第43話 その後

何か音が聞こえる。それに妙に温かい。

そういえば私どうしたんだけ? あ! クロ君は!? 体を横にずらそうとした。その時、何かが私を支える。

瞼が重い、気を抜けばまたすぐに意識を失う。

でも、支えているのが何か、正体を見る為には開けないと。

目を開くとまず最初に、眩しい光が襲う。

思わず目を細めてしまう、それでも私を支える何かは分かった。

見慣れた手が私を支える。それにこの大きく見えて案外小さい背中。


「クロ君……ここは?」

「起きたと思ったら、急に落ちようとするのは勘弁して下さい!」


呆れた声でクロ君は言う。

落ちようとしないで? 私は今の状況を冷静に見る。

周りを見渡すと、明らか様に空の上にいる。


「えっ? なんで空にいるの!?」

「だから! 落ちるから暴れないで下さい」


私の体は横にずれ落ちそうになった。それでもクロ君の腕が支えてくれた。

私はその腕にしがみつく。

すると、クロ君が声を荒げて言う。


「せめて背中にして下さい! 腕が腕が攣る」


クロ君の焦りの声に従う、背中に抱き着く。

なんで今空に浮いてるの? クロ君の魔法? それにしては何か乗っている。


「ねぇ今どういう状況?」

「学園に帰っている途中です。本当に暴れないで下さいね。ワイバーンの背中に乗っていますから」


ワイバーンの背中? あ、アルトリアか。彼奴がクロ君に貸してくれた。

帰っている途中、つまりクロ君は……。


「勝ったって事?」

「はい勝ちました」


そっか! 勝ったのかクロ君は! 嬉しい。私が魔人を倒した訳ではない。

それでもクロ君が生きて、無事に帰れてるのか一番嬉しい。

何より魔帝の力に覚醒した、それだけでも結構成果は大きい。

まぁ私は肝心な所を見られなかった。


「ユウナさん。彼奴──リグは物凄く強かったです。決してボク一人では勝ってなかったです」


クロ君の思わぬ一言に胸がグッときた。

私は何の役にも立てず、彼のお荷物だ。そう自分自身で思っていた。それなのに彼は一人で戦ってはいなかった。


「私は何も動けなかった。ただ君を見守る事しかできなかった」

「それは少し違います。最後のあれでボクはリグに勝てました」


最後のあれ? 私は思い出す。顔が熱くなるのが分かる。

そうだ私クロ君とキスした!? 思い出しただけで、顔は熱いし恥ずかしい。


「そういえば何であんな事したんすか? 一つ間違えれば連れ去られても可笑しくない」


クロが言っている事は間違いない、一つ間違えれば私は連れて行かれた。

それも目的である、魔帝の剣も目の前に合った。

腑とあの時の事を回想する。

         ◇


「これでお前を助ける者はいない。さぁ魔帝の剣と共に来て貰おうか」


魔人がジリジリと近付こうとしてくる。

クロ君の意識はゼロ、腹を貫かれたけど、血は出てない所を見るとまだ死んではいない。

治癒魔法を使えば、クロ君は助かるかもしれない。でもどうやって魔人の中を、掻い潜ってクロ君の下に行く? 私にそんな力はない。

じゃあクロ君を見捨てる?


「そんな事できる訳がない!」

「あ? 頭でも可笑しくなったか?」


魔人は嘲笑う。

好きなだけ嘲笑えばいい! 地を蹴り疾走する。

少しの攻撃の被弾覚悟で、クロ君の下へ走った。

魔人は攻撃のモーションを取った、けれどそれを辞めた。隙が生まれる。

足を止めず、クロ君の下まで辿り着けた。

魔人がニヤリと口角を上げたのを、見逃さなかった。


「お前はつくづくバカだなリステリ! これこそがオレ様の狙いだ」


私はまんまと魔人に誘導された、でも! そのお陰でクロ君を助けれる。

魔法を使うのは苦手だ、それでも治癒魔法は誰よりも得意。

お願いクロ君戻って来て! 


「バカが! 回復する前に連れ去る」


魔人の手が私に差し掛かる。次の瞬間。

魔人の体に鎖が巻かれ、捕縛状態になっている。何処から鎖が出ている? 尻目で探す。

と、ヴァニタスの魔導書が現れ、鎖を出している。

じゃあクロ君は? 意識が戻ったのか、確認をするが、まだ戻ってない様子。


「くそが!! なんだこの鎖!? 剥がれろ!」


魔人は声を荒げ、雄叫びを上げる。けれど鎖は離れない。

どうやったらクロ君は意識を取り戻す? 考えろ、治癒魔法は施した。

後はクロ君が意識を取り戻すだけだ。

次に私はどうすればいいか分からない。

次の刹那、脳裏に言葉が過った。

『力を使え。己の力を』

力? 私の力……!! 魔人が言っていた。『禁羅支配ヴァルナノヴァ』それしかない。

でもあれは謂わば反射攻撃。クロ君を助けるに至らない。

いや本当にそうか? 


「……これならば君は復活できる!」


ごめんねクロ君。君は私にされて嫌かもしれない。それでもする。

クロ君の顔に手を置き私はキスをした。


         ◇


「なんか直感だね。自分の力を使えば君を復活できると思った」

「まぁ実際復活できて、リグに勝てました。全部ユウナさんのお陰です」


ううん違うよ、私はただきっかけを上げたに過ぎない。後は君の実力さ。

まだ誰も知らず、私だけが知っている。

『ここに現代へと甦った新たなる魔帝』

君は今間違いなく、誰よりも強いよ。


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最強の魔帝の少年〜魔力がゼロの無能と思われているが実は最強。落ちこぼれの令嬢を守る為に力を奮い無双する 黒詠詩音 @byakuya012

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