物しに行こう。

 私は地図を開いて場所を確認し、校舎を出て寮へと向かう。

 学校の敷地は広い。寮も同じ敷地内にあるようだった。

 春の日差しのぬくもりを感じながら歩いていくとやがて到着した。


「ここか」


 そこは思ったよりも立派な建物で、中に入ると広々としたロビーが出迎えてくれた。


「凄いな。まるでホテルみたい」

「君君、君はCランクでしょ」

「はい、そうですけど」


 突っ立って見まわしていると係員と思われる人に声を掛けられてしまった。

 どうやら私は自分が思っている以上に有名人のようだった。もちろんいい意味ではなく。入学式で目立っていたんだから当然か。

 私は歓迎ではなく注意を受けてしまう。


「ここはAランクの寮だよ。Bランク以下はあっち」

「あ、すみません」


 そう言えば校長先生がAランクなら立派な寮とか言っていたのを思い出す。それがここというわけか。

 改めて失敗したなと思いながら頭を下げる。


「これからは気を付けなさい」

「はい、分かりました」


 怒られてしまった。ここで抗議をしても悪名が増えるだけだろう。

 私は言われた通りその場を離れて別の道を進む。すると今度は普通の建物が見えてきた。

 思ったよりボロでなくて安心した。漫画みたいなオンボロな建物が出てきたらどうしようかと思ったが、そこはさすがに新しい魔法の学校というところか。


「さっきよりは普通だけど私にはこれぐらいが合ってるのかもね」


 私は安心を覚えながらその建物の中に入って行った。

 今回は摘まみだされたりせず、玄関で簡単な手続きをして部屋へ向かう。

 ここは基本Bランクの寮だそうだが、Cランクでも問題ないようだ。こっそり教えてくれたところによるともっと格下の人もいるらしい。

 Cが最低ではなかったのか。考える暇もなく部屋に到着する。


「もうルームメイトは来てるのかな? 考えてみれば私にはそっちの方が心配だったんだよね」


 私は今更ながらにドキドキしてドアを開ける。中には誰もいなかった。


「良かった。まだ来てないみたいだ」


 私はほっとして部屋の中に入る。ベッドや机のある普通の部屋だ。

 物足りない気もするけどお風呂やトイレが付いているのは気に入った。


「ちゃんとお湯は出るかな?」


 備え付けのシャワールームを確認する。どうやらお湯は出るようだ。


「よし、確認終了。悪くはないわね。後はどんな子と暮らしていくかね」


 私は制服を脱いで部屋着に着替えようとする。するといきなり声を掛けられてびっくりしてしまった。


「ようこそ、我が盟友よ。この部屋は楽しんでもらえたかね?」

「うわっぎゃああああああ!」


 そこにいたのは同い年と思われる黒髪の長い少女だ。お化けではなく実在しているらしい。足もあるし。

 だが、いたか? いや、さっきまではいなかった。気配も感じなかったし。

 暗がりから歩み出たその少女は目が悪いのか眼帯をしている。彼女は黒いマントをなびかせて高らかに名乗った。


「ふっ、わらわの名はブラッディ・クロノス。貴様と同じ望む時を歩むものよ」

「えっと、中二病の方ですか?」

「そこに付いておる目は節穴か? わらわは貴様と同じ高一よ。だが、前世を合わせればすでに一万年生きていると言えるかもしれぬ」

「はあ、そうですか」


 何なんだこの子? 何だか苦手なタイプのような気がする。これから一緒に生活していくというのに困った私は床を見つめた。


「あ、学生証が落ちてる。黒野聡美……」

「ええい、勝手に拾って読むでない。これはお前がいきなり入ってくるから慌てて隠れて落としたのだ」

「ふーん、慌てて隠れたんだ」


 どうやらこの聡美ちゃん? という少女は私が緊張して不安だったように不安だったようだ。そう思うと何だか親近感が湧いてきた。


「それで聡美ちゃんは」

「ブラッディ・クロノス。軽々しくそっちの名を呼ぶな」

「ブラッディ・クロノスちゃんね。私は桜坂園音。よろしくね」

「桜坂だと!?」

「どうかしたの?」


 さっきまで動じなかった彼女があまりにも大げさに驚く反応をするものだから私もびっくりしてしまう。だが、続く反応は故郷で慣れ親しんだ懐かしいものだった。


「あの大企業の!? 桜坂グループの御令嬢か?」

「あ、その反応ここで初めてされた。最近忘れかけてたよ」

「ふむ、お前もなかなかに数奇な運命を背負っているようだな。これからよろしくな」

「こちらこそ」


 私達は笑顔を浮かべて握手を交わしあった。その時、私達は確かに数奇な運命に導かれて辿り着いた盟友の絆を交わしあったのかもしれなかった。

 こうして私達の学園生活が始まったのだった。

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