審判【読切短編】

Grisly

審判

地獄の閻魔大王の元に、

資料が届けられた。


「今年はこれらのことが改正になります。

 必ず目を通されるように。」


法律改定。

毎年、新年の慣例である。

何万年もの間、変化のない

地獄とは違い、

地上の世界は、目まぐるしく変化する。

審判の際にも、対応が求められた。




閻魔大王は必死に確認する。

天国行きか地獄行きかを決める審判の際、

何か間違いがあったら大変なのだ。

冤罪事件の比ではない。

人の一生は長くて100年程度だが、

地獄の裁判の結果は、永久にそのまま。


年明け1人目の審判。

過去に罪を犯したが、悔い改め、

生前、ボランティア活動や募金活動に、

力を注いでいた青年。

なんとしても救ってあげたい。



閻魔大王、資料を繰り返し何度も確認。

今年からはその罪は軽減され、

地獄に落ちるほどでもなくなっていた。


「なるほどお前は、

 去年までなら地獄行きだったが、

 よく見ると、今年からは天国でも

 問題ない。良かったな。」


青年、涙を流し、喜ぶ。

「ありがとうございます。

 私は自らを悔い、

 地獄行きも覚悟してきました。

 閻魔様の寛大な心。

 こんな結果がいただけて、

 お礼の言葉もありません。

 これからは改心して頑張ります。」



無事、審判が終わり、

ほっと一息つく閻魔大王。

1人の青年を救うことができた。

こういうことがあるので、

毎年、慣れるまでは気が抜けないのだ。

しばらくは、

資料を手元に置く必要があるな。


しばらく経って、

閻魔大王の顔が青ざめる。

「いや、待てよ。

 これでは本来、地獄行きの者達が、

 天国へ行っていることになるぞ。

 逆もまた然りだ。


 このままでは、年によって、

 天国と地獄は真逆の場所に…

 内部崩壊を起こしかねない。


 いや、それ以前に、

 天国と地獄に分ける意味が、

 一体どこにあるというのだ。」





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