第3話 戦闘狂美少女に追いかけられています




針ヶ谷鈴音はりがやすずね! よろしく!」

 

 ピンクのボブヘアに、水晶みたいなグレーの瞳。顔も小さく手足も長く、とにかく可愛い。


 ま、眩しい。芸能人を生で見たらこんな感じかな。この子がチュートリアルなの!?


「お、おはよう針ヶ谷さん……」


「す・ず・ね!」


「あ、はい! 鈴音ちゃん!」


「レナってコピーする異能があるんだよね? ノイズ先生から聞いたよ!」


 つまり作戦大成功。気がついたら腕を組まれ、寮の廊下を歩いていた。


 もうどうにでもなれ! 


「えーと、鈴音ちゃんの属性は……金属性きんぞくせいだよね」

 

 鈴音のネクタイはグレー。金属性には岩や宝石、金属に関する異能が分類される。


 ちなみに結構人気がある属性だ。そして残念ながら虫属性はあまりない。それはいいとして。


「どんな異能が使えるの?」


「どうだっ!」


 演舞してくれた。拳が銀色に。


「タングステン! 世界一重い金属に体を変えられるの!」


 重戦車タイプか。それで暴れたらかなり強いよね。


「ええと、私は」


「チョウチョを出せるんだよね! アンドコピー! 先生に聞いた!」


 声がでかい! このテンションについていけるのかな私。とりあえず相槌だけ打っておこう……。


 そのまま女子寮の階段を降り、談話室を抜け、食堂に……。ってあれ? 異能訓練場に向かってるぞ?


「鈴音、これって」


「訓練場でバトルだ!」


 なんだこれ! 私はノイズ先生に絡まれた時と同じ気持ちに。


「いやでも朝ごはん……」


「パワーバーどうぞ!」


 スッと差し出される棒状のお菓子。ここは迷わずダッシュ。


 これでもバトル科に合格するために鍛えてたんだ……鈴音はパワーバーを持って追いかけてきた! 


 お互い鍛えてるんだった! 負けるか! 白米もしくはパンが逃げる!


「食べようよ〜!」


「朝は普通に食べたい!」


 命からがら食堂に到着。鈴音はあろうことか男子たちに手を振る。元々なかった私のライフはゼロに近くなる。


「あっち行こ! 加賀かが穂村ほむら知ってるでしょ?」


 ごめんわからない。でも遠くからでも陽キャだってわかる。私如きが話しかけられる相手じゃない。


 まさか同じ席に座る気!? それだけは嫌だ!


「じ、実は秘密の戦略を練ってて……聞かれたら困る的な……」


「お! ならば隅っこでヒソヒソだ!」


 ああよかった……ってこれバトルの話しまくるパターン!? 







 なんとか陽キャ男子を回避し、朝食を確保。よかった……


 だがトイレで一緒に歯を磨いていたら、鈴音がとんでもない提案を。 


「授業サボろ!」


「ダメでしょ!」


 ノイズ先生は見逃してくれそうだけど、数学と英語と現代文と生物の先生は許してくれないと思うよ!


「どうせあんなの異能師に必要ないでしょっ?」


「ダメだって! 行こう!」


 今度は私が鈴音を引きずる番だった。







「数学サボろうよ! 電卓あるし!」


「方程式って面白いじゃん!」


「英語サボろうよ! 翻訳アプリあるし!」


「スマホ壊れたら困るでしょ!」


「現代文サボろうよ! どうせ登場人物の気持ち考えるだけだよ!」


「あれ結構楽しいよ!」


「生物サボろうよ! 私たちが生物じゃん!」


「そうだね! サボらないよ!」


「お昼? 訓練場行こ!」


「嫌だ! 今日ハンバーグだもん!」







 コントみたいなやりとりを午前中続け、やっと午後。午前中は普通の授業で、午後はバトルを学ぶのだ。


 私たちは異能訓練場の大部屋1ーRに集合。名前の通り1年龍組専用なのだ。


 生徒は全員黒ジャージ。ちなみにネクタイと同じ異能テックが使われているので、ジャージのラインは属性カラーになっている。


「バトル学楽しみだよね!?」


 そして横にはしっかりと鈴音が控えている。腕もがっしり掴まれている。


「うん……楽しみ」


 嘘じゃない。でも鈴音のテンションについていけるのかな……先生の登場だ。


 入試で着ていたクノイチコスではなく、タンクトップにヨガパンツ。美人はなんでも似合う。


「お疲れ諸君! 早速授業を始めるぞ! まずはお互いの異能を知ることからだ!」


 先生は演舞を。セミが大爆発。どよめきが。


「次は貴様らの番だ。トップバッターをやれる勇敢なガキはいるか?」


「はい!」


 鈴音が真っ先に手を上げ、先生の横に。そして全身の皮膚が銀色に。


「タングステンになれます! 重くて硬くて頑丈!」


 またまた湧き上がる観衆。これは強力だ。たいていの異能は通らないんじゃないか……。


「そして大親友でライバルのレナです! この子はコピーができるんです!」


 もしコピーしたらきっと強力な武器に……え?

 

 なんで私、みんなの前に立ってるの? 横には鈴音がいるし……嘘でしょ!? 引っ張り出されちゃった! メイク崩れてないよね!?


「さあ、コピーどうぞ!」


 みんな見てる。もうやるしかない。私は鈴音の手に触れた。そして腕だけタングステンにする。


 お、重い! 世界一重い金属、重い! プルプルしつつもなんとか立つ。さらに盛り上がるみんな。


「コピーだって」「チートかよ」「すげー!」と好意的な声ばかり。そこに悪意がないことに、私はタングステンのまま驚いた。


「素晴らしいぞ2人とも! では次の犠牲者は誰かな? 早めに終わらせたほうが楽だぞ!」





 


 バトル学が終わった後も、鈴音は変わらず元気。私はぐったり。


「レナすごいね〜」


「す、鈴音もね」


 笑顔がとても可愛い。まるでチアリーダー。ちなみにチア部だったそうだ。昼休みに聞いた。


 やっぱり可愛いは正義、私なら同じことはできない。でも楽しくなかったと言えば嘘になる。


 人前であんなにはしゃいだのは初めてだもん。


「そうだ! この後自主練しようよ!」


「いやそれは……」


 さすがに体力限界だ。すると助け舟が。


「楽しそうだな針ヶ谷。池亀と話がしたいから、席を外してもらえるか?」


 ノイズ先生! 助かりました! この際イカれててもいいです! 


「はい! じゃあレナ、いつかあたしとガチバトルしようね!」





*********





 自習室1に移動した途端、体の力が抜ける。


「あ、嵐みたいだった……」


 チュートリアルじゃなくてラスボス。でも先生は拍手。


「上出来だ」


「振り回されてただけですけどね」


「貴様はちゃんと人と話せる、わかっただろ?」


「確かに話せてましたけど……」


「貴様に足りないのは自信だ。成功体験を積んでいけば、自信は後からついてくる」


 そうだよね。今日、すごく楽しかったし。


「ありがとうございます、先生」


「ではコピーを見せてくれ! 爆破させてもらうぞ!」


 あ、この人も同類だったんだ!

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