第2話 イカれ女教師に洗脳されました




「まったく、ガキはすぐ自信を無くすから厄介だ。これで私の好奇心も満たされるってわけだ!」


 洗脳……洗脳ってなんなの……私が突っ立っているうちに、先生は話を進めてしまう。


「これから月曜と金曜の放課後、自習室1に集合だ」

 

 そういえばこの部屋、自習室なのに何もない……と思っていたら、先生が壁を叩いた。


 黒いドアが現れ、中にホワイトボードが。おお、さすが晴明高校。先生はペンを手に取る。


「コピーするだけではダメだ。使い方を知らなければ、大惨事になりかねない。正しく学ぶには、コピー相手との良好な関係が必須だ」


 お、急に真面目な話になった。確かにその通り。研究とか言ってたけど、やっぱり異能師として教師として声かけてくれたのかな……。


「面白くなってきたぞ! 洗脳してよかった!」


 やっぱりこの人おかしい! 


「そんなわけで池亀の友達作り作戦を開始するぞ! 最初は……」


「ま、待ってください! ど、どうしても勇気が持てなくって……」


「仕方ない。私が貴様の長所を教えてやろう」


 無駄無駄。真面目、いい子、おっとりとしてる。地味女子褒め言葉トップスリーを投げつけられるんでしょ……。


「まずは結構可愛いところだ」


「いや可愛くないですよ!」


 思わずツッコミを。そんなの言われたことない。両親は言うけど、そりゃ自分の娘は可愛いでしょ。


 すると先生は私の頭部を指差した。


「一見普通の黒髪ロングだが、手入れされているのがわかる。清潔感は問題なしだ」


「でも美容師のお姉さんにやり方聞いただけですし……」


 入学前に一応気合いを入れたのだ。あくまでも一応ね。メイクの練習だって頑張ったさ。一応ね。


「美容院に行く勇気がある時点で大したもんだぞ?」


「陰キャの大変身動画見て、その美容院に行っただけです! 調子乗ったんです!」


「変わる意志があるのは大したものだ。何より異能バトル科に合格した。

 合格水準達成するのは難しいんだぞ。まぐれだとか言うなよ? あの蝶だけでも結構肝を冷やしたぞ」


 確かに異能バトル科はたった2クラス、龍組と虎組しかない。しかも1クラス16人。普通科や異能テック科は1クラス30人ぐらいいるし、相当な難関かもだけど。


「で、でも動機だって不純ですよ! クラスで最底辺だけど、異能師になれば輝けるかもって……」


 これならどうだ。入試では口が裂けても言えなかった、本当の志望理由。さすがに呆れる……。


「問題なし! 異能師になりたい理由なんて、モテたい目立ちたいが9割だ。治安と市民を守りたいとかの方が少数なんだな!」


「そんな裏側知りたくなかった!」


「とにかく私が言いたいのは、貴様は努力できてるってことだ。

 何かを頑張れるなら、人間関係でも同じことだ」


 そうなのかな……でも自分が頑張ったことが評価されるの、すごく嬉しいかも。すると先生は肩をポンポン。


「では、池亀レナの異能研究を始めるぞ!」






【池亀レナの異能研究

 最終目標:クラス全員の異能をコピーする

 中間目標:クラスの半分(8人)と友達になる

 第1目標:自信を取り戻す

 やること:女子1人と仲良くなる】


 ホワイトボードに計画表が。まずは女友達を作れってことか。


「明日やることは1つ! 針ヶ谷鈴音はりがやすずねと友達になれ!」







「ええと、誰でしたっけ……」


 なんせ初日、誰が誰だかわからないし。


「私の方から口添えしておく。チュートリアルってやつだな」


「口添え!? ダメですよ! 針ヶ谷はりがやさんって子に迷惑ですよ!」


 よくある「あの子と仲良くしてあげてね」ってやつだよね。誰だか知らないけどかわいそうだ。


「大丈夫だ、なぜなら」


「いやでも……」


「つまりだな……」


「ですから……」


「ちなみに話を遮るのは良くないぞ。否定から入るのも良くない。嫌われる話し方ツートップだな」


 これは先生が正しい。否定しない、遮らない。よし。なにがなんでも遮って全否定しよう。


針ヶ谷鈴音はりがやすずねをターゲットにした理由は1つ。バトル好きだからだ」


「バトル好き?」


「自己紹介プリントにデカデカと書いてたんだ。早くバトルがしたいって」


 ちなみに私は『出身地:横浜』ぐらいしか書いてなかったな。紹介できる自己なんてないし。


「貴様には面白い異能がある。それを私が針ヶ谷に囁く。ヤツは大喜びし、貴様にバトルを申し込むというわけだ。チュートリアル向きだろ?」


「うーん、戦いならやってみたいかもしれないです」


 これでも異能師の卵、やっぱり異能バトルはやってみたい。


「決まりだな。じゃ、解散としようか。寮の部屋を片付けておけよ。それと……」






*******+



 




 そう、異能バトル科は全寮制なのだ。しかも1クラスに1棟の豪華仕様。ちなみに普通科と異能テック科は自由という不思議。


 学校アプリの地図で場所を確認し、出向くと立派な2階建てが。門には「一龍」と書かれている。わかりやすい。


 1階には談話室と男女別ランドリー、自販機が。談話室でおしゃべりするクラスメイトを尻目に、2階の女子寮へ。


 嬉しいことに1人1部屋、トイレとシャワーとエアコンもある。ドアを開けると、大量の段ボールに白い家具がお出迎え。


 疲れたな。私はそのままベッドに倒れ込んだ。


 







 それにしても、今日は変なことがたくさんあった。


 サマーノイズ先生に目をつけられ、ガキ呼ばわりされた挙句あっさり洗脳され、友達作りの練習をすることになった。


 いやこれまずいでしょ! このまま流されちゃっていいの? 


 でも嫌な気持ちはしなかったんだよね。だって先生、私が言って欲しかったことを言ってくれたから。





 去り際、先生は私にこう囁いたんだ。


「貴様がはしゃぐ権利を、私が取り戻してやるからな」 って。





*********





 スマホのアラームに叩き起こされ、私はベッドから起き上がった。今日から授業が始まる。


 針ヶ谷鈴音はりがやすずねという女子と仲良くなれ。昨日与えられた課題。


 先生曰く戦闘狂なので、私の異能に飛び付くはず。人馴れチュートリアルに最適だと。


 そんな上手く行くのかな。考えていても仕方ない。私は急いで身支度を整え、姿見でチェックした。


 そこには小綺麗にしただけのぼっちが。でも先生は可愛いって言ってくれた。いやいや、調子に乗っちゃダメだって。


 早く行かなきゃ。黒ローファーに足を突っ込み、寮のドアを開け……。






「おはようレナ!」


 めちゃくちゃ可愛い女の子が、まるで10年来の親友みたいな顔をして立っていた。

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